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第314話 ハリギリの風(3)

 アルティメットライムドラゴンが、半分程度の大きさになったとき、それは起こった。


 厳密に言うとドラゴンを模しているだけでドラゴン族ではない、このモンスターもとい怪獣。小さくなった分迫力は減退したが、それでもそこそこ大きい。

 仕込みも終わったため手を止め、観念して大きな中継モニター前に座り、王とノリと一緒の観戦に加わる。


「本来私が言っていいことではないが、お前たちだからいいか。口外するなよ?」

「何ですか」

「この厄災、伝え聞く厄災となんだか違う」


 シラタマ王の表情が真剣になっている。別に俺が戦闘している分にはレアモンスターが出る確率はレアというだけあって稀だ。ただ、妹はどうだ。最初のうちはそこまでではない、またはその辺にいるモンスターは普通のものがでる。ただ、問題となるのはボス戦。


 戦うボス戦うボス、ここ最近ほぼほぼレアと聞き及んでいる。


 今回は当初はデカすぎはするが間違いなくアルティメットライムドラゴンだった。それがどうだ。今目の前のモニター内で確認できる怪獣は光を纏い始めた。


「ノリ、お前はわかっているとおもうが、通常の厄災はここまで小さくしたところで自爆スイッチが入り、それを抑えることで収束する」

「そうですね、通常は」

「それがどうだ、見てみろ。今光を纏い収束している。本当に前例がないな。しかしユウ、お前の妹が絡むと本当に面白いな」

「これって幸運なのか悪運なのか」

「それをカバーするのが我々なわけで。おそらくね?」


 そもそも最愛の凍結の魔女のついでぐらいしか俺の妹のことを見ていない奴が我々とか言っていることに究極の違和感があるわけだけど、まあ、そこはサポートに入ってくれるということで目を瞑ってやろう。


「これは、どうなるのか……あ!」

「ボレイリョウに引き返している……わけではないな。マガキとは別の方向に飛んで行ったぞ?!」

「火山の方向のような……」


 そこで一方的に映像と音声を受信していたわけだけど、加えて音声通信回線がアオによって開かれた。


あにさん!ドラゴンが火山の方に飛んでいきました!今から追います』

「予測する未来は」

『火山の力を取り込んで再びマガキに向けて侵攻を開始する、ですね』

「おそらくそれは正解。経験者へ聞いたところ、今回は完全にレアケースらしい」

『え?!またレア?!もしかしなくても私のせい!』

「そして察しているとはおもうが、マガキの連中、何も対応してないぞ。まあ、ある程度この国は痛手を被ってもよいと思うがな」

『そんな気がしていました』


 シラタマ王は確実にこの国の何かを知っている。先日まで滞在していたこともそう、そもそもの話攫われもした。他国の政治には不介入、というのは原則。

 

 今情報として持っているのは、王が亡くなり年若い息子が次期王となること。摂政的な何かがつくこと。王城の誰かの手引きで城の区画を使用しシラタマ王を誘拐、軟禁したこと、ぐらいか。

 いや、自国で厄災が起きているのに戦力も不介入、もあるか。


『例えばですけど、このままこの厄災を放置したらどうなるんですか?』

「跡形もなくマガキがなくなる可能性が高いね。君たちの頑張り次第ではあるけれど」

『ああ、やっぱりそうなるんですね』

『なんといっていいか……なんとなくレア案件が多いなっていうのは自覚していたんですけど、本当に申し訳ないというか……』

「いや、チーズよ気にするな。国の情勢を厄災が起こるほどに劣化させたのがそもそもの問題。まあ、私もみすみすと誘拐されはしたが、もう油断はせぬよ……フフっ」


 笑っていらっしゃる。

 王が油断をしないってことはおそらく……俺とノリの労働……いや、やめておこう。考えるとその方向に物事が動いてしまう。

 

 そして新たな疑問が生まれる。情勢悪化により厄災が起こるのであればナットに起きていなかったのはどういう理屈なんだろう。回避するべく凍結の魔女が動いたのか、そもそもがナットは特例なのか。まあ、今何を考えたところで答えは出ないだろうし、そのうち答え合わせもできることがあるだろうだろう、心にとめておこう。


『……追ってみてはいますけど、全然追いつけない速度で別の何かになったとしか思えない様子で飛んでいます。僕は仕方ないにしてもテミスや天でも離されていっています』

「見てる、割と速度出てるな」


 イレギュラーが起きていることはわかる、でもまだ状況をつかむには情報が足りない。

 

にいさん、さっきアオくんに実験してもらったとおり、石灰を熱で溶かすことは有効でダメージが入っていたはずなんだけど、今は弱点だった熱を纏ってなお小型化して歩行ではなく飛行していてどうなってるのかな!』

「今の名前を再確認できるかな?」

『ええと……あ、名前が変わってる!『ライトニングライムドラゴン』だって』


 はっとした表情になるノリ。そして王と俺を見てから話しだす。

 

「ライトニングライムドラゴン!その名を聞いたのは500年ぶりぐらい、しかも過去オイスター近辺で出現したという情報はないね」

『特徴は?』

「基本おとなしくて山に住んでいて山道を照らす正体不明のドラゴンの形をしているモノ。今回は厄災担当だから、様子が違うのかもしれないね。まあ、正しくドラゴン族ではないことは変わらないか」


『ところで、追いかけてから言うのもなんですけど追いつきそうもないので、準備して火山とマガキの間で待ち構えるのとこのまま追うの、どっちが良いですか。さっきまで徒歩で移動していたとは思えないスピードで、正直追うことが良策とは思えなくなってきました』

「ん~アオくんたちで追いつけないとなると……どうおもいます?ユウ」

「迎撃してもいいけど、パワーアップしたライトニングライムドラゴン迎撃できるだけの力があるかどうか、ってわかるか?ないなら無理にでも追うしかないし、最悪俺が出る」


 あの5人に危険が及ぶなら、もう、出る一択だろう。


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