第250話 浮世音楽堂(14)
この拠点に入るときはあんなジェットコースターだったというのに、出るときはすんなり出ることができた。
「あれはな、外敵を除去するトラップなんだよ。たまに引っ掛かってそのまま転送される奴がいる。因みに転送される先はその者の家という優しい設計だ」
「ちなみに出迎えにでたから主の弟子一派のお前たちはトラップが通り道に代わると言う形で家までたどり着けたというわけさ」
そしてハギとフジの2人はハハハハと笑いあう。魔女さんがいう『精霊』と付き合うのは難しい、と言っていた意味はこの辺にあるのだろうか。今ちょっと話した程度で少し感じるぐらいの違和感、これがしっかり話したり付き合いが長くなってくるとその感じる違和感が大きくなっていくのだろうか。
この相いれない感じ、確かに怖いな。
◇
ハギとフジの使う転送魔法で城が背後から見渡せる高台に案内された。こんな攻め入られそうなところに開けた高台があるとか警備上どうなんだ?って思うけどそれだけ平和というわけなのかな。
「そうか、お前たち『救国の魔法使い』から伝えられたその魔法、使用するのは初めてか」
「そのとおりです。本来は1人で行使して継続させている魔法ではあるのですが、僕の技量が及ばないために、2人で行使するようにと言われています。ただ、魔法を走らせるプロセスは把握していますのでその点は万全です」
「では何かありそうになったら補助にたってやろう。何もないとは思うけどね!」
「保険だ保険」
「助かります」
ほんとうに天くんと私はただの見届け人というか、邪魔をしてはだめだということでただの傍観者と化しているので、キャンプチェアとテーブルを出して、あったかい麦茶を保温マグにいれて飲みながら待つことに。
「美味しいね、あったかい。あとこの服もあったかい!」
「そうでしょそうでしょ。兄さんのスキー学習に使っていたスキーウェア。ぴったりでよかったよ」
「ねえ、スキーって何」
確かにスキーとか突然言われると疑問に思うよね。
「この国雪がいっぱいあるから、アオくんたちの仕事が終わったら教えてあげるよ」
「いいの!たのしみ!」
「楽しみにしててね~。スキー用具も【無限フリースペース】につっこんできてるから。あっ始まるみたい」
「ちゃんと見て勉強、だよね」
アオくんとイオくんは前にウララさんの旦那さん、要するにレイさんの探査に使っていた杖を出し、集中を開始している。各国の弔問者が来る前にこれを行わないと、どこからこの魔法を行使したか、バレてしまうと問題がおきても面倒となってしまうぐらいの大きな魔法、ということだからだ。
魔法が発動さえしてしまえば王の力を持っての維持となることから、この2人が何かをし続ける、ということはなにもない。
そういえばあのウララさんを追っていたら撒いた親戚、その後おとなしいな。いや、生きてるのかな、などと考えていたら目の前で魔力が高まってきた。
あの二人は頭の中で会話が可能である、ということはタイミングあわせも可能、ってことだから凄いな~などと漠然と思っていたら大きな魔力の波が2人から放たれ、そして凪いだ空気がそのあとに続いた。
「問題なくおわりました」
「現王への紐づけも問題なくできましたので、今後の運用は問題がないかと。幼王と紐づけはされてはいますが、維持に魔力は使わず条件は『生きていること』だけ、必要な力は国の大地が大気が補充してくれる、といったさすがとしか思えない魔法式……」
「感想はあとにしてとっとと帰るぞ!いくら鈍めの国柄とはいえ気づかれて誰かがきたら面倒だからな!しかしほんとうにお前たち魔法の扱い上手いなあ。主様の弟子だけあるなあ」
「ちょっとびっくりしたな」
「な!じゃあいくぞ。手を繋げ~」
こんな唐突に終わるとは思っていなかったのでキャンプセットをそのまま【無限フリースペース】に収納し、天くんとともに焦ってみんなのもとへ向かう。
「すみません!出遅れました」
「いや、魔法があまりにも早くおわったせいだ、気にするな。じゃあ飛ぶぞ!」
そう言うと同時に転移魔法が発動、2秒後には先ほどまでいた魔女さんの拠点のリビングに戻っていた。
◇
「お前たちさすがに使い魔ではなく『弟子』なだけあるなあ。その歳でああ、上手くいくんだな!」
「いえ、あの魔法式がとても美しく無駄がないので、なぞるだけで出来たと言うか」
「オレたちが気を付けていたのは流れをきらないこと、魔力をきっちり定量で流すこと、だけだよな」
「そう、それそれ。ただこれからが問題で、この魔法式をなぞることではなく、解析して会得することが命じられているんですよ『救国の魔法使い』からなんですが」
その言葉に、ハギとフジが顔を見合わせ、苦々しい表情を見せる。
「……この魔法、そんなに簡単に解析できるレベルじゃないぞ?」
「一国の維持にかかわる魔法だからな、いとも簡単に編んでいるようでものすごく気が使われている。さすがとしかいえない」
「主様が尋常じゃない避け方していたから直接魔法自体を目にすることがなかったけれど、主様とは別のすごみがあるなあっていう感想だよ」
「僕たち、それぐらいの成長をしなくてはいけないミッションが控えているんです」
「何か気づいたことがあれば教えてください」
2人は精霊に対し、頭を下げる。
真面目だし、真摯だなあ、って思ってしまった。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




