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第196話 秘境イノハナ(9)

「師匠、本当にごめんなさい」

「大切なこと、忘れていて、疑って本当にごめんなさい」


 もう、正座をして頭を垂れることしかできなかった。師匠は何気に楽しそうではあったけれど、そう言うとどれだけ怒られるかわかったものではないので、おとなしく黙る。

 

「まあ、名を取り戻したとしても、凍結魔法の影響もゼロじゃない。だがな、あんな、双子だから即採用!とかしてたらわたしの弟子はこの世界にあふれかえっとるわ。あとな、拠点にいるのは『使い魔』、わたしの弟子は、『氷那、碧生、伊織』の3人しかいない。この割と短くない人生で3人しかとっていないんだから、あのきっかけを忘れられていた、というのは結構わりとショックだったぞ。因みにだが、アイツも弟子は居たことがない。だからな、お前たちが世界の双璧に弟子入りできた初の魔女と魔法使いの卵ってことだ。氷那は今役目を買って出てくれたために全く動けない状況になってしまっているのは申し訳ないが」


 あんなに逃げていたというのに、師匠、救国の魔法使いの動向だけはちゃんと見てたのか。口には出さないけれど。


「わたしは辛気臭いのもいつまでも引きずるのも嫌だから、まあ、これからもよろしくな」

 そう言い、オレとアオの肩に手を当ててくる。いつまでも千年前を引きずって逃げてる人とは思えない言いぐさではあるけれど、ありがたく気持ちを切り替え、その言葉に甘え、顔を上げる。ちゃんと見たことがない等身の師匠は、スレンダー美人だった。多分これ、このダンジョンを抜けたら下手したら一生見ることのない姿なんだろうな、と思いながら幼子のようにそっと手を繋ぐ。握り返される手も、あったかい。

「さあ、お前たちも戻ってきたし、虹竜2人と、永長も取り戻すぞ~。そうだ、その前に」

 師匠は兄とオレのおでこにおでこを順番にくっつけてきた。いつもの師匠の姿では考えられない妖艶な美しさにすこしドキッとする。

「これで大丈夫。またお前たちが昏睡して悪夢を見てもめんどくさい」

「僕たちに一体何したんですか」

「精神干渉を弾き飛ばす魔法をかけた」

「え、教えてくれてもいいじゃないですか!」

「まだ、負荷が強いからだめ!お前たちまだ若いんだから、才能にかっこつけてふわふわ魔法をつかってなさい。こういう殺伐とした魔法は成年してからじゃないと教えるつもりはない。自分で編み出すならそのかぎりではないけどな~。魔法式も、今は教えない。……要するに、まだわたしの庇護にはいってなさいってことだよ」


 あまりにも柄にもないことを口走ってるので見上げると、師匠の顔は真っ赤だった。今までにない顔をたくさん見れて、なんだか嬉しく、楽しい。


「さあて、このダンジョン【神代】っぽいんだよ、わたしも入ったのは2つ目だ。まったくもってお目にかかるようなものではないから、しっかり楽しんでおくといい」

「先に吸い込まれた3人、無事でしょうか」

「過去を見るか、今を見るか、不安を見るか、幸福を見るか。まあ、見つけさえすれば探れはする。探ったら突破口は見えてくるとはおもうけど、見たことは、秘密にしてやったほうが、親切かもな~」

 腰まである銀髪がちょっと邪魔になったのか、ゆるいみつあみを魔法で編みながら、そんなことを言っている。

「え、もしかして僕たちもそんな感じだったんですか?」

「黙秘する」

 にやっと笑いながらそんなこと言われたら、答え合わせみたいなものだと思うんだけど。


「【神代】ダンジョンは広大な1フロアダンジョンで、何か大きな特性に縛られる傾向があるらしく、ここでいうとキノコと幻覚・幻惑かな。チーズが育苗ビーム切って出かけたというのに、勝手に再起動してダンジョンゲートを形成した。『異世界の君』が起こした奇跡といったらそうなのだが、どう考えてもこれは呼び込みだな」

「よびこみ」

「イレギュラーを自ら召還したっていうことだよ。人型の魔族も出たとかいっていたが、それもそうだな。この世界の秩序を護るためにとびきりの異物を呼び込んだ、異物巻き込まれた異物も2つ。もれなく強い力をもつからな、この世界のバランスが崩れたんだろう。まあ、崩したのは、わたしなんだけどな!」

 思い切り笑っているけれど、笑いごとじゃ無い気しかしない。

「今ここに王もいないから少し教えてしまうが、ナットはもともとナットという国名ではない。そして世界の中心の国であり、ナットが滅びると世界が滅びる。そのことをわかっていたはずの王家なんだが、地下資源マネーに目がくらんで色々おろそかにする代が3代ぐらい続いたためにその言い伝えも途絶え、ナットの状況も崩れた時に先代王が倒れ、今の王が即位したというわけだな」


 今さらっと世界が滅びる、と言った。


「当代の王は勤勉でな、ちゃんと王家に残されていた文献からナットが世界の要であることを知っていた。だけれども若さからも周りへの指示も通らず、いいように勝手に動かれ、わたしに助けを求めた時点ではもう、ぎりぎりアウトぐらいのところまで状況が悪化していた。だから、凍結魔法を行使し、異世界の君を召還した。この世界にないものを呼び込んだ時点で、不具合はおきることはわかっている。だけど、滅びるよりましだと思わないか?」


 そう言われると、そうですね。としか言えない。

 師匠は「ここだ」というタイミングを逃すともう取り返しがつかなくなるところに対するカンが優れているのかもしれない。ただ、それを誰かに説明したり、理解を求めたりする気が皆無なので両極端な評価となるのかもしれない。

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