第259話 浮世音楽堂(23)
アオくんは一時的に喜んだものの、いくら見かけたからって突然連絡するのは常識外、というかそもそも王の連絡先は知らないという事実について気が付き、落胆していた。正直いってかわいい。
「お前が気が付いてくれてよかったよ。一国の国王様だからな」
「でも、知ってる人には連絡いれておこう。そのうちイオも行こうよシラタマ。初回だから海路になるけど、今回で外出期間がある程度の期間でとれることがわかれば、また一緒にいけるよな」
「まあ、そうだけど……。なんというか、自分のルーツを見たくないと言うか……。母さんの記憶は殆どないけど、姉さんも教えてくれないし、知ることが不利益になるような過去だったらいやだなあ……とかオレは思う訳!」
この双子、師匠の魔女さんがいないと、すぐ二人の世界で会話開始するんだな、っていうのがちょっとずつわかってきた。
「僕のあった人に悪い人、いなかったと思うけど。あと、母さんのルーツっていっても遺していった痕跡もなんもなかったわけだから、自分で自分の遺伝子を媒介にした探索でもしない限りわかんないんじゃないの?どうしても嫌っていうならいいけどさ」
「……そのうち考えてみる」
「たまたま縁者とか出てきたとき僕一人だったりしてもいやだしさ!ってことで、知ってる人に連絡しとこう」
「だからそれすら余計だと思うんだけど!」
「時差もあるし、そんなにすぐは…返事来た」
「は?!はやいな!」
「……王にも言っておくって」
「お前なんて連絡したんだよ」
「変なことは書いてないよ!『今弟と一緒に[オイスター]に来てます。中継で王をみかけました!』って書いただけだよ!」
イオくんがそう言うと同時に家中に鳴り響く警報音のような音が聞こえだす。
具体的に言うと多種多様の蛙の鳴き声の多重奏。
そして天井を仰ぎ見、険しい声をハギがあげる。
「うわ!侵入者だ!ここ見抜くとか…今話していた程度なら問題ないとおもってはいたが失敗した!甘かった!くそ」
「どうするハギ、強制転移するか?!」
「貴様どのような相手に連絡をとったのか!主様の弟子といったがとんだお荷物じゃないか!」
ものすごい剣幕でフジがアオくんをにらむ。さっきまで天くんにメロメロになっていたようには全く思えない。魔女さんの生き写しから少しワイルドというか自然の驚異としか見えない感じに姿も転じている。私も家の中での戦闘を想定した場合短刀が一番適していると思い、【無限フリースペース】内の武器庫から適当なものに手をかけ、警戒態勢をとる。まだ研究施設も見せてもらってないのにこの家が壊れるような沙汰は避けたい。
そう考えたとろで2発、柏手が鳴った。
「夜分、失礼する。警戒は不要じゃ。なあ、碧生」
「王!」
その姿を見たアオくんは声を上げると同時に最敬礼をする。その姿を視線の端で確認し、勢いよく私は思い切り土下座をした。間違っても刃物を手にした状態で対峙して良い人間ではない、ということがわかるからだ。オーラも半端ない。
「ほらほら、皆の者面をあげるがよい。そんなに警戒するものでもないぞ。突然の来訪失礼した。ちょっと様子を見に来ただけだからな、すぐに帰る、心配するな。脱走したことがばれたら私も困るしな。アオ、久しいな……久しくもないか!横にいるのが双子の弟か!碧生に比べてなんというか……細いのう!」
「はい、弟の伊織です」
「はじめまして」
シラタマ王はにこりと笑う。そしてこちらを振り返り私と天くん、ハギとフジを目視しつつ「私は害を与えるつもりはないよ。ちょっと碧生に会いたかったあだけさ。それにしてもお前たちは不思議な気配をもっているな。いや、詮索はしないがな」と言い、増してにこにこしている。
「私は碧生に会いたかったのと、伊織にも会ってみたかっただけだからな。騒がせた。さあ、バレる前に帰るか……?そこのあるもの、もしかして『浮世音楽堂』か?」
「はい、今縁あって借り受けています」
イオくんが答える。確かに借り受けてきたのはイオくんなわけで、イオくんが答えるが道理。
「ええといまの『浮世音楽堂』の所有は……ああ。今回の葬儀で展開するという話がなかった…というかどこの国が所有していたか…と考えていたら思考がまとまらなくて、これは大きな力が働いているな、と思って考えるのをやめていた、というわけさ。というわけでどこから借り受けたかは聞くのはよしておこう。まあ、世界でなにかが起こっていることは感覚的にはわかってはいたがな」
モヤ王がライトに話してくれるうえにあんなことになっているので多分威圧感もオーラも半減してしまっているんだろう。リアル王はやはりすごい。
「では明日『浮世音楽堂』を展開してくれるんだな。よかった。気休めかもしれないが、ありがたい。これで[オイスター]王の魂も安寧地に導かれるであろう。では、帰ることとするか。皆の者、会えてよかったぞ。あ、そうだ。私がここに直接これた理由は詮索するな。ただ、この手が使えるのは世界でも私だけだから、警備レベルをあげるとかそういう対応は不要かと思われるが、そこは自己判断してもらっていい」
浮世音楽堂について聞きたい。が、王が転移魔法を発動しようとしているのがわかる。そして不敬!とか言われても困る。とか思っていたら、王が察してくれたのか、一言だけヒントをくれた。
「そうだ『浮世音楽堂』は真摯な演奏に応える。よろしく頼んだぞ」




