第51話 ナット『世界への適応ともう一人の異世界の君』(1)
兄まで何故か転写されていた。
驚き過ぎたが、とりあえず、シャワーを終えて出てくるまでリビングで待つことにした。
「あの人がチーズさんのお兄さんなのですね」
「人1人分のリソースを割いて転写したはずが、2人分あったとなればこの不安定ぶりはあってもしょうがない、仕方がない」
魔法使いと魔女の弟子はくつろぎながら勝手知ったるように冷蔵庫でつくってあった麦茶を出してきて飲んでいる。まあ、来客だしなと思い、買い置きしてあった塩せんべいをお茶請けに出して揚げた。
魔法使いさんが「そもそもの転写の目的は国を復興させて世界を救うだから、二馬力になったってことかな?」とか宣ってるけど世界を救うって?
きっとこれは聞いても答えてもらえないものだろう。アオくんがまず疑問を持った顔をしている時点でこれは一般的な知見ではないってことと理解しておこう。
◇
「お待たせ~久々の兄の帰還だぞっ!開業資金も溜まったしそろそろ自分の店でも始めようかと思って北海道に帰ってきたわけだよ。っていうかこの顔のいい兄さんと顔のいいちびっ子は一体誰?農業体験しにきたの?」
兄さんは身長が178あって、黒の短髪、体格はかなり鍛えているようで暫くみないうちに太って見えない程度ではあるがかなりしっかりしていた。今はTシャツにジーンズのいでたち。胸筋がにゃきっとみえてるし。
「お邪魔しています」
救国の魔法使いさんとアオくんがそう言い、兄とお辞儀しあう。アオくんはきっと顔立ちでちびっ子と言われたけれど、15歳ってちびっ子か?という疑問は心にしまっておこう。
「兄さん一体いつ帰ってきたの?」
「昨日だけど。家に帰ってきたら誰も居なくて、時差ボケで眠いから自室に戻って寝て起きてシャワー浴びて今よ。部屋残っててよかった~!」
時差ボケってどこ行ってたんだ兄よ。そして昨日?
しかも、この家の時間が止まっていたことを考えると、もしかして私が両親を空港まで送っていったとき空港から家に向かってた?!そして私が帰ってきた時点で自室で寝てたっていうのもしかして。
確かに家の中見まわったときには兄の自室なんて見ていない。そもそも居ないって思ってたし。
兄、巻き込まれ転写されてた。
兄さん、落ち着いて聞いておくれ。そしてとりあえず、一回外に出てみよう。ここは北海道じゃないんだよ。
昔からテンションが高くて面白いものが大好きで底抜けに明るい兄であったけれど、料理人になるといって東京に出て行って以降本当に会っていなかったから、久しぶりに浴びる兄、キャラが強い。
その流れで救国の魔法使いさんが、今までの経緯をあらかた説明した。そうすると、兄は魔法使いさんの顔をじっと見、わかった。と言った。
何がわかったんだ。そしておもむろに玄関に向かい外に出る。
「うわ、周りなんもないじゃん。風景が全然違う。面白い。ちゃんと帰ってきていつもの家に寝たはずなのに、寝て起きたら異世界とかもしかしなくても未知の食材がオレを待ってる可能性~!食の探求、食に対する好奇心なきゃ料理人なんてなってないよ。いいじゃん異世界」
そんな事を外出した途端言ってるし、一体どういう世界で生きてきたんだ兄はこの約10年。
「そこの顔のいい兄さんと少年、そのうちできるオレの店手伝ってくれよな!」
突然のスカウト、そしていい笑顔。
「いや、突然何言ってんの。申し訳ないでしょ!」
「いいよ、こう見えて私接客業も得意だよ」
そう魔法使いさんが腰に手を当てえ言う。マジか~。アオくんは「やっとことないです!」と言っていた。




