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第274話 ユガミガハラ(9)

 2匹の竜人は呆然としながら、そこに突如現れた老人にくぎ付けになる。


「煉瓦の窯亭さん、ワシの席はここかのう」

 

 そう言い目の前にあるテーブルに堂々と座る。ここはレンガ造りでもなければ窯もない。


「儂は今日ピッツァが食べたいのじゃ。ピッツァが。お勧めのピッツァはなにかのう?トマト味がええのう」


 どこから覚えてきたかわからない老人仕草に噴き出しそうになるが必死に堪える。ついでに2体の竜越しにこっちにウインクしてくるとかマジで勘弁してくれ。因みにシラタマ王はノーリアクション、無表情にノリを見ている。


「ジジイ、お前何しに来た!帰れ!」

「別嬪さん、メニューをくださらぬか。今日のおすすめはなにかのう」


 ガン無視し話をすすめている。お前怖いよ面白いよなんだよそれ。


「……そうか、メニューがないおまかせのお店なのじゃな?アンティパストから始めてもらって結構じゃぞ。お酒のリストを頼む」


 イタリアンの設定なのも謎だけど2体の人に化けている竜の顔も相当面白い。力で王を押さえつけてどうこうしようとしていた者たちとは思えない動揺ぶり。


「ご老人、ここは飲食店ではないのですがね?」

「なんだと!儂が耄碌していると?そうかそうか。儂に出す料理はないというだな?」

「だからここは店ではないと…」

「この向日葵の杖の露と消えたいようだな!」


 だからその芝居は一体何なんだよ?どんどん笑いより恐怖が克ってきた。凍結の魔女は生まれてこのかたずっとこんなの相手にしてきたのか?

 ノリは杖を誘拐犯に差し向ける。


「ご老人、その杖のランクではでは私たちに立ち向かうことは無理ですよ?」

「仕方ない、つまみ出すか」


 そう言うと鳥竜種の2体は竜種特有のプレッシャーを解放する。王城の一角で解放していい怒気ではない。が、ノリがその怒気のオーラを一瞬で杖に吸収すると向日葵の杖の株が増えて向日葵の杖(花束)になった。なんだよそれ。


「おうおう、そんな怒気は向日葵の栄養にしかならんわ。いいからピッツァを出せ!」


 横でたまらずシラタマ王が吹いた。そんなに食べたいかピッツァ。

 いっそ造るか石釜?

 

『ユウも遊んでないでそろそろ出てきたらどうだい?』

『お前からかいすぎなんだよ』

『こういうことしたくてこの姿になったんじゃないのかい?』

『わかったわかった』


 そこで転移を装い、ユウの横に突然現れてみる。腰に差す齧歯の刃は鞘がないので割と見た目が最悪だ。向日葵の花束をもったジジイと入歯みたいな武器をもったジジイが並ぶ光景はかなり滑稽すぎる。もうこうなればやるしかない。やるしか。


「お前さんが誘った煉瓦の窯亭とはここなのかい?」

「儂の座標で転移してくるとは腕はなまっていないようじゃの」

「ははは、褒めてくれてありがとさん」


 そう言うとノリの正面に座る。シラタマ王は完全に口角があがっている。


「儂はトマト味のピッツァが食べたいのじゃ」

「ああ、お前さんすきだったな」

「そろそろ準備してほしいのじゃが」


 実際は別の食べ物かもしれないけれど、自動翻訳自動認識なのでほぼ同じものと判断していいだろう。しかしピッツァがあるってことはチーズと同じような食材はありそうなきがするけれど、ナットのあとにシラタマに行ってしまったせいかまだ遭遇していない。乳牛もいないようだったけれど、それも似たようなものがいるのかもしれない。


「ジジイがふえたぞ…」

「さっき怒気を吸収したよな向日葵のジジイ…」

「まあ、我々の本来の姿を見せたら驚いて退散するだろうよ」


 丸聞こえだけど、そんな程度で去るようならこんなとこ来てないって。


「何度言ったらわかる、ここはそんな料理屋ではない」

「ではいったい何をしているのだ?男2人と女性1人とは。しかも女性はそう……そこから動けなくなっているではないか。あとそこの折檻をうけているような人間もかわいそうだろう」

「そこまで見ていて食堂とのたまっていたのかジジイ」

「さて、どうじゃろう、どうじゃジョナス」

「お前のその口の利き方はかわらんな、テレンス」


 この名前はさっき決めた。第二の偽名をつくったっていう。予想としてはこのあとここで竜の姿をだせないだろうから疑似空間拡張魔法をしかけてくるだろう、望むところだけど。そこまではノリと打ち合わせ済み、そこで畳みかけて潰すまでがワンセット。


「お前たち迷い込んだわけじゃないな」

「ははははは、今頃気づいたのか。この歴戦のジジイを相手に戦えるかな、小僧よ」


 そう言い、齧歯の刃を構える。俺も少し興が乗ってきた。


「そんな入歯のような武器で我らに挑みにきただと?いい度胸だな、新しくきたジジイ」

「ジジイとは失礼な!俺にはジョナスという名がある。失礼にもほどがあるぞ!お前たちも名を名乗れ!」


「俺はドン、こっちの若いのはビルだ」

「親父、素直に名乗ってどうすんだよ!」

「ここで終わるんだ、別にいいだろう?」


 そう言うと予想通りというか、息子の方が空間拡張魔法を使ってきた。 

 石造りの地下室、5メートル四方、天井まで3メートルぐらいだった部屋が10倍程度の大きさまで拡張し、ダンジョンのボス部屋みたいになった。


「シラタマから送られてきたであろうお前たち。俺たちは王から息子と息子の嫁の居場所を聞くためにきただけだ、なにもしなければ危害は加えないが。その武器の程度じゃ技量も知れる。けがをしたくなければ手は出さないことだな」


 鼻で笑ったうえで、両手を広げ、すごんでくる。これ、もうすぐ元の姿に戻るのかな。とおもいつつ、突っ込む。

  

「随分偉そうにしているが息子夫婦に逃げられたんじゃな」

「何かやったんじゃないのか?」

「いびったのかのう」


 そういい手を叩いて笑う。簡単にいうと挑発だ。

 竜の親子はわかりやすく挑発の乗っている。いいぞ、いいぞ。その調子その調子。


「ジジイも、お前たちに恐怖というものを教えてやる。入歯の剣と花束で勝ち目があると思うな!」


 そう言うのと同時に、2体の変身が始まった。

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