第177話 葡萄畑黎明譚(3)
ミアカでの兄さんの歓迎ぶりは回を追うごとに、確実に、すごくなっている。前に料理に魅了効果があるとか言っていたけど、それにしたって限度があるだろう。まるで勇者の帰還か(まあ、勇者らしいけれど)何かのようだ。そのうちこの人この村の神になるんじゃないのか?っていうくらいすごい。そのうち歓迎が行き過ぎてレッドカーペットが敷かれたりするんじゃないのか。
「俺が拠点にしたり、気にかけたりする村とかたまーに、こうなるんだよな。しかもなんか発展して、村が町になって果てには市になったりする。面白いよね」
「私もたくさんの国とかで厄災復興とかしてきましたけど、ここまでの歓迎なんてどこの国でも受けた事はありませんよ。どうなってるんですかユウは」
「え、勇者だけに、カリスマ?」
素で言うから本気にしそうになってしまう。いや、本気なのかもしれない?この人はこの人なりのロジックの中で生きてるんだろうな、っていうのは最近わかってきた。ものすごく言動の明るさと勢いのために破天荒にみえはするけど、その行動は結構ロジカルだ。チーズさんは否定しそうだけど結局似た者兄妹なんだろうな~って思ってしまう。
「みんな、お待たせ!お久しぶり!でも今日は給料日ではないんだ。近くで新規事業を興す運びになったので、スカウトに来たんだよね。あとで村長さんに、相談させてください」
ざわめきだす。みんなの思念が強いためか、「ユウ様とお仕事」「あのお顔を至近距離で…卒倒してしまいそう」「ユウ様とノリ様が並ぶさまを見れるとはなんという眼福」「あそこにいるのはとてもユウ様にそっくりだけど弟さんかしら、息子さんかしら」「奥様はいらっしゃるのかしら」「なんどかいらしている妹さんって地味よね」「遺伝子の系統は一緒なのに残念ね」とか容赦ない言葉が聞こえてくる。兄さんを賛辞しているのはまあいい。比較にチーズさんをもってきて貶めた言い方をしている輩はくっそ腹立たしい。誰かを持ち上げるときにほかの誰かを貶める必要なんてないじゃないか。何も知らないくせに。とか思うが、この兄さん、傍目にみても結構な妹溺愛ぶりを発揮しているけど、内心どんな感じなんだろうか。
「今日はみんなにサンドイッチを作ってきたから、村の食堂へ行こう」
ミアカ村は牛をナットに出現した”チーズの家”から転移させたあと、スキル【動物言語】持ちの村民が中心となり、かなりの意思疎通を行いながら牛の育成、飼育を行えるようになっている。聞いたところによると、当初【動物言語】を使えたのは数名であったものの、今は率先してスキルを取得する傾向があるよう。
そして牛の世話は24時間におよぶ。ゆえに、みんなの労働を労うために大きめの食堂が建てられた。というのは建前で、先日兄さんが給料の支給と振る舞いに向かったとき、着くや否や食堂の落成式に巻き込まれ、「調理するスペース作りました!不足する食材は取り寄せましょう!」というセリフにより、「俺の料理を食いたくて食堂まで作りやがった」という結論に落ち着いたらしい。
ほぼ新品の食堂は、今回作ってきたサンドイッチを配布して食べるにちょうどいいスペース感、そもそもが村の人口が多くないがめに、食堂に全員すぽっと入ってしまう。”兄さんの料理をこの村内で最高の環境で全員で食べよう”というコンセプトであったことがうかがい知れる。
サンドイッチが行き渡り、大量の牛乳も人数分行き渡る。
「お待たせしました、皆様ご賞味ください」
皆様お待ちかね、ゴツい食事タイムです。
「兄さんの料理だからやっぱり」
「無意識に混入される魅了魔法、完全に健在だなあ。耐性ないとこう、ひとが微妙に野生化する」
「ユウの作るものは何もかもみんな美味しいですよね」
「天は、何ともないよー」
そんなしょうもない打合せを食堂の末席でしていたら、1人の人影が近寄ってくる。
「皆さまお揃いで。この食堂いかがでしょうか。ユウさまがご来村されたときに、不便がないように、心を込めて建てさせていただいんです。申し遅れました、ワタシは村長のトラヨシと申します」
そういえばこの村で我ら一行、名乗られた覚えがほぼない。名乗ったかといえば、それもわりと怪しいが。
「よろしくお願いします。今回の来訪の目的については後程ユウさんから説明があるかと思います。お時間を取らせることになるでしょうが、スケジュールは大丈夫でしょうか」
秘書みたいな動きをする世界の2柱の魔法使いの片割れ”救国の魔法使い”。すごい楽しそうなんだけどなんで。
「今日は休日ですので一日、大丈夫ですよ。むしろ休みの日にユウさまの食事を摂ることができるとは、幸せが過ぎます」
こうやって信者を伸ばすのか。参考にもならないが凄すぎるのであとで師匠とチーズさんに報告しておこう。
そして、なぜかここの食堂、カウンターキッチンみたいな造り。
劇場型料理作り、料理の過程を見たい村民といった構図かもしれない。




