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第340話 バナクコート(19)

 調理器具は全く手入れをされていなかったけれど、劣化もしていなかったし、回路は問題なくつながっていたので問題なく使用できそうだった。これについては僕一人では不安だったのでノリさんにも一緒に確認してもらった。


「一人で点検してもし詰まって暴発しても大変だしね。このぐらい、いくらでも協力するよ?」

「ありがとうございます!これで新らしいチーズさんの作るご飯が食べれますね!」

「私からも感謝です。そういえばこの世界に来てから、ハヤシライスって作ったことなかったんですよね。みんなのお口にあうといいんだけど」

「うん!その名前はユウがつくる料理でも聞いたことがないから、おそらく私も食べたことがないね!」

「……いや、ノリさん……ちょっと待って。兄さんと比べられるのはちょっと……レベルが違うというか……モノが違うというか……」


 謙遜しながら照れているけれど、実際チーズさんの料理を食べ始めてから約半年、食生活が思い切り豊かになったし味覚のレベルも上がった。もう以前の食生活を思い出せないほどに、豊かになった。あと何気に身長が伸びたので、これで弟と少し差がでるかもしれない!食生活のおかげ!と思ってはいたけれどちゃんと弟の身長も同じだけ伸びていたので、心底がっかりしたこともあわせて思い出す。

 いや、今もだけど。


「私の作る料理って兄さんほど華やかさとか、美しさ、繊細さはないけれど、まあまあおいしいものは作っているつもりではあるよ?」


 大きなキッチンの作業テーブルで玉ねぎをすごいスピードで剥いていくチーズさんを横目で見ながら、手伝うどころかじっと見てしまった。実際家庭料理だけでこんな調理スキルが身についているとか、よっぽど好きか血の問題かわからないけれど、本当に技術がある。


 血の問題……僕たちの両親が得意だったことは何なんだろう。

 ふと思ったけれど、これは僕とイオが記憶するには幼すぎたため、あまりよくわからない。思いついたところで姉が復活しないことには教えてもらうこともできない。ああ、なんかいろんなことがたくさん入り組んでいるけれど、時間がかかったとしてもなんとか全部綺麗に解決できるといいなあ。

 

「あ、今日のハヤシライスに兄が作ったデミグラスソース、お裾分けをもらったやつを使うから、ちょっとだけ頼った味になっちゃうかも?」

「あ、ここにあるこれですね」

「兄さんが一気に仕込んだとかで大量に作った時に【無限フリースペース】の時間停止食材倉庫に入れといてくれるんだよね。ありがたき兄」

「本当ですね」

「だからレトルトとか缶詰とか考えなくて良いというか、もし何かが足りなければ言ったら作ってくれるというか……重ね重ねありがたき兄」

 

 そう言うチーズさんに監督してもらいながら先に炒めた牛肉を横によけ、玉ねぎ炒め始める。僕が。

 しっかり鍛えているので玉ねぎを炒めていても別に腕は痛くなったりはしないけれど、まあまあ時間がかかる。その間にチーズさんは米を研ぎ、浸水したものを【無限フリースペース】から取り出し炊飯を始める。チーズさんは時間があるときに3食分ぐらいは米を研ぎ、浸水が終わったら時間停止ゾーンに入れておいて、いつでも炊飯をすれば食べることができるように準備をしている。

 実に行動が食いしん坊すぎる、と思う。いっそ面白い。


「お、玉ねぎそろそろ色がいいね。じゃあ続き続きは私がやろうかな」

「お願いします!」

 

 メイン調理担当を交代するとほぼ同時に具材をどんどん入れ、手際よく調理を進めていく。良いにおいがあたり一面にひろがり、マッシュルームを入れ、仕上げの何かを入れたところで火を止める。


「お皿ってキッチン内にあった?さすがにあるよね?」

「見つけてあります!食器棚があります」

「じゃあ、カレー皿っぽいものを6枚準備してくれるかな?」

「わかりました!作業テーブルの上に並べたらいいですか?」

「お願いするね、ありがとう。じゃああとはご飯が炊けるのを待つのみだね」

 

 調理が終盤にさしかかった今、いつの間にかノリさんは隣の部屋に姿をうつし、テーブルセッティングの陣頭指揮をとり始めている。


「ノリさん元気ですね」

「多分だけど、あの人はずっと一人だったひとだから今が楽しそうだよね。ホント変わったものは大好きだし、こう、人間は魔女さん至上主義だけど、割と些細なものを愛しむ傾向があるよね」


 ノリさんが見た目はちびっこではない幼子2人を保父さんのように相手してくれているし、楽しそうまである。そしてイオはあらかた掃除が終わり、特段今することがないということで、キッチンチームに参戦してきた。


「うわーほんとにキッチン広い!今まで見たどこのより大きい!そしていい匂い」

「イオ、今から手伝えることってほとんどないよ?」

「じゃあこのいい匂いがする鍋を眺めつつゆっくりする。きっと師匠こっちの状況覗き見て羨ましがってます……あ!!」


 イオが焦って自分の口をふさぐ。目を見開いてドキドキした顔をしているし、その気持ちがこっちにも伝わってくるかわいそうぶり。本当に、しょうがないなあ。

 

「……イオ油断しすぎだよ。いつも誰よりも慎重なのに。この部屋防音壁も張ってるし、この屋敷中の監視カメラに偽装映像音声を流してるから大体みんな大丈夫だよ。そういうの、お前の方が得意だとはおもうけど、必要最低限なものは僕がやっておいたよ。アップデートとかは好きにしていいから」

「……気づかなかった……。あ、本当だ、防音壁ある……」

「兄を敬え。なんてな」


 ちょっと軽口をたたいてみたものの、イオはまだドキドキした顔をしている。

 

「本当に、助かった……サンキュー兄さん……」 


 どういたしまして。なんてね。

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