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第312話 ハリギリの風(1)

 目の前で相棒と給仕相手?むしろ雇い主に近いのか?同じ二つ名を持つ相棒と、この店の出店許可を出してくれたこの国の最高責任者が、妹たちの戦いぶりをみて言葉は悪いがエキサイトしている。

 俺の方にも小さいモニターが見える位置に一応あるが、通信カメラはあちら側。


 自分がこう、一緒に混ざれないのは完全に給仕担当になってしまっているから。この王様、本当に毎日楽しそうなんだが、エンジョイしすぎだよな?とも思うがまあ、いいか。いや、よくない。仕込みも全力でやっているからミルクスタンドとして営業している時よりも、完全に負荷が高い。


 営業許可をもらったおかげで外貨獲得、酪農に従事してくれているミアカへの給料を払えているところもあり、恩人ではあるんだ。本当に。


「あ!そこだ!行け!!!」

「がんばれがんばれ!うまいぞー!碧生!伊織!」


 いや、マジでモニターで観戦してる。


「ああっテミちゃん!軌道がずれた!」

「えっ大丈夫かな……?…………実力的には全く問題ないはずだけど」

 

 不穏な実況に手をとめモニターに目を凝らす。まず最初にアオくんイオくんを目視、今浴びた光と熱量を何とか集約できた様子。続いてテミス、無傷。そして妹……は、無事そうだ。天が護ってくれた様子、ありがたいな俺に似たドラゴンチルドレン。


『ユウ兄ちゃん、あとで褒めてね~』


 こっちを見て天と妹が一緒に手を振っている。いや、無事でよかったけどそういう問題か?実際心配しすぎたり手を出しすぎたりすると成長の妨げにしかならない!わかってる、わかってるんだ!


 それもあって、わざと理由をつけて、仕込みがあるからと言って、観戦最前列にはいっていない。本気でまずそうだと思ったら、妹または天を目掛けて転移してあんなドラゴンもどき一蹴してみせるのに、いやそれは妹の成長に……ああもう。

 

 今日は俺たちの世界ではエゾシカ、この世界でも鑑定上エゾシカとなる肉を夕食のメインに据え、下準備をすすめる。そもそもシラタマには蝦夷はないというのにエゾシカ肉と鑑定されるこの面白さ。


「そろそろユウも我慢しないでこっち来てみたらいいのにな」

「手を出したくなるから我慢しているだけですよ、この男は。だからなんだか手の込んだ料理をどんどん仕込んでいるという。そして我々はおいしいごはんを食べることができる」

「ありがたいよな。しかしユウは結構なシスコンな自覚、あるんだかないんだか。まあ私も人のことはいえぬがな!ははは」

「……王は言うつもりあるんですか?」

「さあな、どうかな」


 シラタマ王は目を細め、にやにやしている。その隣でユウもニコニコしている。今ここで仕込みをしている俺は微妙に居心地が悪い。シスコンで何が悪いよシスコンで。妹は色んなことができるけどそこそこ突き止めはしない。しかも考え深そうに見えてまあまあ無鉄砲だし、しっかりしているようで割と適当。そして前にも言ったことがあるように、割と普通。


 数年会っていなかったから昔の印象がそのまま今もそのままってことはないのはわかってはいる。わかってはいるけれど、幼いときのイメージを引っ張ってしまうのは仕方がない、と思う。こう、何の因果か2つ目の異世界。前回は夢の中、今回は転写。肉体年齢は20代後半、体感年齢はアラフィフ。


「お、うまく削っているな。ここからが正念場だぞ?」

「王はこの厄災をご存じで?」

「文献で見たことがある程度よ。で、お主は?」

「ええ、まあ、数十回は見たことがありますね」

「そして、何度となく、潰した、と?」

「私が直接手を下すこともありますけど、今回みたいな実力のある若者や、手練れがいた場合は手出しは最小限に抑えて見物ですよ、見物」

「では、お前が手出しを始めてこのかた、厄災の成功率は」

「ゼロですね、この世界においては」

「この世界以外の世界があると?」

「ああ、ユウは外の世界の人間ですよ。お気づきになられているのでは?」


 別に隠してはいないけれど、思い切りばらされたなあ。


「異世界の君、な。私が会うのは15年……20年ぶりか?ちなみに前の者は消息不明だ」

「は?!消息不明?!というか前にもいたのか?!」


 王の言葉に手が止まり、大きな声が出てしまった。俺はいい、俺は。どこにいようとまあ、困ることなく生活できるだろうし無駄に丈夫になってしまったこの体、傷をつける方が難しい。

 

「異世界の君、という言葉が共通認識としてこの世界にはある。迷い込む者もあれば、呼びこまれる者もいる。というわけで前にもいたわけだよ、君たち兄妹が最初ではないというわけさ」

「そうなんだよ。まあ、私も言ったことがなかったけれどね」

「お、話しているうちにアルティメットライムドラゴン、サイズが半分になったぞ?!そろそろ正念場だな!」

「ここまで来れば、先が見えたような、次の段階にどの程度対応できるか、っていうチャレンジというか」

「そういえばテミちゃん、魔族の娘なのだろう?美しいな。我が国で発生したのだろう?人型かつ人語を解す魔族、興味深い」

「ほぼ天が産まれたのと同時に発生したっぽいですよ、テミスは」

「異世界の君と違ってこちらは本当に初めてだな。原因は何だろうな?」

「さあ、なぜでしょうね」

 

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