第339話 バナクコート(18)
この王城に仕える人間は、正直使い捨てだ。
私以外の人間が、どんどん入れ替わる。
なぜ私だけが残っていられるのか、それはよくわからない。
頭がぼーっとする。
私がいくら教育しても、新しい職員たちは話を聞かない。
最近怒りを覚えることさえなくなってきた。
前王妃様が私を見なくなったのはいつからだろう。
王子、もうすぐ国王となる少年のみが、私に話しかけてくれる。
そうか、そうだ。
私は新王に仕えるために、ここにいるんだ。
だから意識も保たれるし、やめることもしない。
その少年は銀髪に朱色の眼、母親によく似たあどけなくも美しい少年。
父王は金色の髪に茶色の眼であったため、こんなこともあるのだなあ、と思った。
思い返してみれば、いつ頃から私は王子とのみ話すようになったのだろう。
私の手は2度汚れた。
そうだ、2度。
2度汚れた?
何が原因で何故汚れたのか、もう思い出せない。
◆
ういが「僕がついていくから大丈夫。飼い主とは今直接話すつもりはないけれど、何かあればアオに伝えるからよろしくね」と、【動物言語】を使用し話してきた。そして前からういは「飼い主と話すのは夢で憧れではあるけれど、会話をしてしまうと今までのただ『大好き』だけでいられなくなる可能性があるから怖いんだ」とも言っている。このことについては確かに理解ができる。意思疎通が密になると、すれ違いも生じたりするし、最悪取り返しのつかないような喧嘩をすることもあるだろう。
城の中に魔族がいる、そしてこの冒険者ゲストハウスに固定された霊がいる、あの王城になにがあってもおかしくはない。そもそもあの強そうなシラタマ王がみすみす捕まっていたり、何かがおかしい。
『アオ、もうこれ、潜入してどうにか暴くしかないだろうし、オレたちはバックアップ頑張ろう』
『そうだね、ノリさんもいることだしバックアップは完ぺきに出来そうだけど。でも、ノリさんはこの状況になっていることどうして放置していたんだろう』
『興味なかっただけか、紅鳶だっけ?その人に近そうな感じがしたから近づきたくなかった、と思うけどどう思う?』
『確かに、あんなひどい逃げ方をした相手と似たような雰囲気があれば逃げちゃうかもしれない……いや、師匠がかかわっていないからどうでもよかった……とか?』
『そもそも師匠が討伐していた時代からおかしくなっていたんだろうけど、師匠のほうがより気にしなかった……だろうなあ』
『……僕もそう思う』
部屋を離れられないシアラと、シアラの被害者はひとまずこのまま居てもらって、【地図】に記載されている食堂へ向かう。そもそもここのキッチンも食堂も僕たちが来るまで掃除がされていなかったことから、立ち入り不要とギルド側に判断されていた。いいや、利用しようとする前にシアラの犠牲になっていたことが慣例化していたと考えると、掃除する必要性がなかったと判断されていたのかもしれない。
「シラタマ王の書簡、明日になりそうって話だし、キッチン行って何か作ろうか」
「キッチンまともに使えるのかな。ほこりは掃除されているとおもいますが、それ以外は……」
「最悪カセットコンロあるし、調理器具も万全に持っているし、なんとかなるでしょ!今日は6人いるから結構多くつくらないとな……ハヤシライスにしようかな?鑑定上の牛肉と、トマトの在庫、今あるし」
そのまま迷うことなく食堂へ向かう。ここにいる誰もこの館の探検をきちんと終わらせているわけではないから迷いがないということはあからさまに怪しいわけだけど、立ち入った建物の【オートマッピング】は【レベル90】で開放されることは一応周知されていることから、僕やイオ、ノリさんみたいなあからさまにレベル偽装するのを放棄している人物がこの館に居る時点であたりまえに思われたかもしれない。
そして辿り着いた食堂は、予想外だった。
「ねえチーズ、食堂思ったよりも……」
「小さいね……ちょうど8人座れるテーブルがあるけど、屋敷の中にある家具よりランクが落ちるというか……」
「あ!……もしかして!あ!ここ、従業員用の食堂だったみたい!廊下挟んで向こう側にダイニングがあるみたい」
「別にこっちで構わないけど……どうかな?」
「確かに厨房から近いから運ぶの近いね。こっちでいいかも」
チーズさんが即断で決めた。特に異論はないけど、この即決の仕方、ほんとにすごい。
「じゃあ、キッチン見に行ってくるね」
「僕も行きます、手伝いますよ」
「ありがとう。使えるキッチンかな~」
「オレたちはテーブル拭いたりしておきますね」
「任せた!」
向かった先というほど遠くなく、キッチンは従業員用の食堂の真横にあった。キッチンというよりも厨房と言った方が良い大きさで、十分な調理スペースとコンロが……多数、魔石オーブンまで完備されている。これ、ユウさんとノリさんの拠点の調理場より広いんじゃないかな。
ただ、長期間放置された調理器具はまともに使えるものなのかどうか。
いつから料理に使っていないかがまずわからない。大きな力を持つ魔石はその分その力を維持するけれど、こういう小さな力で稼働する道具に使われている魔石は時間の経過とともに少しずつ魔力を放出し、最終的にはただの石ころになる。魔物から生み出されるものだから、魔力を再充填して使うようにはできていないので交換するしか手立てがない。
「アオくん、これ、暴発とかしても困るから点検したほうがいいよね?」
「点検、任せてください!ダメだったらカセットコンロを使いましょう」
「そうしよう!」




