第260話 浮世音楽堂(24)
シラタマ王は嵐の様に去っていった。なんだか強そうな女性だったけど、この人が兄にシラタマでの営業許可を与えたってことなんだな。妹だって名乗ればよかっただろうか。まあ、他人だけど。
そんなことよりも、先日の滞在でいつの間にか王に会って、その結果一瞬だけど会いにくるぐらいってアオくんがすごいと思うわけだけど。
「いい人だろ?これで汚部屋耐性まであるんだよ。すごいよな、シラタマ王って」
「いやこの一瞬で判断はできないけど、突然会いにくるぐらいの関係ってお前一体なにしたんだよ」
「いや別に何も……あ、今回の主犯から連絡きた」
「なんて」
「最高のサプライズだろ!って。主犯のシラタマ図書館の司書さんでどうも王の親友なんだよね。ナット王とシンさんの関係に近い感じ」
「そしてオレの存在が知れていた、そして見に来た、と」
「うん」
イオくんは半分呆れたような顔をしつつ、まあ、別に隠されるようなわけじゃないけどさ、とつぶやく。
そこからは翌日のタイムスケジュールの確認をしつつ、晩御飯を準備。今日はキッチンを借りてごはんを作る。ハギとフジはご飯を基本的に食べず、お茶が主食だというのでヨモギ茶とカモミールティーとどちらが良いかきいたところヨモギが良いというので、淹れる。
私たちの食事はなんとなく、特段意味もなく、鍋にした。
昆布だしをとり、その上に冷凍してあった鮭を解凍したものを入れ、アクをとる。
そこから野菜や豆腐、白滝を入れ、みそ味をベースとした調味料を加えて煮る。最後に春菊を加え、完成とする。要するに、石狩鍋をつくったわけだ。
こう、半年たっても前の世界の食材を使えるのは冷凍したものをそのまま時間停止に投入しているおかげであって、冷凍臭もつかずに保管することができるのはラッキーこの上ない。そして鮭のこの世界での食材置き換えは兄がすでに完了しているので、思いっきりストックを使ってしまって構わないことになっている。
地球と似たような生態系をもった動植物、魚はかなり多くいることが確認されていて、生産地とともに兄が置き換えリストを作成。私もそれに微力ながらも協力し、まあまあ置き換えはできるようになってきている。とりわけ日本の食材については、ほぼシラタマを生息地、生産地とする食材で概ねカバーできることがわかってきている。
これもすべて兄がシラタマ国内を休みを使いまわることで完成してきたもの、高ランク過ぎる鑑定サマサマな結果なのであった。
「チーズさん、今日の鍋も最高です」
「明日に備えてしっかり食べてね!おかわりあるよ~」
「お願いします!」
「ぼくも!」
アオくんと天くんは私との旅路でちょくちょく鍋には遭遇していたので、完全順応している。ここで、初めましてに遭遇しているのはイオくんだ。
鍋文化に慣れていないため「みんなと同じ鍋から箸で?!」とか新鮮すぎることを言うので、1回目は私がつくり、お皿に取り分ける。その後はまあまあ味に気が付いて美味しく食べてくれている。
「どう、美味しい?」
「……美味しいです」
「イオお前割と潔癖だから、みんなで同じ鍋を箸で…とかいうの苦手なんだろ?!」
「……知ってるなら先に言ってくれたらいいのに」
なるほど理解。そういうことなら仕方なし。
「わかった!じゃあ今日は菜箸をつかって私がみんなの分とりわけるから安心して!」
「チーズさん、甘やかしすぎです」
「どうやっても対応できない窮地にいるわけでもなし、このぐらいであれば協力して上げて問題ないよ?」
「えー!でもまあ、明日に備えてちゃんと食べろよイオ」
「……チーズさん、ありがとうございます」
「僕にはないの、僕には」
そんな感じで笑いが溢れる食卓となり、英気を養う。
ハギもフジもお茶が気に入ってくれたようで、おかわりして飲んでくれている。
その後、この世界に来た日に振舞ったのと同じ、私特製の食後のアイスをみんなで食べ、翌朝に備えそれぞれ眠りについたのであった。




