第188話 秘境イノハナ(1)
西の離れの部屋に戻り、まず、何とも言えない匂いに気づく。この部屋の管理は私に任されていて別に掃除してとかも言ってないので、そのままにされている。
魔女さんとイオくん、そしてシンさんは王城へ戻っていった。
それが、良くなかった。
今ここにいるのは私、アオくん、天くん、虹竜の2人。天くんは顔をしかめ、虹竜はなんとなく警戒をしている。ただ、部屋に入るまではそれほどなにも匂い等はしなかったがために、気づかれなかったのだろう。
「そういえば、ここを出発する前、マッシュルームの菌糸…」
「植えていきましたね…」
「しかも管理するようなことは何もしてなかったですよね…」
植物育成のためにはっていた魔法は終わらせていったとはおもっていたけど、失敗してまだ走っていたとしたら。育苗部屋の扉を開けるのが怖い。どんなことになっているのか。
意を決して扉を開けようとすると、開かない。
結構ちからをかけてみても、開かない。
「アオくん、中、確認できる?」
「わかりました………?これ、なんだろう。普通の部屋じゃなくなっていそうなんですけど、なんですかこれ」
そこで後ろから閃閃が、前にしゃしゃり出る。
「あいわかった、開ければいいのだな。楽勝で開けてやろう」
静止する間もなく、手に何かしらの力を加えると同時に、扉の淵が薄紫色に光る。綺麗だとかそう言ってる場合ではない、アオくんが確認した結果、普通の部屋じゃなくなっているとかいっていた矢先に何やらかすんですか、この竜は。
「ちょっと待…」
そこにドアのノック音が聞こえる。
「チーズ様、ちょっと相談が」
振り返ると永長とノナが部屋の入口に入って来た。
「やば…」
視線をのばした先の育苗部屋は青白く光り、おそらく菌糸のようなものが何かしらの陣を描いているような感じ?と思った矢先、閃閃と閃電、そしてなぜか永長が吸い込まれた。
「え、何?えええ?!」
「女性ばかり吸い込まれましたね?」
アオくんが釘付けになりながら目の前に展開される青白い光をたたえ、陣はまだアクティブな状態を保ってる部屋を見つめている。
「ところで女性って言ったけど、私は?」
「訂正します。変化系の女性ですね。チーズさんはそのまま人間なので変化してないですからね」
「せんせんとせんでん、消えたね。なんとなく困っているきがするんだけど、助けにいったほうがいいかな?」
天くんが颯爽と育苗部屋に潜入していこうとする。
「ちょっと待って!魔女さんたち呼んだ方が。何も対策しないで追いかけるのは危ないよ」
「わかった、ちゃんと確認してから動くようにってユウ兄ちゃんにも言われたから、ガマンする」
「ありがとう、早くなんとかするね」
そこで気が付いたかのように部屋の出入り口にいるノナが言葉を発する。
「変化している女性…主の安否を確認してきます!」
青ざめつつ、そう言い残し確認しにいく。愛する永長が姿を消したというのに、この竜は気丈だな、と緊急事態にあるまじき考えを持ってしまった。
そこでアオくんはイオくんに通信をしつつ、到着を待った。
◇
「こんなに次々とトラブル起きることってあるか~?」
イオくんが魔女さんと一緒に、部屋に来てくれた。ほんと原因が多分私の魔法の放置だから、何も言えないし申し訳ない。
「ゴメンナサイ…」
「いや、僕が一緒にいた時点で魔法は停止していたので、なにかが原因で再起動したんだと思いますよ」
「え!私のせいじゃない?!」
「チーズさんのせいじゃないです。だって部屋の角に監視スコープになる魔石設置したじゃないですか。ちゃんと記録残ってますよ。ほら」
そう言うとアオくんが私たちが立ち去った後の部屋の映像記録を超速度で再生してくれた。確かに、最初はなんともなかった。が、突然なぜか青白い光が点灯し、キノコたちはすごい速度で成長をはじめ、菌糸が部屋を覆い、なんだかヤバイ状態となったことが見て取れた。
「誰かが立ち入った形跡もないね…」
「なんで突然再起動したんでしょうね、チーズさんの時間魔法」
「しかも、全く『何かに手を加えられた』という形跡もこの部屋にはないな。まあ、詳しいことを考えるのであれば、お前の兄の相棒を呼ばねばならないかとおもうが、わたしは嫌じゃ。その時は避難させてもらう」
「そしてこれ、助けに行かなきゃいけないやつですか?みんな強いから勝手に出てきそうですが」
魔女さんはすこし考え、たうえで天くんに話しかける。
「天、お前はあの虹竜といま、交信できるか?」
「さっきためしてみたけど、生きてることしかわからないよ」
「そうか。じゃあ仕方ないな、志摩に聞いて見るか」
そう言うと、志摩と魔女さんは簡単に通信を繋ぐ。志摩と永長については、魔女さんの使い魔みたいなものなので、常にパスは繋がっているから通信は可能らしい。
「え、永長が。わかりました。通信を試みればいいのですね…。主様が双子を各所の管理に使役している意味がちょっとわかりました…」
「そうじゃろ、不測の事態がおきてもそれほどスキルが高くなくても双子間の通信はかならず通るからな」
「師匠、考えてたんだ…僕たちを含めやたら双子が多いなあって思ったら…」
「オレたちがいなければ姉さんを含めて引き取ってもらえなかったんじゃ…」
アオくんとイオくんは何とも言えない顔で、魔女さんを見つめていた。
イノハナは香茸というキノコの別名です。




