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第176話 葡萄畑黎明譚(2)

 料理人が作るバーベキューはスパイスがよくわからなくて、なんかやたら美味しかった。シラタマでも懲りずに山に分け入って食材を探したりいろいろしているらしい。私の専売だとおもっていた発酵系調味料もいつの間にかいろいろ作って持ってるし。しかも兄の【鑑定】を使うと発酵の失敗成功も容器をあけることなくわかるとかなんだそれはチートかバグか。


「次は秘伝のつけダレで味付けするぞー!」

 その言葉にメンバーがわっと湧く。

 

 そういえば私も大量のどんぐりから酵母を取ろうと思っていたまま【無限フリースペース】に放置していた。やりたいことはいっぱいあるけど、結局仕込みはそれなりの時間がかかるので、1つずつこなしていくしかないのに。

 

「今回のこのダンジョン解放、結構大きなリソースの増加実績になってるから、1か所ぐらい再起動させることが可能だぞ」

「それもまた、王に聞いてから復活させたほうがいいですよね。何もしない人を今起こしてる場合じゃないですし」

「そうじゃな~」

 魔女さんは結構ワイルドに肉を食いちぎり、ほおばりながら続ける。美少女ビジュアルが台無しなちょっとその食べ方に私は引いているのだが、やはりというか、一か所からの視線は相変わらず熱い。ただ、不用意に近づいてこなくなったのは成長なのか慣れなのか、禁断症状が解けたのか。そして、相変わらずアオくんとつるんでいる。このパターンだと大体そこに兄が合流する。

 

 「どうしたらよいものかな~。もしかすると、単独復活させた新たな王の側近、あの栄養が枯渇してたヤツの意見も聞いてみるとよいかもなあ。なんか真面目そうだったからちゃんと王から学んでおるだろ」

 

 結局何度も考えてはいるけれど、王の側近とかお貴族様とか労働をしないで食い潰していた層をどうやってまともにするかが問題なんだけど。そもそもがこの国の人間の持っていた個人資産なんてものは枯渇しているわけで、立場の貴賤、身分制度は残っているが、結局これからは頭脳にしろ肉体にしろ労働しない人間は偉そうにさせてはいけないはず。

 

 まだ、良い考えは浮かんでこないが、本当に逃げられない課題でもある。で、結局今のところこの国の全体にかける復興率はまだ全然なわけで、今は労働力と食料を増やしながら耐える時期だと思っているが、逆転大成功!みたいなことはないのかな。いや、ないよな。

 

 そして夜はダンジョンキャンプ改め森林キャンプを満喫した。一番心配だったのが2メートルの虹竜の2人だったのだが、大変申し訳ないがテントの中で2人で雑魚寝してもらった。本人たちは気にしてはいなかったが、これこそほんとうに、キャンプじゃなくて野営なんじゃといったぐらいに。


 翌朝、兄と魔法使いさん、アオくん、天くんの4人はミアカに葡萄管理を請け負ってくれる人材のスカウトに出向いていった。私はというと、魔法の有効範囲が1キロぐらいという微妙な範囲なので木材から離れることができず、魔女さんとイオくん、そして膝の上えのういと一緒に、暇なので昨日思い出したどんぐり酵母をとるための瓶詰めをしながら、温泉の構想を練っていた。温泉といえば…あれ、報告しておいた方がいいかな。


「そういえば私、シラタマの温泉で言葉をしゃべる魔族に遭遇したんですよ。見た目は美女。いよいよ命運も尽きたかとはおもったんですけど、相手が天くんと生後日数がそれほど変わらなかったみたいで、幼さが幸いして生き延びたかんじかなっと」

 魔女さんの表情が強張る。

 

「人型の喋る魔物。わたしが生まれてこのかた、そういう魔族は見たことがないぞ」

「もちろんオレもないです。会ってみたいな」

 命の危機を感じたいのかイオくんは。

  

「兄曰くは”勇者”がこの世界に現れてしまったがために、”魔王”も誕生した、またはしようとしているんじゃないかって」

「原因はお主の兄か。強いんだか迷惑なんだかわからんが、料理は上手いな!」

「ほんとですよ…」


 どんぐりの瓶は100本ほどになった。この中で何本当たって酵母がとれるか、楽しみ。それでもまだ、木材の乾燥には3時間ぐらい時間かかるため、ワイナリーの施設や建物の計画を本を見ながら相談する。私も早く【地】属性魔法のプロになって、金属鉱石なんでも合成できるつよつよ魔法銃士になりたい(造語)。


 ◇


あにさん、ものっっすごい早起きしてましたね」

「さすがにお願いに行くし、手ぶらでいくわけにはいかないからなあ。あそこ、俺のファンばっかりだろ?大量にサンドイッチ作ったけど喜んでくれるかな」

 あにさんは、朝焼けと同時に起床して予め焼いてあったというパンを取り出し、ハムサンド、たまごサンド、アボガドサンドをミアカへの手土産にするといいつつ、強烈なスピードで作っていた。僕も気配で目が覚めてしまったので、お手伝いというか、梱包だけ協力した。しかし本当にこの人はついていくのは大変だけど、ついていくことは間違いないという稀有な人間な、気がする。

 師匠、家ごと召還、多少ほんとうに幸運はあるにせよ、兄さんとういを巻き込むなんてグッジョブすぎた。

  

「ミアカにはユウの料理のファンがいっぱいいますね」

「ユウ兄ちゃんのごはん、美味しいから~」

「お前らだれも!俺のファンっていうの認めないのか!」


 歳がいもなくはしゃいでいる。

 そんなじゃれあいの先1キロメートル、目的地が見えてきた。

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