第23話 ネルド『城下町とギルド』(2)
ギルド登録所は今の広場よりも王城に程近いため、マップを見ながら向かうことにする。
なお、アオくんもイオくんもかなりの実力者っぽいけれど、成人はしていないので、まだ登録はしていないという話。
やたらと聡いので見た目年齢が若いだけかと思いきや、リアルで15歳らしい。才能と頭脳ということか。
魔女さんこと”凍結の魔女”はそもそもがギルドとかそういう規格の範囲外とみなされ、登録の強制はなされない、気が向けば登録していただきたい、という扱いであり、今現在登録はしていないということを教えてもらった。
教本には書いてはいないけれど、商売や研究を全くしない、王侯貴族も必要がなければ登録していない人もいる、とのこと。
要するに民衆が効率よく稼ぎ、生活していけるシステムと思われる。
そして、個人ステータスの詳細まではギルド側に全部筒抜けになるわけではないので、素養による強要、強制育成も発生しないとは割とよくできたシステムだ。
「チーズさん、【鑑定】レベル3まであげられますか?」
「そのぐらいのスキルポイントはあるから今あげるね」
言われるがままにステータスボードを展開し、スキルポイントを割り振りしレベルを3まで上げると【広範囲表示】ができるようになり、視界に入る範囲が一括鑑定できるようにアップデートされた。
【広範囲表示】は内容も指定できるようになることを教えてもらい、言われるがまま【原産国表示】を検索設定したうえで、あたりを見回してみる。
そこで視界に入ってきた文字は
[原産国]■■■
周りを見渡す限り
[原産国]■■■
私たちは■■■が「ナット王国」ということを知っている。ただ、輸出され、この国にあり続けた物資や建材、調度品は”原産国”までもが名を失っているんだ。
それにしたって割合がおかしい。家具、建材が殆ど[原産国]■■■。ネルド産はほぼ食べ物ばかりだ。
「鑑定の結果、見えました?この国はもともとナットが技術援助、資金援助をして発展させた国なのでほぼほぼ建材やインフラはナット産なんです。僕が生まれる前の話ではあるんですけど。その後ナットの地下資源が尽き、国として傾いていくときに協力するわけではなく、ネルド側はナットのものを安価で買いたたいて入手し食い物にしていった結果が今のこの状態です。ナットの人間はそもそも商才はあまりない者が多いのと、傾く国を切り売りした王の側近や政治家がいたせいで瞬く間に没落したので、まあ、当然の結果ではあるんですが。これは、実際に見てきた師匠の受け売りです」
要するに、良かれと思ってやってきたことがすべてただの無償提供みたいな感じになってしまい、恩を仇で返されたというか、結論搾取され尽くされるに至ったってことなのだろうか。もしかして止めを刺したんだろうか?見てきたことではないからわからないけれど。
ナット王国は絞っても何も出ないところまで困窮して凍結に至ったわけなので、隣国であるということはその余波がないとは思えない。
「……まずは、ギルド加入登録だよね。」
魔女さんが肩入れしているということは、アオくんもそこそこナット王国と縁が深いんだろうし、苦々しく思うところはあるんだろうな。
広範囲表示を続けたままギルド登録所まで向かう。本当に、見るもの見るものナットのものばかりだ。一体この国の産業は一体何なんだ。
街の賑わい的には地方都市程度、王国というわりには多すぎず、でも、物珍しくみられることもないので結構ちょうどいい。
マップを購入した広場から10分程度歩いた先、城にほど近く、城下町が一望できるところにギルド登録所はあった。石造りの結構立派な建物だ。
ギルド登録所の受付には軍服のような制服を着ている男女一人ずつ並んでいる。
ちなみに戴帽はしていない。そして、制服の肩のエポレットの色で所属担当のギルドがわかるようになっているようで、受付所の制服のエポレットは若草色だ。
「こんにちは、ご登録ですか?」
後方からクリップボードを持った案内担当の女性に話しかけられ、ちょっとびっくりする。肩には斜めがけでタブレットのようなものもかかっている。どういう文明なんだろう?そもそもが【ステータスボード】がこの世界としてはオーバーテクノロジー気味ではあるとは思うけど。
「はい、登録希望です。どのようにしたら良いか教えてください」
「では、こちらへどうぞ」
促されるのは役所によくある記載台。4月の住民票の変更は数時間待ちとかになるあの手続きを思い出す。
「この用紙が申請書になります。名前を書いたらあちらにある受付にお持ちください」
そう言うと案内嬢は所定の位置に戻っていく。
アオくんが”チーズ”と普通によく知る自分の国の文字で書いて大丈夫、どの言語で文字を書いても、すべて自動翻訳されるようシステムが組まれている、と教えてくれたので、信じてそのまま記載したらちゃんと通った。
この転写された世界におそらくは存在しない日本語にも対応ってすごい。




