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第299話 ボレイリョウ(18)

 これ、左側で入ってきてしまったけどこっち、男湯になるんだよね、たぶん。ただ、本当に時間がないから内装なし、とはいっていたけどほんとうに内装殺風景。

 でもちゃんと温泉だけは湯船にあふれていて、そこは最高、だと思う。


「ここって壁画描いたほうがいい場所なんですか…?」


 イオくんは壁を見上げ、そうつぶやく。実際今はただの白くて大きい壁になっているから、なんかもう、物足りない感じがする。そもそも銭湯は生まれてこの方数回しかいったことはないけれど。

 

「日本人ならここに山の壁画がほしくなる、かな。日本っていうのは私の故郷ね」

「さっき言ってたフジサンって山かな?どんな山なのかな?ねえ、あおあお」

「絵に描きたくなるような山なんじゃないかな。異世界にはニホンって国があるんだね」

 

「……じゃあ、一番風呂いっとく?」


 その言葉に歓喜の悲鳴が上がる。想像に難くない人物、テミスだ。


「こんな新しくきれいな!湯に!入って良いのだな!実はだな、シャワーはできているんだがお湯に入るのが前にチーズと入って以来で……」

「…………僕も温泉を知るまではそんなものでしたよ?湯船がある家もそんなには多くはないですし」

「だよな、師匠の拠点でも全部浴槽があるわけじゃないし」


「うそでしょ!耐えられるとは信じがたい……お前たちのレベルであれば水を抽出することから温度をあげることまで造作もなかろうに」

 

「だって必要性、感じてなかったし」

「体を清潔に保つことだって魔力でどうにかなるしな」


 これは仲裁に入るべきか?いや、そもそもこれは喧嘩でもない?確かに清潔に保つだけならアオくんもイオくんも問題なくできるだろうけど、それじゃあリラックスはできないもんね。

 

「ねえ、チーズ。先に準備しにいこう?」


 わかりやすくも実のない論争に意義を見出せなくなった天くんが、次の行動に移ろうとしている。何気に生後1年もたってないのに、大物感だしてきてるよねこの子は。

 

「いこういこう。あとで暖簾とかつくりたいな」

「暖簾ってなに?」

「男湯と女湯の目印」

「目印か~!!」


 ついでに温泉の泉質を鑑定、案の定[硫黄泉]。匂いでわかりすぎるよねこればかりは。

 登別地獄谷観光でネックレスが一発でダメになったことを突然思い出し、アクセサリーをいま身に着けていないことを再確認。


 おおまかな効能は、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症っと。さすが閃々と閃電、いい仕事をしていて温泉の温度は38℃と42℃に保たれている。

 露天風呂はないけどサウナはあり、中を見てみると結構広くて10人は入れる。そもそもこの世界でサウナが一般的かどうかはわからないけど。


「閃々と閃電、たぶんだけどチーズの思い描く内容で温泉作ったと思うよ。ええとね、虹竜の特技なんだけど、記憶を読む、ではなく、一番そのものに大きなイメージを持つ人のイメージを増幅してから補強するんだ。時間がないときしかしないんだけどね。これも継承した記憶にあったことで知ってる」

「すごいね、それでここまで造れちゃうんだ」


 そこから脱衣所となる場所へ移動する。洗面所はあるけれど、それ以外は何もない。

 取り急ぎ人数分の脱衣かごなんてものは持ち合わせていなかったので、未使用のコンテナを並べてみた結果、かなり何とも言い難い見た目となった。


「あとで脱衣かごとか、かご置き場とかなんとか設置しよう」

「このかごだと何人分も入りそう!鎧とかも入りそうだね」

「強化魔法のおかげで鎧ってつかってないもんね」


 確かに街や、ネルドギルド宿舎で会った人たちの中でも前衛職の人は鎧を身に着けていたなあ、などと思い出したけど最たる前衛職、アオくんはあの調子。動きやすそうな格好ではあるけれど、戦闘向きとはおもえないシャツにリボンタイ、ベストにひざ下丈のパンツがメイン装備で、おおよそ剣や大剣、ハンマーで殴りかかってこなさそう、くるけど。イオくんはどちらかというと後衛だけど揃えの衣装、これ誰の趣味なんだろうなあ。魔女さんかなあ。ちなみに天くんは兄さんのおさがりきてるのでほんとうに帰ってきたミニ兄さんみたいなことになってるし。


「あ、チーズ!あっちのお風呂にいくのだな!一緒に行く!」

「僕とイオ、天はこっちでいいんですよね、チーズさん」

「お?清潔論争終わったの?」


「……おわった!」

「いや、終わってはいないのですが、温泉に入りたいので、やめただけです」

「そっかそっか。なら結構。とりあえず脱衣かごがわりにコンテナ置いたからつかって?私とテミスは隣に行くから」

「わかりました。天もごめんね」

「チーズと話しておもしろかったから、いいよ」


 そしてまだ暖簾のない女湯に向かう。テミスはなんか歌っている。これ多分、自作の「温泉のうた」または「おふろのうた」だ。自作歌を口遊むほどにこのテミスは育っているのか、ほんと末恐ろしい。ていうか、なんだかフレンドリーではあるけどこの子の初登場を考えるに、いまだに結構恐怖の対象でもあるんだけど、あまりにもびくびくしたり怖がっていたらさすがに失礼だよな、と思い、度胸をもって付き合っていこう、と割り切った。


 これで結構、天真爛漫でかわいいところがある、と思う。付き合いは浅いけど。

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