第43話 ネルド『ドラゴンの厄災』(4)
魔女さんからの緊急通信。
通信を開始するや否や、とても深刻な顔でこう語りだす。
『めったにない厄災体験とクエストの途中で申し訳ないんだが、有用な情報とニュースを伝えよう』
一体何事かと思い、こちらも深刻な顔をして耳を傾ける。
『お前たち、隙を見て一度ナットに帰ってきたほうがいい。ドラゴンの厄災から逃れ、目的地に到達し復興を手伝おうとした途端、厄介な奴に目をつけられるぞ。厄災復興に特化した、わたしと同じぐらい長生きしている、めんどくさい同郷の腐れ縁魔法使いがいるんじゃが、そいつは暇なのかいつも世界をくまなくリアルタイムでサーチし、何かしらの厄災が起きたらその厄災から逃れた民が避難先に到達した時点でいろいろ吹っ掛けてぼったくり価格で避難先の整備を魔法でしよる。しかも、巧妙に緊急時に付け入ってるのと柔和そうに見える所作振る舞いと、確かなかつ安全な魔力操作も相成って、ぼったくってるくせに気づかれずに大感謝されておる。しかもわたしをライバル視していて本当にめんどくさい。アオの魔法の使い方のパターンとか師匠筋が見えるだろうから明らかにバレたら絡まれるぞ』
私とアオくん、晴天の霹靂。
明らかに魔女さんは冷静さを欠いていて、実際まくしたてられすぎて一体何を言われてるのか半分ぐらいよくわからなかった。
『あまりの恩着せがましさに「救国の魔法使い」とかよばれてるんじゃぞ?!ないわー』
とかも言っている。これ、魔女さん何か隠している気もする。
確かに冒険者ギルドCランク以上は強制護衛任務がついてまわっているのだけれど、私はFランクなので完全対象外の炊き出しが主の、大量調理屋さんだ。別に離脱してもだれからも咎められないし、別の宿を拠点としていたCランク以下の冒険者さんもこの行軍からそこそこ離脱していたりする。
今回、私とアオくんの目を通してネルドの様子見というか、魔法の影響の測定を勝手に魔女さんがしてきた結果、ドラゴンの厄災を誘発した原因は、ナットの『凍結魔法』の規模が大きすぎたがために、近隣諸国どころかもしかしたら世界中にも大きなゆがみを生んでしまった。その歪みと、ナット凍結により防御結界がナットのみに限定されたことで周辺で恩恵を受けていた国が自己防衛力を持っていなかったがために城好きの紅竜の移住地の対象となってしまい、もろ厄災を受けてしまった、ということらしい。
今回珍しく通信に出てきているモヤ王がしょぼしょぼしているように見える。
『まあ、ちょっとずつでもよいから外貨を稼ぐとか、産業を安定させるとかいろいろな方法を駆使して、この国を救ってくれたまえよ異世界の君。あまりゆっくりしてると世界が滅ぶかもしれないが、それはその時考えよう』
魔女さんが何を恐ろしいことを言っているんだけど。
正直いって私はいまレベルがなんとなくあがったけどギルドランクが低くて何もできないアンバランス冒険者だよ?
もしかしなくてもぼったくりの『救国の魔法使い』さんに輪をかけた『凍結の魔女』があなたなのでは?
『もうあやつは厄災が起きた地と避難路、予想される移転先のスキャンは住んでいるだろうから、アオの魔法の残滓とか気づいちゃってる可能性があるからもーーー!!ぞわぞわする!』
それ、本当にライバル視されているだけ?
『頼み事なんだが、転移魔法は使わないで。使うのであればチーズの魔法だけで帰ってきてくれ。厄災さえ起きなければ余裕だったのに…』
とかぶつぶつ言っている。
私は心の底から言いたい。
「魔女さんをそこまで動揺させるその魔法使いに会ってみたい」
でも、今後を考えて、その言葉は心の中にしまった。




