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第229話 密室ノ会・祈(22)

 翌日、僕とノリさんはシラタマ・サクラからチーズさん宅に転移した。そこで畑仕事をしているイオと合流するという計画だ。あらかじめ師匠にはイオ経由でノリさんを連れていくことを伝えてあるので、退避するも残るも任せることにした。

 だって、大人だから。


「イオ!」

「アオ!」

 顔を合わせるなり、力強くハイタッチをする。手が痛くなるくらいのハイタッチだ。

「君たちはなんというか……強く生きていて眩しいな」

 

 魔法使いさんは師匠が絡まず正気のときはとても頼りになる、ということを日に日に確信している。師匠みたいな行き当たりばったり感がない。でも、この人が僕たちに対してある程度優しいのはあにさんと師匠あってのものであり、僕たち単独では構ってもらえない可能性すらあるとも思っている。

 だから、僕は師匠には申し訳ないけれど、今は僕のできるお礼はしっかりして、ゆくゆくは実力で僕たちの格上げもしてもらえばいいな、と。ゆえに不意打ちで評価みたいなものをもらって、戸惑った。

 

「こないだしっかりキノコに幻惑されてたばかりなので…嬉しいけどまだはやいというか……」

「ほんとになー…あれは…不意打ちとはいえ……」

 

 いつも少しか考えていたことが露見したならまだいい。思ってもいなかった方向に感情を持って行かれ、人を傷つける言葉を吐いてしまうとか今をもってしても残念すぎる。鮮明に記憶があるのもまたたちが悪い。本当に、師匠に迷惑をかけた。ものすごく、かけた。

 

「君たちは本当に彼女の弟子か疑いたくなるくらいまともだなあ!私の名ばかりの弟子とは大違いだ!」


「ノリさん、弟子いたことがあるって。師匠また適当いってたんじゃないか?」

「いや、もしかすると記憶をまた……いや、やめとこか」

「うん」


 もしかして、で、期待をしたとき、この加減を知らないとしか思えない魔法使いが何をしでかすかわからなくて恐ろしいから。


「王と話しを通していて、これから昼時、王の昼食をシンくんが取りに行くタイミングで謁見の間へ行くということにしてある。それなら、人除けいらないだろ?師匠は来たかったらくるだろ?」

「せっかくノリさんきてくれているから、気絶しないぐらいにはなってるわけだし、来てくれるといいんだけど。今何してるのかな」

「まだ魔法発動のタイミングで呪いを受けたことに気づけなかったショックを引きずってる。隙をつかれた、名折れだって。師匠が人生で不覚をとった回数なんて片手分もなさそうだからなあ」

「確かに」


 ノリさんは僕たちが情報のすり合わせをしている間、保護者のように優しく見守ってくれている。というか、いつの間にかチーズさん宅ソファーで優雅に寛いでいる。あにさんといるときは普通にはしゃいで見えるのに、やっぱり永らく生きてきた大人なんだなあとか思ってしまう。


「……あと2時間ぐらいある?暇だな。だからといって温泉に行くにはちょっと時間が足りない……そうだ!寝るか。最近ユウから学んだんだよ、寝れるときに寝ろって」

 そう言うと、ソファで秒で寝落ちた。前言撤回ものだ。

 いや、それたぶんあにさんはその状態でも警戒を切ってないし、時間できっかり起きるんだろうけど、師匠の幼馴染だけあってこの人警戒すらやめて寝ていそうだし、なんなら寝坊までしそうなイメージがあるんだけど。


「じゃあ、暇だし僕は鶏みてくるかな~」

「お世話も卵の回収おわってるし、家の掃除も終わってる。ついでに謎の同期が行われる場所からの種の回収も」

「さすが弟、完璧~!で、何か面白い種とかあった?」

「最近は花の種が結構あるな。あと球根。来年の準備っぽいかも」

花卉かき!向こうのチーズさんが植えようとしてるのかもしれないね」

 

「そういえばシラタマで図書館で勉強させてもらったんだけど」

「あ、それ!全然共有してくれなかったよな」

「双子でも得た知識の共有はできても本の共有は困難らしい。どうやっても僕の主観がはいっちゃうんだよな、そうなると。たださすがに母さんの故郷だけあって、見知った著者の本が結構あったよ。こんどイオとも行きたいんだけど、そうなると師匠担当秘書が必要になっちゃう」


 あの国でたまたまある程度の許可を得たのは弟ではなく、自分だ。弟が同様の優遇をしてもらえるとは限らない。


「結構自分の立場を良いと思っていたけど、結構こういうとき歯がゆいな」

「問題は師匠を放置できないこととこの家の農作業…西の離れの分は最近は僕は直接まったく触ってなくてもなんとかなってるし」

「1週間ぐらいチーズさんに頼む…?」


 とても悩んだ顔で顔を見合わせる。イオはまだ一度もシラタマに入国したことがないから、一回は海路で入らないと許されない可能性が高い。

 

 僕たちが、特にイオが世話役につくまでの間「凍結の魔女」は独りで生活していた。そのはずだ。それなのにものすごく生活能力が欠如していることが見て取れるからものすごく厄介だ。チーズさんであればアレに対応できるのか?!全く分からない。

 

「このことは、また今度考えよう。考えても結局結論がでない」

「確かにな…」

「ところで本の共有はできなくても知識の共有は可能だろう?意識的に止めてただろうお前」

「だって、ニュアンス伝わるかわからなかったし、直接会って話したかったから。あと結構な量の本、データとしてコピーさせてもらってきたんだけどこれも共有できないから、あーー不便だ」

 

 そこから2時間、学んだことの共有をみっちりやった。

 

 そして、王城へ登城する時間がきても、予想通りというか『救国の魔法使い』は微動だにせず寝ていた。

 かわいらしい寝息をたてて。

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