第329話 バナクコート(8)
そもそもの話、この邸宅はなんなんだろう。わざわざ冒険者の宿に盗聴器なんて仕掛けるものなのか、という疑問さえおこる。
ういが一気に除霊をしなかったことも気になる。何かに気が付いて、ということなんだろう。アオくんにいつの間にか抱っこされているういをじっとみる、目が合う。
「そろそろ自分で説明した方がよくない……え?照れるからいやだ……?そう……じゃあ気が向けば……」
「ういは甘えん坊さんだなあ……飼い主とおなじぐらいの寿命に延びたし、人型にもなれるけどこの愛らしいフォルムが乱れるから急いで何かをすることは今は考えてない、うん、なるほど?確かにこう、長くてかわいい」
「確かにかわいい」
こっちの視線を気にしていないのか、そんな話をしている。私と直接会話することはしないようにしていたり、なんかちっちゃい頭でいっぱい考えているみたい。
ういはいま3歳だから、人間換算だと20代後半だから兄さんよりちょっとだけ上になってしまう。
『チーズさん、この屋敷の図面、【オートマッピング(精密)】の対象ですよね?』
『ばっちり図面が記録されてる』
『共有してもらえます?共有すると書き込めるので』
『はいはーい』
私の持つマップ機能、パーティー間共有ができるうえにマーキングやコメントも共有可能になっている。都市どころか国家機密なんてものがあってないような危険スキルなのでみんなこっそりこの機能を使うようになっていて、我が方のみとても有利に事を運べるといった感じ。
共有した途端、先ほどの先王の母(霊)の位置、そして、盗聴魔石の位置が書き込まれる。
【オートマッピング(精密)】が私のスキルに実装されて初めて、精密があることを知った、と魔法使いさんに聞いたレベルなのでこれは完全にユニークスキルを何者かから付与された可能性が高いかな。
『掃除終わったなかによさそうなミーティングルームがありますね。こんな大きな貴族屋敷、そんな部屋がないわけはないですよね』
『ぼくとテミちゃん、何かやることある?活躍するうい見てるだけでかわいいから、それでもいいけど』
『確かに、今はついて歩いてるだけだな』
『ねえ、このミーティングルームに……』
『わかってます。情報を集めるためです』
双子が何かを企んでいるような顔をしてにっこりと笑う。
その顔をみて天くんとテミスがもっと大きくにっこりと笑う。なにこれ、私のわからないレベルで通じ合ってない?! こういう時兄さんならそつなく察して、するーっとこなしてしまうんだろうな!
「ねえ、テミちゃん。これ、何かな」
「これ?部屋の天井についてるね。ねえ、外してもいい?」
「いや、ダメでしょ。何に使うかわからないかわからないけど備品でしょ?きっとこの家につかうなにかの回路の一部なんじゃないかな?」
「そうなんだ。わかった、触らない!怒られたらチーズの責任になっちゃうしね」
「そうだね!そうだった!」
音声としては純真にけらけら笑う。その視線の先にあるのは例の盗聴魔石。しかも天くんとテミスが声を出した途端に色がかすかに変わった。これ、物音がスイッチとなって盗聴されはじめたのではないのかな。その魔石の色は黄色、大きさは5センチぐらい。
というか、盗聴魔石のある部屋でミーティングするっていうことは、相手に探りを入れるため、というわけか!と思った瞬間とりあえずすっとぼけて無能を演じてみた。むしろ一番わざとらしいのが私まである。
まあ、アオくんとイオくんであれば、この程度の仕組みであればあっという間に解析して逆探知してしまいそう。
『終わりました。天もテミスもありがとう。通信先はマガキ王城ですね。ええと、チーズさん。マガキ城の図面も共有してもらえます?』
『終わったって何が』
『逆探知です。この程度であればいつもの探査魔法と比較すると楽勝の域です』
『腕上がりすぎじゃない…?って地図ね。はい』
この時点で逆探知先はマガキ城確定。
『うん、探知先ポイントはここですね』
『これ、だれの部屋なんだろう』
『……知りたい?知りたければそこまで、できるけど。さすがにやりすぎか、と思って説明をアクティブにしていないんだけど……使わないかなって思って……』
そもそもその説明は非アクティブ。誰とも共有していない地図機能。どこが誰の部屋、とか、何に使われている部屋、とか、隠し部屋、とかそういうところまですべて見抜く極大チート地図。そもそも大チートっぽい【無限フリースペース】に続いてこんなスキルが私に備わっているって、バトルもできて高レベル探査もできるこの双子と組み合わせるとなんか、ただしく使うようにしなくちゃね、とか思ってしまう。下手な使い方ができない。
今回は必要と観念して、ソレをアクティブにする。
目の前に広がる地図、その探査先としてマーキングされたその部屋。前王妃の間、とあった。
◆
応接間はとても静か。盗聴器のちかちかすら見えなくなった。口にだすことができない会話をそれぞれの【ステータスボード】上の地図を見ながらパーティートークで語っているから。
『状況を整理すると、この屋敷に残っているあのよくないものは、亡くなった前王の母。王は亡くなり、その妻である王妃の部屋に盗聴器の傍受先がつながったというわけですね』
『この屋敷の主っぽいあの霊、嫁ともめたのかな。の割に前王……』
『それをこれから聞きだしに行きますか。前にシラタマの図書館で借りた本の中にあったんですよ。主に悪霊討伐の本ばかり読んでたんですけど、今回みたいな時間の経過で本来の自分を失ってしまった霊の人格を本来のものに戻す魔法。霊核を補強して魔力をもつまあまあ力のある魔石を使って補強して記憶をロールバックさせるという荒業です』
『おれ向きっぽいけど詳細はわかんないから、アオがメインな』
『もちろん。ただ、これ、本来の人格が荒かったり魔力が強かったりすると』
『もしかして、ぼくとテミスの出番だね!』
『そうそう。消滅しない程度に押さえ込んで。もしその力が強すぎてまずかったら』
そこでワン!と軽快な鳴き声。任せろ!と言わんばかりである。




