第4話 異世界の君、家を点検する(1)
状況説明を受け、もう受け入れざるを得ないことを察した私はまず、自宅に戻ってみることにした。
さあどうぞ、と先ほど城にいたメンバーのうち、『凍結の魔女』のお付きの双子のうちの一人に結界への侵入許可を与え、連絡係として家に招きいれた。
私をこの世界に招き入れる転写魔法は国の凍結魔法実行と同時に行われたそうで、この世界から他国の認識としては突然1つの国が消失どころか認識の範囲外になり、内政的にも急に国としての体を満たさなくなっているため、残された者、とはいっても王と『凍結の魔女』しかいないのだけだけど、それぞれやらなくてはならない仕事が山積らしいこと、私は私として、家を再度点検して今後どういう方向性でいくか方針を立てなくてはならなくなっていることから、一度解散し、それぞれの仕事を行うことになった。
城からついてきた魔女のお付きの少年の名は”凍結魔法”の影響で失われていた。しかし、本当の名前はわからないにせよ便宜上の名は必要であり、弟子の命名権は魔女にあるとのことで、『アオ』と名付けられたとの話だ。
ちなみに、魔女のところに残った子は『イオ』と名付けられた。一人前になったら名前ものすごくかっこよくクラスアップするのかも知れない。
また再集合するときには、『アオ』に何かしらの連絡があるようだ。
「この世界に現れたあなたの家、個人の家としてはかなり大きいですね。畑も加えたら、城の半分近くありますよ。」
「でしょー。掃除も管理も大変なんだよ」
私の家の範囲として牧草地、家庭菜園地、牛舎、家、そして新しく建てたチーズ工房がそっくりそのまま転移してきている。
しかし『アオ』という少年、出会ったばかりというのもあるが、ものすごく固い。
転写されてきた自宅を『アオくん』と一緒に細かく点検をしていく。なぜか部屋の電気もどこが供給源かわからないけれど普通に点くし、先程牛たちが元気なのは確認したけれど、夕方の作業のお手伝いに人が来てくれる前の転写事件だけに、とりあえずのマンパワーは私だけという恐ろしい現実が押し寄せる。
今後この世界の誰かに作業を手伝って貰えるとしても、手際とか経験とかが乏しすぎる。何か手立てを考えないと。
農機はあるものの燃料の供給が途絶えているために、代替燃料を見つけない限り切れたら終わりだ。
そして状況確認は再び牛舎に至る。100頭の牛ちゃんの登場だ。
「この”牛”という動物、こちらの世界では見たことがないです。あとでよく見させてください。」
「どうぞどうぞ。お世話もしなくちゃいけないから、この世界のルールに則ったらどうしていいかいまいちわからないので相談もさせてね。」
「僕や師匠で協力できることがあればぜひ出来るように頑張ります。」
アオくんは一体何ができてどのような子なのか全くまだわかってないけれど、協力的な気配はするので、だいぶ心強い。いきなり一人で投げ出されたら本当にどうしていいかわからない。師匠からきっちりしつけられているのか、軽く接した感じから受けた印象としては無茶苦茶固いがちゃんとしているのは好感が持てる。
何がなんだか結局わからないけど、元の世界で生活する親の環境に変わりはなく、向こうの私も普通に暮らしているということであり心配は全くいらないというのであれば、とりあえずこの世界で出会った人たちを信用することにしよう。