第254話 浮世音楽堂(18)
噴き出した結果、師匠に肩をぐっと掴まれた。力がつよい。
「この鶏たち、結局どういうことで、大丈夫と言っているんだ?」
「自分たちの世話は自分で見れるからオレに畑管理のオートランだけ走らせて旅にでてもいいよ、自分のことは自分でできるよってことだと思います」
本当にできるのか、できたとして人型のとしての動きはトレーニングをしたのか、そしてチーズさんの愛犬ういが眷属トークでこの鶏たちに言語を教えていたって。ういは犬としての年齢は3歳で、【人型変異】も【動物言語】も相当早い時期に取得しているが、巨大化だけは使用するが、頑なにその2つのスキルは使っていないと聞いている。
レベルがあがったことによる知性の向上、そしてこの鶏たちを越える語彙力を持っている、ってことは一体自分なりに満足して飼い主と話をする時はどのぐらい育っているのだろう。
ものすごくその瞬間は見たい。
「鳥の【人型変異】とはいえ志摩と永長に比べて言語力はいいとして、記憶の持続が短期すぎてまあまあ不安があるな」
「たぶん、レベルをあげることによる知性の向上で解決するんじゃないですか?多分」
「ああ、そうか。そういえばそうか…昔あの2匹もそんなんだったきがしなくも……ないきがしてきた。しかし眷属に対する経験値の分け前の上限距離ってどのぐらいなのか。結構国を越えて遠いこともあるのにな」
師匠はこの奇怪な状況を理解してどうにかしようとしてるのかはわからないけれど話をちゃんとしてくれている。さすが年の功。
「そこは、距離が遠くなると分け前も少くなってますよ。今回ここまで習得できたのはなんでしたっけ…あの…そうそう!この国のダンジョンを発見して入ってくれたおかげです。あそこで急成長できた!ノデス!」
ああ、兄さんが激怒していたあの落下事件の。確かに護衛対象が目の前で消えたら真っ青だよ。
「うい様と話しながら主様を驚かそうといっていたのに、すっかり忘れてイオさまの前で人型になっちゃいました テヘ! 後で怒られるかもしれませんが、まあ仕方ないです」
イッチと名乗った方がそんなことを言っている。何がテヘ!だ…なんか疲れる。ってこれ流されてここでとりとめのない会話をしている場合ではないのでは。ただ、本当にこの鶏、任せて大丈夫なのか?!っていうか自分の世話を自分でするだけなんだけど、本当にできるのかな?!
「ところでお主は自分の事は自分でできる、とはいったが、何をするかわかっているのか?」
「イオ様がいつもやってることをやるだけ。多分出来る」
「それは、いざやってみたらわからなくて放棄してしまう未来がみえるのだが……」
師匠、それはオレも同意です。
「よし、わかった。最初から疑ってかかっても悪いな!じゃあ、3日だけ自分たちでやってみるのはどうだ?わからなくなったらイオに聞くといい。そしてイオ、ちゃんと身の回りの世話ができることを確認できたらわたしに報告、合格点がでたら今回の件の国での修行期間、行ってきていいぞ。最初からわたしに相談しなかったのはお前のプライドとわたしを心配してくれたためと思っておこう」
「ありがとうございます、と言いたいんですが!これ!3日でどうにかなると思えないんですけど!」
「そこはお前の手腕次第。がんばれがんばれ」
師匠はめっちゃニヤニヤしている。これ、多分自分の中で折り合いつけてまあこれならいいかって決めたやつ。
「わかりました!師匠のお世話時間以外はオレ、この家に滞在しますよ。いいですね?師匠も何かあれば呼んでください」
「いいぞ、いいぞ。大きな試練の前の小さな試練だとおもっておくといい。しかしお前、わたしが一人だと何もできないと思ってる節あるよな」
「何か違いますか?」
「違うだろ!何年生きてきたとおもっている!」
説得力が皆無な気の抜けた姿を大量に見せてきていると言う自覚がこの師匠にはないのだろうか。
「我々も、がんばる!ぞ!イオ様に認めてもらおう!」
「ただ、ロワ以下いつ必要スキルとれるかわからないからな、我々が2人で頑張るしかない」
「そうだな!」
その話を聞いている横で、師匠が魔法石を鶏小屋の横に置きだす。
「なにやってるんですか」
「イオのために変身する場所と着替えロッカーを鶏小屋直結でつくろうかと。どうだ?」
「……大変助かります」
「素直でよろしい」
そう言うと師匠は鶏小屋の背面にドアを設置、そこから短い廊下を経て小さな平屋建ての建物を設置する。
「これ、チーズの元居た世界にあるものでプレハブ、っていうらしいぞ」
「へえ。随分ちゃんと研究してるんですね」
「異世界の君として召喚するんだからかの世界もちゃんと見ておかなくてはだめだろう?」
「それもそうですね」
そこまで言って気づく。師匠、チーズさんたちが元居た世界をどうやって見たり、知識を蓄えたりできたのだろう。オレの知らない魔法をきっと使っているんだろうな。
◆
ハギとフジの寝室にいくら入っていいと言われたからといって、当の精霊が寝ている隙に覗きに行くのは気がひける。
あの部屋のおおまかな状況を2人に話したところ、拒絶するどころか興味深々だった。
「確かに蜥蜴や蛇、蛙が苦手な方はいらっしゃいますもんね」
「ぼくだって白竜、だよ!仲間かな?」
「天くん恒温動物だから、ちょっとちがうかな?」
「こ……何?」
「それはね、寒くても暑くてもある程度体温を保持できるというからだのつくりってことだよ」
「ほ……?」
「そうですね…例えば……あ、ちょっとお待ちください。イオからの通信です」
「…………終わりました」
ものの数分。そっけない長さの通信が終了した。
「ほんと要点だけだね」
「いつもこんなもんですよ。じゃあ、イオの伝えてきた内容、共有できるようなものについて、共有しますね」




