第296話 ボレイリョウ(15)
ちょうどお昼になったので適度なキャンプ飯ホットサンド(昼)を作り、サクッと食べる。そもそも実家は買い置きが多く冷凍庫4つ分の肉や魚があったので、現地調達食材とあわせてまあまあもってはいる。ただ、本当に加工品に関しては心もとなくなってきているのも事実。具体的に言うと、ハムとかベーコンの類。
そのうちハムとチーズ、卵を使ってホットサンドをつくり、先ほどの足湯を楽しんだ川のほとりでいただく。この世界でのハムは食べた。が、使えないわけではないけれどちょっとニュアンスが違う。自分のニュアンスにあう食肉加工なんてものはほんとうに経験とか必要となるから、ハム工房作れとかそういう話になるとはおもう。
幸いなことに、狩猟からの食肉加工までは一連としてするものではあること、大学で学んだ技術等もあるから完全な素人とは言いづらい。温湿度管理もしやすからここは【無限フリースペース】を活用してハム工房でも作ってみようかな。またやりたいことがふえてしまう。時間と体がたり……るのかもしれない?魔法もあるし。とそこまで考え、チーズ工房もまだ未稼働だという事実を思い出す。落ち着いたら造りたい。
「疑問なんだが、なぜチーズはこんなにいろいろな食べ物がつくれるのか?」
「突然改まってなに。食に貪欲なほうが、人生楽しいから?」
「僕も最近楽しいです」
「ぼくも、ぼくも」
「……オレも前にも言ったことがあるけど、アオが羨ましかったぐらいには自分も加わりたかったし、オレも楽しい」
そこまでべた褒めの返しがみんなから来るとは思わず、うっかり真顔になった。
「……そこまで?」
頷かれる。そしてなぜかテミスだけは仁王立ちで腕をくんで頷いている。
「チーズの料理、おいしいからな!昨日から食事が楽しい!じゃあこれからどうするんだ?」
「ええと……ちょうどいい温泉スポットを探して、閃々と閃電、呼んでみる?」
「いいの!チーズありがとう!」
「じゃあ、イオ、探る?」
「りょーかいりょーかい」
足元から魔力が走る感覚が一瞬。
「……カルデラ湖の湖畔のあたりかな?またちょっと登山ですね」
「目立たないようにこの辺片づけてから歩いて行きましょっか」
「こういうのってハイキングっていうの?ピクニック、それともトレッキング?っていうの?登山っていうの?遠足?」
「【ライブラリ】に聞いてみるかな!」
「確かにカテゴライズしづらいですよね、まあ、なんでもいいです」
「こんどどんな温泉宿が建つのかな~たのしみだな~」
ところでこの子達、温泉宿を建てることを前提に動いているけど、土地関係とかどうにもならないとはおもうんだけど、そこはきっとどうにかするつもりなんだろうか……。大人の権利発動とか必要になるんだろうか……と心配になりつつも、とりあえず目的地に向かおう。
◇
歩くこと3時間、目的のポイントに到達。
湖の中に小島が3つぐらい、周りに建物はない。対岸に活火山とおぼしき山が2つ、1つは煙を吐いている。水はとても澄んでいて青い。
最高の景色すぎる。
「火山、1つは休火山かな?こんなに綺麗なのにここを観光地にしないとか、オイスターの人たちはのんびりさんだね」
「煙を吐いてる山の近くで何かしようってなかなか思えないんですよ。まあまあドラゴン、紅竜が来ますし。最近ネルドに紅竜のドラゴンの厄災があったばかりなので、はぐれ竜しかいないんですけど」
「厄災を起こすのはその種族のトップってこと?」
「そうですね、紅竜の王だと思います」
「へえ、母様にこんど聞いてみよう。どんな竜なんだろう、 紅竜の王」
活火山もあるし洞爺湖みたいなイメージでいたけど、そうなんだ。お土産屋もないんだっていうか温泉宿ないから作ろうとしてるんだから、あるわけないか。もったいない。
「オレのおすすめはここの景観がよいところ」
「確かに、景観がいいね。維持の魔石、これでいいかな?」
見たことのないサイズ、緑色の5メートル級の魔石をアオくんがどこからか出す。あ、アオくんの収納か。
「うーん、もう一つぐらいあったほうが安定するかな?」
「わかった。じゃあ1つは外、1つは建物の中に置くことにしよっか」
「りょーかい。たぶん閃々と閃電呼ぶ前に模擬凍結魔法仕掛けて維持しておいたほうが、気配を消せる、はずだよな?」
「ちょっと待って、なんとなくわかるけど勝手に進めない。何をするかちゃんと一度教えて」
迂闊だったな。ノリできてしまったけど、ばれたらヤバイやつ。そもそもばれようがないかもしれないけど……。温泉がある、と言われてきたのはいいけどまったくただ温泉が湧いてるだけだから、本当にゼロベーススタート。正直ナット王国の中にできた温泉地より権利関係がクリアされてないのではないか。
「閃々と閃電、力が強いものの強制召喚はそれなりに人に悟られやすいのでさっきもつかった気配消しの隠ぺい工作をしようかと」
「そして他国の領地に勝手に温泉宿を作るので模擬凍結魔法を維持して見つからないようにしようかと」
「……二人で勝手に相談して決めたでしょ?私この国のルールに詳しくないけど、宿を建てちゃったとして土地の権利関係って大丈夫なのかな?」
二人の笑顔がはりついた。あ、ヤベっていう表情だ。
「えっチーズが任せてたわけじゃないの?」
「私は便乗しているだけなので発言権はないな!ははははは」
知ってたよ、天くん、テミス。しかしもって双子が説明もしないでガンガン進めていくのはこれ、ものすごく温泉が楽しみだったってことと理解してよろしいのかどうなのか。
「チーズさん、土地の関係心配していたんですね。そこはですね、もちろん考えてますよ!そこに関係するんですが、これから造る温泉宿の管理人に[オイスター]出身者が必要になるので、あとでスカウトに行きましょう」
え、アオくんどゆこと?
そのタイミングでざあっと湖が波打った。




