第324話 バナクコート(3)
すだちそば、現地調達したのは疑似すだち。蕎麦は乾麺での持ち込み。前よりはかなり現地食材で料理しているので、代替えレシピもだんだん増えてきたし、現地食材と持ち込み食材をあわせて調理することも結構ある。
今回天くんとテミスは味覚が若いと仮定して、すだちはかけずに煎った金ゴマと海苔をトッピングして提供した。ちゃんとみんな完食してくれたので、本当に良かった。
この世界に来て半年、実家で使った液体増量魔石、定量魔石の劣化版、というか屑魔石をまあまあ手に入れることができているため、念入りに洗ったうえで乾燥させ、しょうゆとかめんつゆとかを増量することに使用している。
本当であればこの世界のもので醸造とかできたらいいんだけど、今の状況だとまだまだ食材の選定も機材関係も全くそろわないので現実的ではない。
とかいいつつ、1年後にはまあまあいろんなことができそうではあるんだけど。そもそもの話チーズ工房に手を入れられるのはいったいいつなんだ、という話だ。
味噌は自分で作っておいてよかった、と。
「お風呂また入ってもいいけど、食後1時間経ってからにしてね。特に湯あたりした2人」
「はーい……」
残念そうであるけれど、実際しょげてはいたもののちゃんと2人は返事をしてくれた。こうなったらトランプかUNOとかで時間をつぶしたらいいんだろうけど、私が食器を片づけ洗っている手前、ルールを説明する人間が居ない。
そして転移後もシラタマ王はまた魔石モニターでこっちと通信をつなげている。どう考えてもあれ、娯楽の対象とされている気しかしない。
異世界の君である私、いや、どう理解されているかはわからないけれど。それに加え才能豊かかつ縁のある双子、自国と因果のある吉祥の白竜と魔族と思われる娘。どう考えてもモニターしてみる娯楽としては最高級なのではないだろうか。そもそもこの世界の最高戦力に近い人ばかり、監視者を加味すると文字通り最強戦力を擁す集団、面白くないわけがない。
魔法使いさんがいう「あーちゃん」をシラタマ王がこれまたどう理解しているかもわからない。加えて言うと『凍結の魔女』の名前はこの世界で衰えも減退もしていない。マスキングやジャミングがかかるわけでもなく、この世界に轟いている。凍結魔法の影響を受けないのか、それともこの世界の根幹にかかわるか何かで、ジャミング自体がかかっていないのか。
違和感を探ると本質が見える、ということはあるのはわかるけれど、これはどこまで探っていいのかがわからないし、現状答え合わせも難しい。しかも、わからない範囲であるけれど、この世界の謎を解くカギにはなりそうではある。これはナット王に仕えるシンさんが調べている【ステータスボード】の成り立ち、アップデートの仕組みの究明にも繋がりそうでもある。そういえばこれも何か進展があるんだろうか?闇雲になにかしている、というわけでもないみたいなんだけれど。
そもそもがこの世界の謎解きとナットの復興がどのぐらいつながった事象であるかどうかもわからない。リミットは結構先とは聞いてはいるものの、王の受けた呪いや双子の姉、そのあたりを考えるといい加減ピッチをあげていったほうがいいのだろうな、と思うものの急いでしくじっても厳しいよな、ということを考えてしまう。
そして今横にいるアオくん、イオくんはとても明るくふるまっているものの、二人でいると神妙な顔で黙り込んでいることがある。双子通信について前に聞いたことがあるけれど、二人でなくてはいけない、二人じゃないと話せないこととか、無意識に話しこんでいるような様子がある。
「チーズさん?」
「?なに?アオくん」
「同じ皿何分水で流しているんですか?かわりますか?」
「え!あ!考え事していた!ありがとう!」
目の前にアオくんが現れた。あまりにぼーっと考え事というか思考の整理をしたせいで心配をかけたっぽい。失敗失敗。
「疲れているならしっかり休んでくださいね。魔法では癒えない疲れってあるんですから」
「ありがとう、気を付ける」
「それにしてもさっき、ランチャー撃つチーズさんよかったですよ、強そうで」
「あれ、貰い物の武器だし強そうも何も」
「いや、いでたちが!僕はそれほど飛び道具を扱わないので」
「もしかして、殴りに行った方が早い理論…」
「なんでわかったんですか!」
アオくんがこっちに来てとってもにこにこしている。現状イオくんは収納から出したキャンプ用コットに乗せた寝袋の上でごろごろしていて、天くんとテミスはキャンピングチェアに座って何やら話している。いや、何やらではない、テミスの海上漂流譚だ。
「……ところで、オイスターの中枢にこれから行くわけだけど、どのぐらい介入してよいものか、だよね」
「今回はナット王に頼まれてマガキの現状を見に行くのがメイン、サブミッションで厄災を倒したことにより発生したその『権限』とやらを確かめに行く、だけでしょ?」
「いや、それだけですむのかなあ。突然ナット王に新規ミッションとか言われそうじゃない?」
「不吉なことは言わないでください」
目をあわせて、そして笑ってしまった。




