第21話 ナットから隣国への出立(6)
犬飼いさんはご存じかとおもいますが、あさんぽとは犬の朝散歩です。
朝焼けのなか、ういのあさんぽを宿屋の周りですませ、朝食、その後チェックアウト。ドニさん一家に手を振られながら、アオくんとあと半分の旅程を出発する。
ある程度宿から離れたところで後方を確認。
そっと【無限フリースペース】からスケートボードを取り出し、アオくんと目くばせをしたうえでそっとブツを渡す。そこから示し合わせたうえで、地面を蹴り、目的地に向け走り出す。
別に隣国までの道程は山坂があるわけでもなく、たまにそれほど強くないモンスターが出るだけのほぼ平地なわけで、別に危険もそんなにないことが予測された。
「チーズさんおいてきますよ~」
数キロ走ったころ、魔法少年アオくんが、スケートボードに魔力で推進力を加え、電動だったかな?と思うぐらいの想像以上のスピードで疾走しだす。うそやろ。
電動キックボードを断たれた私には、学びたてのうっかりすると土を放出すること以外なにもできない【地】属性魔法と、事故ったら怖いので微弱電力しか使いようがない【雷魔法】しかない。
それに加え、今のところ得意技と言える鉄砲を撃ったところでモンスターの撃破以外に何の役にも立たない。
くそう、と思いながら先を行くアオくんを追いかけていると、ふと世界が暗くなる。
なんだろうと上空を見上げると、空想上の動物だと思っていた、大きなドラゴンが悠々と上空を飛んでいる。
そして、こちらには全く目もくれずどんどん速度を上げ飛び去っていく。
「アオくん!あれ!ドラゴン!!!!ドラゴンだよね!!!」
ファンタジックゲーマー垂涎の憧れの生き物、ドラゴンを目の当たりにして、テンションが爆上がる。
「チーズさん初めてでした?ドラゴン。まあまあ空飛んでますよ」
アオくん当たり前すぎるのか、テンションが普通。でも私は興奮冷めやらない。やっぱりこの世界、ドラゴンがいるんだ。
強くなったら是非狩りたい。
「ドラゴン狩るにはどのぐらい強くなればいいのかな~罠とかつかえるのかな」
「まさか、狩りたいんですか?!過去数例ぐらいしか報告たしかあがってないですよ。しかも、基本触らなければ大人しくしてるうえに知能も高く、状況が許せば会話も可能と言います。種族にもよりますが気性の荒い種族もいて、その場合かなり殺傷能力も高いのでよっぽどのことがない限り触らないほうがいいですよ」
まあ、普通の考えではそうですよね~わかる。でも、ドラゴンハンターってロマンじゃないですか。
遠い将来でもいいから、絶対やってやろう。会話の通じない、規格外の竜がいたら。
そんなこんなで、隣国への道中後半戦は、意外とモンスターや狩り対象の動物がいなかったがために、レベルは2しかあがっていない。
スキルポイントが増えたぐらいで新しいスキルとかはまったくないし、取得もしてはいない。
あまりの肩透かしぶりに「敵はどこ?敵はどこだ?!」とか言いながらボードを走せていたら、あっという間に遠目に隣国の砦が見えてきた。【視力強化】で門確認すると衛兵がいる。
さすがにこのまま国の際までいくと目立つので、アオくんに合図を送り、徒歩に切り替える。
「アオくんはこれから行く”隣国”に行ったことあるの?」
「1度だけです」
今回は国境を越えたところからスタートしているので、入国審査というものはパスしている。
目指す隣国の王都、どんな文明のどんな土地なんだろう。ナット王国は文化というものを知るには国の文化物を放出しすぎていてほぼ何もなく、凍結魔法も相まって情報が足りなさ過ぎて良くわからなかった。
故に異世界に転写されてから初めて触れる異世界の文化と思うと、近づくにつれて、期待が膨らんでいく。
大学のときはその生活から少し離れていたものの、牧場生まれの牧場育ちで、常に動物たちを気にかけ、世話をする生活をしていたために、こう、謎の転写に巻き込まれたうえで自由に旅をしている今が楽しくて仕方がない。
そのうえどうも、自分がやりたいと思っていた農業やチーズ工房も割としっかりできそうな今、転写元の自分は牧場を継ぐべく、チーズ工房を継ぐべく奔走しているのだろうけど、転写先の今自分はやりたいことをやりつつ空想の域みたいなこの環境をめいいっぱい楽しんでみよう。




