第19話 王城の近況報告『王と魔女』(1)
王城の一室、凍結の魔女の私室とした客間にわたしと双子の弟、イオは滞在していた。
チーズとその家を我が世界に転写して約1週間、隣国への道程にあるアオからの通信を切断する。
「アオとチーズは順調そうで何より。そもそもこんなところで躓かれては大問題」
異世界の君の動向は、実のところ上空から見張るように見たいときに見ることができる。ただし、映像・音声の通信はアオが魔石で陣を描いたときのみ行えるようにしている。
リアルタイムモニタリングみたいなことをしては、まるで監視されているようで落ち着かないだろうし、問題しかないだろう。いや、そもそもの見守りシステムがどうかといわれると、問題かもしれないのだが。
横に控えるイオは先ほどの通信でみたカレーがよっぽど気になったのかアオへのうらやましさを口にする。
わたしとこの国の付き合いは地下資源が潤沢だった治世として10代ほど前にさかのぼる。
その時点でも種族の影響もあり永く生きてきたこと、そして生来の才覚があったがために世界の理すら捻じ曲げるほどの魔力と知識をもちあわせ、世界において随一の魔法使いであったがために、資金の潤沢さにものを言わせたこの国が私に王宮魔術師としての仕事を依頼してきたのだ。
用務は割と単純で、依頼され鉱脈を見つけたり、事故防止のための防護策をとったりすることで、お賃金もすごかったので二つ返事で受けた。
そこから王宮に住み着きアドバイスをしながら生活し、そして気づけばやりすぎていたのだ。
治世として3代ほど前ぐらいにもうどれだけ地中をスキャンしても地下資源という地下資源が枯渇、切り崩された山、次々起きる地盤沈下といった正直いって私のせいとしか思えない災害が起き続け、国の政策について方向転換しないと相当まずいことが起きる、と先代の王に進言したところ追い出された上に追手まで仕向けられた。
自業自得とはいえ、私の名前は悪名高き凍結の魔女となってしまった。
世間と関わるのが面倒になったので20もの国に隠れ家を設置、悪名を気にしないでいてくれる弟子をとり、近年は隠れ家を転々としながら生活をしてきた。買い物も完全に弟子の仕事だ。
そして、ついに王国は完全に首が回らなくなる。その時点で、若くして跡を継がざるを得なくなった現王から声がかかったのだ。先代の件は申し訳なかった、この国の再建を手伝ってほしいと。
わたしに助けてほしい、という気が起きたときのみ呼び出されるように王の執務室に仕掛けをつくってあったのだが、結構早いお呼び出しだった。
追い出した王はもういないこと、そもそもこんなことになった原因がわたしにあるがために、少年王の一助となってもいいと思い、私が戻ったことは秘密にするという条件つきで手伝うことにしたのが、今回のこの異世界転写のはしりである。
そこから数年、途中からは弟子とともに何とか表舞台に出ずに何とかならないか手伝いを試みたもの、完全に食いつぶしフェーズにはいっていた。
この国の政治は完全に腐敗、国庫も下請け中抜きが横行し一部が私服を肥やし、果てには高飛びをする。
王がいくら何をしようとしても阻害によりまともに伝達することはなく、国民の大部分にはまったく働きかけることは叶わず、国の私財はどんどん切り売りされ、完全に立ち行かなくなった。
そこまで至り、抜本的に改革をしないと国の再興は難しいと決断した王からの依頼を受け、国の凍結に踏み切ったのであった。




