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第318話 ハリギリの風(7)

 まだアルティメットライムドラゴンであったものが火山方向から飛び立つ気配はない。ただ、禍々しい気配はどんどん大きくなっているけれど。


 試射としてつかうのは短銃。前に試しに買った市販品の安物。作製してもらった圧縮した水球はいったん時間停止の倉庫に突っ込み、無駄な魔力消費を抑える。


 しまい終わったところでアオくんが小さな火球をさっと作る。手をくるっと回しただけで小さな火種が20個ほどできてるこの能力。


「僕も結構重力魔法使ってるつもりだったけど、引力魔法なんて派生してないし、なんなんだろうね、はいイオ」


 そう言うと火球をそのままイオくんの目の前に移す。炎は鬼火のようにふわっと浮いている。


「師匠の散らかしたものの片づけとか、気を遣う使い方をしてるから派生したのかな?レベルだけは共有してるから、僕には適正がない、とか?」

「いや、どうだろう。そもそもオレたちレベルは共有されるけれどスキルは別だろ?」

「まあね、僕の重力魔法も別のモノに派生する可能性はあるかもしれないけど。それにしても繊細な武器が好きだと言っていたけど、魔法までいつの間にか繊細だ」

「魔法は豪快でいい、と思ってるんだけど。師匠の近くにいたらそうも言ってられないね」

「確かに!あれはなかなかだよなあ。あ、チーズさん!いきますね!」


 頷き合図を送りつつ小さな弾を込めた短銃を5メートル先の枯木に向け発射する。引力魔法を帯びた弾は火球を連れ回転しながら炎のドリルのように目標に着弾、ガッと炎上し、火山灰のおかげで延焼することもなく鎮火した。


「弾の回転にあわせて炎も回ってるのすごいね」

「なんかおかしな磁場みたいなものが発生してたきがしなくもないですが、まあ、今回は問題なしってことで」

「検証している「時間今ないしね……そろそろ動きそうだな、火山」


 試射に要していたものの数分で火山の禍々しさが格段にアップしている。そうしている間に火口に影が見えだす。なんだろう、頭だろうか。視力強化でしっかり相手を見て対応を考えなきゃ。目視できればアナライズはできるはず。

 そう思い、目を凝らす。確かに火口からまた大きくなったそのナニカが這い出してきている。


「火山でドラゴン目視できた!さっき削った状態の3倍ぐらいの大きさになっている」

「デカすぎないですかそれ」

「……名前が変わってる」


 そのアルティメットライムドラゴンだったものは、変身していた。

 そして名を変えていた。


 「アルティメットマグマティックドラゴン?」


 響きがくどい。

 

 そもそもがドラゴンの様相を呈してはいるものの、ドラゴンではない。むしろ吉祥の白竜である天くんは鳥竜種であること、あとどうにもそれなりの立場かつ跡取りであることは察することができる範囲。

 厄災の管理もどうも、この一族の補助、監督の上に成り立っていそうなところからいうと、ドラゴン族が使役するからドラゴンもどきが厄災となるのだろうか。


 上半身が出てきたところで、火山そのものと直結しているせいか、大きな地響き、マグマの大流出が起こり、空となっていたカルデラ湖に大量のマグマが流れ込んでいく。ほんとうに水が残っていなくてよかった。


「チーズさん、そろそろ足場つくりますね。射撃にブレは大敵、ですよよね」

「ありがとう、イオくん。そろそろ準備に入るね」


 つくってくれた透明な足場は地上5メートル。バフもめいいっぱいかけてくれているし、私の視力強化も火山灰にまけることなくとっても良好。ターゲットはまだ火口にいてより力を蓄えているのがわかる。もうサイズは大きくなってはいないが、禍々しさはあがっていっている。


 圧がちょっとさがる。


 飛ぶ


 と思ったらどういうわけか、火口に躓いて転倒した。ものすごい地響きとともに、カルデラに流れ込んだマグマが飛散する。


「あっぶな!!!」


 つゆ払いのようにイオくんが飛んできたマグマを私たちに到達する前に払い落とす。


「サンキューイオ」

「意外となんともなかった。これ、兄さんでも余裕でいけるわ」

「マジで」

「気配はすごいけど、なんだろう……違和感がある……」


 もしかして、無茶な巨大化とパワーアップで負荷がかかってるとか?そんなばかな。これでこなれると手が付けられなくなるパターンか、なんだかわからないけど滅んでいくパターンか、どっちだろう。


 転倒しているついでにしっかり観察してみると翼がとても退化していて飛べそうにもない。まさか、飛ぼうとして転倒したとか?そんなばかな。しかも手が短いので手を使って立ち上がれない。


 今のうちに撃ち込むにしても少し距離がある。


 タイミングをはかり観察していると寝返りを開始する。燃えるような環境ではないため、火災はおきずにすんでいる。が、またマグマはある程度飛散する。


「おそらくだけど現在は飛べない、ってことだよね。しかも足もあがっていない。要するに、チャンス?」

「油断はできないですけどね」


 アルティメットマグマティックドラゴンはマグマの上であおむけになり、それから、腹筋で起き上がった。いや、腹筋なんてあるのかな?


「あはははは!すごいな!想像以上に動きがわるい!!」


 この状況で手を叩いで大笑いできる天くんはツワモノだなあ、と考えながらいつ射程範囲にきてもいいように水球を倉庫から現実世界に戻した。

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