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第315話 ハリギリの風(4)

 独りでいるからってやることがない、という事は全くない。


 石造りの、何もない部屋に家具が少々。

 そこにあまたの本が折り重なり積み重なる。

 ずいぶん長く生きてきたけれど、わたしが生きてきた以上に世界の歴史は長いわけで。


 現状ナット城の一室、どころか、ワンフロア丸ごとなし崩しに使わせてもらっている。だが、優秀な弟子が出張中であるがために、荒れ放題といえば荒れ放題だ。


 もう正直、弟子をとったのはここ数年のことだというのに、その前どうやって暮らしていたのかがわからない。ぐらい有能……まあ、弟子だちの出自にわたしが関係しないといえば関係している、確実に、確かめてはいないが私の過去に行った実験が関係していると思う。

 

 自分の記憶を分割して捨てまくっていたがために今まで何とも思っていなかったが、戻してみると、点と点がつながる感じがしてくるもの。


 この確証に近いひらめきを確認するには、アイツに聞くしかない、というかアイツは絶対知っていると思うがとりわけて誰に語ろうともしないおかげで私が助かっている。なんだか悔しい。

 記憶をある程度戻したせいで集中して思案するにしても、ノイズが多くなってしまって本当に面倒なことになった。


 いや~、本当に、なってしまった。


「魔女、いるか?」


 廊下からナット王の声が聞こえてくる。ワンフロア、結構な数の部屋を占拠してるため、まあ、どこにいるかわからないんだろうな、と思う。そういえばシンではないのだな?と思ったらちょうどお昼時。書物に没頭していて忘れてたわ。


「ここだ、王。時間を忘れておったわ」

「そうだろうと思ったよ」

「今シンは西の離れにむかっているのか。あそこのシェフは可もなく不可もない料理が得意だよな」

「チーズ兄を基準にしたら酷というか……まあ、そうだね。ところで、チーズたちが滞在しているオイスター、かなり良くない。あの子たちの力をもってして浮世音楽堂の力を借りたうえでなお、厄災が起きた」

「うん、知ってる。一応な、弟子どもの動向は見ているからな?」


 頭上をそう言い指をさす。モニターしている魔石ディスプレイでは、アルティメットライムドラゴンという牡蠣の殻のお化けとそれをゲームのように崩している弟子たちが見える。

 それを確認した王を覆う黒いモヤが大きく揺らぐ。まあ、動揺するのも仕方がないか。


「知っていると思うが、私の【ステータスボード】は少し特殊だから知れてただけだよ。このことを知るのは世界で魔女と自分を含め3人だけだではあるけれど」

「研究者しているシンにも言っていないと」

「これは一子相伝どころか遺伝による国家機密でしょ?これは。ほかの王とすり合わせはしていないけど、これ、ナット王だけのモノっぽいんだよね。それを研究している親友といえ、簡単に言ってしまったらダメでしょう」

「それはそうだな、その通り。まあ、我々が知っているのも、何代か前のナット王が口を滑らせただけでお前の責任ではないしな?」

「厄災を知ったところで現状何も出来ない訳で、一人で抱え込むのは結構キツイから、ご先祖様の失言に感謝するよ」


 モヤだけど笑ったようなしぐさをする。モヤだから微妙にわからないわけだけど。まあ、取っ払ったところで骨が出てくるだけなのだが?

 

「やはりこの国は、この世界の国々の中でもことさら特殊よなあ。私が産まれた時点で成立していた国の1つだしな?」


 今はナット王国とされているこの国の歴史は長い。ゆえに発言権も大きく、当初は世界の政治の中心に立っていたどころか総括していた。それがどうだ。途中ボンクラの血が入ったがためか?私のせいである部分も大きくがるが、政治的敗北により他国に食い物にされるような状況に陥り、今の凍結に至る。


 そもそもの話、この国の王が厄災を【ステータスボード】の管理下に置けている時点で厄災の対象外である。

 しかも今となって知れた、厄災の管理人が吉祥の白竜の一族であったこと、要するにウララだったり天だったりがこの国の管理下に置かれている状況を今作り出していることはたまたまとはいえ幸運極まりない星回りになっている。

 そこにきてチーズの存在が効いてくる。


「臣民のためにも、この世界のためにも、この国をせめて5年以内には立て直さないと」

「国どころかこの世界が滅びる、かもしれないわけだしな。いくら寿命が長いとはいえ、私の生きている間に滅びてほしくはないものさ」

「ははは……凍結の魔女、君は現状でも寿命の半分も生きていないのだろう?」

「我が一族の寿命から換算するとお前たちの25歳ぐらいに相当するぞ」

「えっえええ?!肉体年齢が私より……若い……?」

「気にすることでもないだろう?それにしてもナットが傾いたことによりこの世界の名が失われたこと、この世界の住民が全く気が付いていないこともホラーよな。あ、王よ、映像を見てみろ。厄災が火山を目指し始めたぞ」

「厄災のこんな行動文献にもない、なんだろうか。世界がおかしくなっているせいかな」

「いや、チーズのせいだろ。とにもかくにも、初回にアカウントするボスモンスターがだいたいレアになるという、それ以外でもレアを割と引きやすい、幸運なのか豪運なのかまたもや悪運なのかわからない運気を持ってきているからな、アレは」

「それはなんとも……」


 そこまで話したところで、遠くで扉の閉じる音がする。

 

「あ、シンが戻ってきたな。この映像を食事のお供にするか?」

「心臓に悪いな」

「王の心臓は……おっと失言をするところだった」

「はははは、はは……」


 うっかり王を落ち込ませてしまった。失敗失敗。

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