第40話 ネルド『ドラゴンの厄災』(1)
ネルドから南に2キロ地点、ネルド国の王国民の避難所が開設された。
雨風は結構まだきついが、ピークはこえてきたみたい。大粒の雨がたたきつける中、手際よく次々とテントが建てられていく。
避難所の中心地にはコテージが集中して建てられている。
中心は王族、次いで貴族といった身分の高い人が避難している一帯となっていて、建築に関する魔法を持つものがそれぞれに仕えているため、駐留地で快適な家を建て、翌日には解体し次の駐留地でまた建築することで出来るだけ身体、精神的負担を減らすことができるようになっている。
少し間をあけて避難所の外周は市井の人々が集まる一帯、テントも建て終わり一息ついている状態となったので、避難した皆様にタイミングは最悪だと思いつつも、勝手に持ち出した手前居ても立っても居られず、ナット産のあれこれについて「持ってこれる分だけ家具や工芸品をもってきたので、思い当たるもの等があれば声をかけてほしい」と話してみた。
この申し出に対する、避難者たちの反応はとても厳しく、顔が険しくなる者、避ける者等正直言って拒否反応としか思えない反応が返ってきた。
「ここ数年なんとかって国から買った家具や道具を使っていたらドラゴンの厄災が来たんだ」
「どこだか覚えていないが困ってるとかいってたから要りもしない家具と食料品を交換してやったのに」
などと、『ナットのものがあるせいで結界が弱まってドラゴンの厄災が起こった』という風評被害のような話になり、残念なことにせっかく持ち出したものの需要はゼロであった。
縁起が悪い、燃えてしまえばよかったのに、とまで言われたときはすこしへこんだ。
ナットが食うに困り国のものを次々放出したのは悪政のせいではあるのだけれど、その国を支えてきたものが、買いたたかれて放出して疎まれる。
まるで本か何かで読んだ、戦後日本の農家と都市部の人間との間で行われたと言われる高価な着物や宝飾品と、食糧の物々交換を思い出したりもした。売る方と売られる方それぞれその『もの』に対してが感じる価値の差により、双方が不満を持っていたという話だ。
どちらも不幸でしかない。もう黙るしかない。
この家具や調度品は、今度ナットに行ったときに、そっと戻しておこう。
ほかの冒険者さんたちは、警護や住民の援助と大忙し。私が役に立てる場所ではないので、私は私の戦場をつくり働くことにした
それはそう、炊き出しである。
大量調理。
これはやったことがある人しかほぼできない特殊スキルに近いもので、農家の地域の寄合、それこそ災害時対応のために一般家庭とは思えない巨大な鍋を使って行う調理だ。
多分給食のおばさんも得意分野だとおもう。今後は栄養価とかなんとか調整されていくだろうけれど、家が奪われた初日から栄養もへったくれもないのでそれこそ今回は大量調理の醍醐味、前回と違いたくさん作るからこそ、そうじゃないと出ない味のカレーを作る!他にも豚汁とかも代表的大量調理の範疇ではある。
「アオくん、カレーつくるから、何か嵐の及ばない拠点って作れない?正直いえば調理場作りたいんだけど」
「カレーですか。仕方ないですねえ、護衛業務内容につけておきますよ」
そう言うとアオくんはきれいな赤色の魔石を空き地の4か所に置き、何かしらの魔力をこめてくれたところその石は浮き上がり、まあまあのサイズの雨除けができた。
ちなみに魔石の色は色々あるけれど、色と機能は連動しているものではないので、ギルドの納品ぐらいでしか色は関係ないらしい。
出来た調理場で早速作業を開始する。
【無限フリースペース】からまず調理用のテーブルと野菜を大量に出し、皮をむき、一時保管も場所がないのでまた【無限フリースペース】へ戻し置く。材料を切り終わったら、次はコンクリートブロックを数個出し、組み合わせてかまどをつくる。そこから薪をくべ、着火剤にアオくんが魔法で火をつける。さすがに人目がありすぎるため、ライターは使えなかった。




