第306話 ボレイリョウ(25)
牡蠣の殻が細かく砕け、一部はそのまま、再形成されながらどんどん盛り上がっていく。牡蠣壟にある牡蠣の殻どころか砕け砂になっている部分まですべて持ちあがっていく。
これ、この土地の牡蠣壟という名前自体が成り立たなくなるんじゃないのかな?!
「どこまで育つんだこの牡蠣の殻、わかるか天」
「……たぶん、ここにあるものが全部集まるぐらいまで行くのかも。そして来てみてわかったことがあるんだけど」
「なになに?」
「ぼく、今回のこの戦闘、不参加になるみたい。ごめんなさい!」
みんなの視線が天くんを向く。
「それは試練を与えてる側なんだから、そうなるんじゃない?ねえ、アオくん」
「ですよね、そんなことになるだろうって思ってました」
「そんで、参加できないってことは危害も及ばないってことでしょ?」
「しかし本来はこの試練、オイスターが受けなきゃいけないもの、というのにどうなってるのかなこの国は」
「え、私たちが横取りして経験稼ごうって算段って話じゃないの?天ちゃんが戦えない分私が活躍していいってことだよね?いいんだよねチーズ」
「心置きなく」
「やった」
そんな緊張感のあるようでない、いや、最大戦力の一角が落ちてはいるんだけれど、充足するぐらいの謎戦力が加わっているのでまあ、何とかなるだろ感。そして実際まずそうだったら兄さんが来てくれるよね、と勝手に信頼している状態。
むしろ今回の問題は私が戦力となりうるかどうか、というところだ。先日みたいにただ殴って遊んでるだけではまったくダメージが与えられないことが容易に想像できる大きさに育ってきているそれを見て、ちょっと背筋が寒くなる。
主成分が貝殻ということは、炭酸カルシウム。
溶解させるような強酸性のものはこのあたりには、ない。というか環境汚染。
そして分解させるほどの熱量、となると【雷】属性魔法に頼るしかない。
ただこの場合、電気分解の環境は作れないから、吸熱反応による分解となる、っていうかそれでダメージが通るのかどうか。雷の温度は3万℃、炭酸カルシウムの融解温度なんてものはゆうに超過する。
魔法属性の相性がよさそうだからちょっとはダメージとおりそうだけど、それは正に炭酸カルシムであった場合に限られる。この魔力がとおり何かしらの形をとりだしている貝殻が変質をしていた場合、まったく通じない可能性すらある。
加えてもらったロケットランチャーのようなもの、一発目を撃つのはいい。これは再装填ができるのか、一発限りなのかすらもよくわからない。
「チーズさん、これ、巨大化したライムドラゴンみたいですね」
「ほんと大きい……なんかテレビ塔ぐらいある気がする……」
「それ、チーズの国の建物か?」
「そんなかんじかも、いや、これ、怪獣なんじゃ?あ、怪獣というのは私の世界に共通認識としてある空想のモンスターのことなんだけど」
これ、マジで兄さん案件なのでは?むしろ呼ばないとなんで呼ばなかったとか言われそうなんだけど。まあ、通信はつながってるから気が付けば、来るか。
そんなことを考えているうちに、パキパキと音をたて、ディテールが完成していく。ちゃんと顔も形成され、眼もあらわれる。
「このモンスター、名前、『アルティメットライムドラゴン』なんですね。今完成したのか名前が確認できました」
「アルティメッ?!」
その言葉に思い切り噴き出し、むせてしまった。どこのカードゲームだよ、どこの!!ついでに笑いむせび泣きのせいで涙まで溢れる。こんなことしてる場合か自分!
「……気にしないで!ちょっと名前の響きに……!!!!……アハハハハ!!!……ちょ……落ち着く……」
そう言い、取り出した水を飲みつつ、肩で息をする。
「ええー、気にするなと言われても……何がそんなにツボにはいったのか。こちらの防音魔法とステルス魔法が効いてるとおもうので、戦闘を開始するまで気づかれないかとはおもいますが、一撃加えたあとからは追跡されると考えたほうが妥当でしょうね、気を付けてください」
そこで返事するとまた噴き出しそうなので、頷くにとどめた。
「アオ、オレのかけた防壁がそんなに貧弱だっていいたいのか~?」
「いや、信頼してるよ!ただちょっとこの魔力濃度からいって念のため、念のため」
「ほんとか~?」
余裕の表情で笑いあう双子。
そしていまちょっと思う。なんで私たちはこのアルティメットライムドラゴンがちゃんとその形を形どり、オイスターの首都に向けて鼻先を向けるまで、早く着いていたというのに遊んでしまったのか。
ここは別にお約束の世界ではないわけだし、別に名乗り終わるまで待たなきゃいけないわけでもなく、変身がおわるまで待たなきゃいけないわけでもない。先に戦闘を仕掛けること、可能だったのではないのかな。
……いや、こう考えるのもありかな。形どる最中に攻撃を仕掛けると暴発したりして被害甚大とか、それこそ追尾されるとかそういう……いやいやいや……どうだろう。
「よし、チーズ、あいつが進み始めるようだ。私が行ってもいいか?」
若く美しい、たぶん、この世界初の人型魔族が先陣をきるべく好戦的な表情を浮かべていた。




