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第57話 ミアカ『移譲と指導』(2)

 私の家の牛舎、牧草地、牧草ロールを作るための農機のはいった車庫を私の家からこの『ミアカ』へ譲渡する。


 移転地として、村の横の雑草地が選ばれた。


 魔女さんは先に私の家の一部、今回移転する部分についてマーキングをしてきてあり、準備万端だ。

 

 牧草ロールは私がきちんとしかるべきタイミングで指導しにくることを打合せ済みであり、とりあえずは農機のはいった車庫だけを移転して結界をはっておくことにした。元々の私が無意識に張っていた結界と同レベルの結界をそのまま移行となっているため、ここは私か兄が立ち入るほかは、農機を取り出すことができない。

 どうせ兄はやらないとは思うけど。

 

 私の家は”救国の魔法使い”の助力により時間が動き出したものの相変わらず強固な結界は健在で、私が個人由来で許可した範囲を除き、立ち入り禁止結界が持続している。しかも、その立ち入り禁止としている結界内は私か兄がいるタイミングじゃないと立ち入ることができないように自動的になっているため、結界セコムかアルソック。


 結界の時間停止は、私のもつスキル【時間干渉】由来だったので、兄もこの世界に私と同時に転写されていたものの思い切り巻き込まれ、動けずにいたのだろう。


「皆のもの、準備はいいか?いくぞよー!」


 いつもの語彙と違う謎の気合を凍結の魔女が入れつつ手に持つ杖を軽く振ると、白い雲が現れる。魔女はその雲に飛び乗り、空中にゆっくり浮かび上がっていった。私たちは間違っても邪魔をしたらまずいので、意思なきモヤとなっている村人しかいない、まるでホラーな村の中に避難していた。うらやましいな、筋斗雲(仮)。白いけど。

 こう考えると、モヤになっても意識を保っているモヤ王はきっと何かが意志疎通のできないモヤとなってしまった住民とは何かが違う。王だけにきっと凄いのだろう。

 

 筋斗雲(仮)で上空10メートルに浮かび上がった魔女さんがすっと杖で空に円を描くと、上空に薄く丸い雲が発生。その雲を地上にそっとおくように杖を振ると、雲はゆっくり地上に向け動き、接地すると同時に閃光が走り、牛舎、牧草地がふわっとその場に現れた。なんとソフトタッチな優しい魔法だろうか。うちの牛ちゃんたちへのストレスもこの感じでいくと最低限なんだろう。


「魔女さんの魔法、すごいね。」

「今回は、異世界からの転写ではなく、同一世界の中での移動なので、チーズさんが来た時のような雷鳴のような衝撃もおきず、雲をつかったソフトタッチな貼り付けができていますね」

 

 作業が終わったため白い筋斗雲の高度を下げ、魔女さんが降りてきて着地、雲は消滅する。


「本当に魔法が安定してるのう。確かにこれであれば、この村ぐらいは復活させても問題あるまい」


 貼り付けられた農場から農場とともに転移してきた兄と救国の魔法使いがこっちに向かってくる。

 魔女さんはすかさず、ばればれな姿隠しの魔法を苦し紛れに使い、逃亡を計ろうとした時、魔女さんは魔法使いさんに簡単に腕を掴まれた。


「やっと捕まえた」


 魔法使いさんは、とても切なそうな声で呼びかけている。


「捕まらんわ!」

「そんなに私と過ごした時はつまらなかったかい?気絶するほど嫌かい?」

「千年前のことなんてとっくの昔に忘れたわっ」

「記憶を捨てたのは君だろ」

「……それは、そうじゃが」


 そうつぶやき、魔女さんは無言で掴まれた腕を振りほどき、村の方に向かう。救国の魔法使いは、とても、泣きそうな顔をしている。

 

「さて、凍結解除をして目を覚ました時点で村人たちにわたしの姿が見えてしまうと色々問題がある可能性がある。姿くらましの魔法を自分にかけたうえで、村人を復活させ、結果を見届けたらその足でそのまま王城へ転移する。いいな?」

「お供します、■■様」

「あい、わかった。イオはかわいいな」


 そう言うと、魔女さんは今度は地上に立ったまままず、自分に姿くらましの魔法をかける。そして、今度は村全体に霧をかける。後から聞いた話だと、【解呪の霧】とのことで、村全体にくまなく行き渡り、モヤと化していた人が形をなし、人型をとりだす。


「よし、これでこの村は復活するはずじゃ。というわけで退散するぞイオ!」


 そう言うと魔女さんのいた空間がゆがみ、魔女とイオくんの気配が消えた。


「あーーもう!気を取り直さなきゃな!」


 そう叫び、両手で両頬をパンっとたたき、兄の横で魔法使いさんが気合を入れている。その様子を見ていた我が兄が「後で尋問な」とか言ってる。怖い。男同士で好きにやってくれ。


 それから5分。村人たちは姿を取り戻しつつあるが、凍結の魔女曰く、姿を取り戻した後10分は体の再起動に時間がかかるから放っておくように、と聞いていたので、じっと待つ。


「師匠にはイオがついていますが、チーズさんには僕がついてますからね!」

「どういう意味なのスパルタ護衛のアオくん」 

「文字通りです、美味しいごはんで働きます」


 とか言っている。


 まもなく村人たちが姿をとりもどしてから10分が経過。体の再起動完了と同時に【ステータスボード】が再起動、それを確認した魔法使いさんによりマニュアル項目に私が昨日頑張って作った畜産マニュアルが一斉インストールされる。

 

 それと同時に再起動した人々が、こちらの姿に気が付き、ほぼ雲の子を散らすように逃げた。

 見知らぬ人間を警戒するほどに、かなり人の来訪のない村だったのだろう。しかしここまできれいに逃げられると少し傷つくじゃないか。


 そこで颯爽と村人の前に登場したるは「救国の魔法使い」。

 人当たりがよく、顔が良い。ついでに自分を比類なきカリスマだと思っていて、並び立って顔が良い兄が横についている。


「皆様、私の話をきいてくれますか。今日は貴方たちに王の命により新たな仕事を届けに来ました。まずは、【ステータスボード】のマニュアルを見て見てください」


 そう、村人全員の頭に直接話しかけている。そんなスキル持ってるの、神か何かっぽい。

 兄はどういうつもりか、何をするわけでもなくにっこにこしながら魔法使いの横に立っている。


 この村に酪農業を移譲するために作成したマニュアルは開くことにより、その内容が体にもインストールされ、疑問に思えばすぐにチャットボットのようなものが立ち上がり、定型の質問であればいつでも答えてくれるという優れものだ。しかし本当にゲームのようなこの世界、電脳世界のようなハイテクぶりもあるのに魔法がメインというなんとも言えないアンバランスさがある。誰もが疑問にも思わずこの【ステータスボード】を使用しているのも、すごいことだとおもう。

 そして村人の持つ画面では今、『村の東側空き地へ』というナビが表記されている。

 

 そのおかげもあり、魔法使いのもとには、先ほど私の姿を見て逃げた人を含め、続々と村人が集合しつつあった。


「さすがのカリスマですね…」


 アオくんは感嘆の声を漏らした。

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