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第41話 ネルド『ドラゴンの厄災』(2)

 一般的な夕飯の時間まであと少し。


 街の料理屋さんだった人たちも炊き出しゾーン作成に気づいたのか、私に声をかけてきた。


「炊き出しか!率先して準備してくれてありがとな。うちの店も隣に設営していいか?」

「どうぞどうぞ、何か足りないとかあったらお手伝いするので言ってくださいね」


 料理人が陣頭指揮をとり、他にも料理の下ごしらえができる手持無沙汰な避難者がぞろぞろ来て、指示された食材の下ごしらえを始める。

 

 遠くに見えるネルド国はより大きな炎をあげ、小さな竜が国の上空を旋回している。完全に『ドラゴンの厄災』、ネルドだった国はここから暫く、紅竜の巣となるだろう。


「ドラゴンの厄災はこの世界どこの国にも伝わってはいて、みんな備えてはいたんだけど、実際に起きると、致し方無いにせよ結構ショックだね」


 大鍋に鶏肉ににんにくや玉ねぎ、ねぎを入れスープをとりながら料理屋さんがつぶやく。


「王族の方々も独自の脱出ルートがあったのか、ちゃんと脱出されているようだし、人的被害がなかったのは良かった」

「そうですね」

 

 この脱出劇のあざやかさは駐留していた冒険者さんのおかげだよなあ。確かに、ランクCの冒険者さんたちは避難誘導に迷いがなかった。


 Fランク冒険者は社会的信用を含めできることが少ないため、とりあえず生き延びろってことで指示はとくになかった。おそらくランク開放により救助支援マニュアルが支給されるんだろう。

 足をひっぱらないことが第一段階、できることをできるだけやるのが第二段階。


 要するに今、私にできることは、炊き出しだ。


「姉ちゃん、手際いいな!うちに来てほしいくらいだよ」

「私は家庭料理と炊き出しまでしかやったことがないんですけど、兄が料理人なんですよ~」


 実は、兄が家を出てからの料理は食べたことがないけど。そのうち店を出したら食べに行きたかったけどもう、異世界の身。もう食べられないと思うと、少し残念な気持ちはある。


「今日は私の故郷の料理つくるので、お口にあうといいんですが」

「それはたのしみだな~」


 そう言ってくれているのは、結構嬉しいし、期待に応えねば。

 鶏肉のスープの仕上げについても流石王国の料理屋さん、手際がいい。


「仕入れてあった食材をアイテムボックスいっぱいに入れてきたから当面は間に合うだろうし、王国の備蓄もまあまああるだろうし、王都移転後もなんとかなるだろ。ドラゴンの厄災を体験したと笑い話にできるぐらい、立て直さなきゃなあ」


 そう言いながら、味見をしている。

 

 ナットの調度品を買い叩いていたのは市井ではなく貿易商や国だろうし、民間はそれほど関知していない可能性が高い。結論凍結魔法のとばっちりの可能性が高い今回の「ドラゴンの厄災」、実際その被害を目の当たりにし、対応している様子をみるといつ来るかわからない厄災が生活に根付いていて、この国の人はたくましいな、と思う。


 今は『凍結の魔女』の凍結魔法により相当力の強いモンスターですら認知することができず近寄れないナット王国は、きっとこの厄災を回避している。あの魔女さんがドラゴンより弱いとはまあ、思えないからだ。


 そして今、料理を作っている過程を見て気づいたのか、アオくんがキラキラした目で袖を引き、声をかけてきた。


 「チーズさん、今日のカレーって前と違うんですか?」


 サラダ油で豚肉を最初にいため、そこから次々具材を入れ炒め、水を入れ、煮始めた経過を見て、工程の差に気が付いたんだとおもう。良い観察眼デスネ。


 「今日は豚肉をつかった!中辛の!ルーカレーです!前と違う味だから楽しみにしてて」

 

 鬼教官はすっかりカレーの虜のようだ。かわいいので今度は豚汁つくってあげよう。

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