第44話 緊急帰還(1)
魔女さんに理由もよくわからないままさんざん脅されたため、夜のうちに野営地から出立することにした。
あそこまで言うということは、本当に「魔女さんにとって」厄介なのだろう。しかも、アオくんは弟子になってこのかたその人物には一度も会ったことはなく、加えてあんなに動揺する魔女さんは初めて見たという。
静かにテントを収納し、ほぼ寝静まった野営地を後にする。相変わらずネルドは煌々と燃えさかっていて、この野営地もずいぶんと明るい。
寝ずの番をしている冒険者さんには「Fランク冒険者が夜長距離移動することは危険だ」と言われたけれど、「急遽帰らなくてはならない通信が入ったので、目的地までご一緒できないのは残念ですが、出発します」と伝えた。鬼気迫った顔をしていたせいか、それ以上強く止められることはなかった。
「アオくん、準備はできた?」
「ノー魔法の帰路ですよね!チーズさんが整備してくれたのでボードの調子もばっちりです、いけます」
まず、ある程度足で走り、一目がつかなくなったと判断されたタイミングでボードに乗り、砂利道を走る。帰り道は行きに利用したキャンプ地に寄ることすら却下された。ほんとどんな相手なの『救国の魔法使い』とやらは。
私はメイン武器の銃を失ったまま走ってること、アオくんの魔法が禁じられていることから、極力雷魔法の補助魔法である麻痺を連発し、襲い掛かる低レベルモンスターたちは全部麻痺させて疾走する。レベルだけは無駄に高くなっているためHPも減らないし、MPは潤沢だ。
麻痺魔法の効果が持続中にモンスターの体力が尽きた場合、倒したという判定となり、夜なこともあって結構な数を蹴散らして走っているがためにフリースペースの魔石ゾーンとドロップゾーンに次々とアイテムが蓄積されていくという面白い状況になった。あと、剣や杖、槍などドロップ品も一定数ある。私にふさわしい銃をくれ、銃を。
そんなわけで鳥、虫、スライム、木っぽいの等もう、申し訳ないぐらいにたくさんのモンスターを蹴散らした。
結構走ったところでちょっと小休憩をとる。
そこで思い立つことがひとつ。バカ正直に商売になるから使うな、とか言われてたけど緊急だからもういいことにしよう。
「ねえ、もう帰路に特に誰かと会うとも思えないから、私のとっておき出すけど怒られたら一緒に怒られて」
「今度は一体何を出すんですか」
フリースペースから二人乗りのファットバイクを出した。黒くてシートもピカピカな、帰省したときに買ったとっておきだ。農道や草むらを走るためにタイヤ口径大きめのでかっこよかったので原付カスタムで買ったので、この世界では絶対いらない登録番号までついている。
少年よ、こういうの好きだろう?私も好きだ。
目を輝かせているアオくんにアオくんの魔法が禁じられている今、私が戦闘を担う手前本当は運転してほしいんだけど、まあ自転車みたいなものだから予行演習がなくても行けるとは思うけど、リスクは避けたい。デモンストレーションとして最初はまず、私が運転しよう。
「後ろに乗って、残りの道かっ飛ばすよ!」
「了解です!」




