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第173話 瞬きの窟(12)

 転送魔方陣を越えた先は、金銀財宝が山のように…というわけではなかった。

 紫色と黄緑色の光る珠が、浮かんでいるだけだった。


「初回踏破特典、こんな感じなんですか?」

 

「いや、見たことない。知らない」

「えっ、過去はどんな」

「金塊とか、特殊武器とか?こんな珠浮いてるだけとかは見覚えないなあ」

 【自然発生】ダンジョン踏破者、魔法使いさんの言葉よ。


「そうなのか?これは我らの”力”なんだが」

「初回踏破者に我らの力の範囲内で望みを叶えることができる。踏破者1人につき1回ずつだ。」

 なんですかそれ。最高じゃないですか。ナットの復興!とか言いたいところだけどあそこの国は国民の意識を改善したうえで立て直さなきゃいけないからいきなり復興して、は言えない。だから、頼むとしたらそれの助けになること?


「じゃあ、金銀財宝」

「無理」

「強い銃」

「無理じゃな。我らの力の範囲といっているだろう」


 力の範囲ってどの程度なわけよ。こそっと聞いて見よう。

「魔女さん、どの程度の願いかわかります?」

「このタイプのやつはな、ちょっとうっかり言ってしまった、叶えられそうな些細なことをさっと叶えて終わらすタイプのやつだな。しかも多分、かなり些細な願いの範囲と見た」


 そんなことを言っているうちに早速天くんが「お水をください」と言って水をもらって喜んでいる。こういう時に悩んでしまうのは、大人だからか…とも思うが、些細な願いってどの範囲ならいけるんだ?一発勝負すぎる。


「願いはまだか?叶えないと出られんぞ」


 どうしようか。ういに嫁をもらうか?新しい遺伝子のラインの牛をもらうか?はたまた…

「じゃあこの山の麓の葡萄の自生地、あそこを葡萄畑にしてほしい。葡萄の品種も複数あるといい」

 兄!

「葡萄畑までだな。品種の話は願う人をわけてくれ」

「じゃあ、わたしがそれを願おう」

 魔女さん!

「じゃあ私はワイナリーの建築を」

「わいなりー?」

「あとで本を見せたり指示するので、可能であればお願いします」

「じゃあとりあえず、それで」


 よし、なんとかなった。あとは双子と魔法使いさんか。


「アオくんとイオくんは…」

 そう聞きかけると、シーってされた。これ、2人で相談してるやつだ。失言防止で言葉を発さずに。


「じゃあ、私は”リズム感”が欲しい」

「それは無理。千年築き上げたアイデンティティを覆すには我ら力では無理だな」

「うん」


 きれいな顔をしているというのに、あからさまな絶望顔を見せられる。かわいそう。

「じゃあ、”凍結の魔女”の記憶の封印箱をください。全部じゃなくてもできる範囲でいいから」

「おい!」

 魔女さんが叫んだ時点で、その封印箱と言う名の小さな、お菓子の箱のようなものが2箱ほど現れた。

「これが限界」

「1人1箱、しかも小箱が限界だった。すまんな」


 焦り倒す魔女さん。いや、さっきそのぐらいされても仕方ないぐらいのいじりしてた気がするんだけど。

 

「おいおいおいおい人のプライバシーを…」

「でもいいのか?この型の封印は封印者じゃないと解けないぞ?」

「いいんです」

「良くないわ!!!」


 魔女さんは本当に、血圧上がりそうなぐらい叫んでいる。魔法使いさんは大切そうに、その記憶の箱を受け取る。

「彼女が僕を想っていた記憶、大事じゃないわけないじゃないですか」

 本当に穏やかにうれしそうな顔をしているが、なんかこの2人、2人で勝手にやっててくれみたいな状態じゃないのかなこれ。介入する人がいなかったがために千年も放置されていた関係って重すぎて酷いな。


 それを呆然と見ていたら、アオくんイオくんが、決めました!と。

「僕は、ナットの王城、西の離れの近くに温泉を」

「オレはその温泉に付随する温泉宿を要求する」


「温泉って深く掘ると湧くってチーズさんが言っていたので」

「オレはその温泉を使うための施設があれば、みんなで使えるかなと」


 シラタマの温泉、良かったのかな。きっとイオくんもはいりたいよね。確かにナットにあれば入ることができそう。でも1つ、気になることがある。


「温泉、日本って私の住んでた国なんだけどそこならほぼ出るんだけどナットだとどうかな」

「えっ」

「確認してみないとわからない気がする」

「本当ですか」

「じゃあそれも、あとで我らが検証して考えよう。望みはそれでよいか?」

「それで、お願いします」


 そこで虹竜がもう一つ、問いてくる。

「あともう一匹、犬がいるだろう?望みを聞くぞ」

 あ、うい。ういの願いも聞いてくれるんだ。【無限フリースペース】内ハウスから、ういを出してみる。

「うい、願いを叶えてくれるって。何がいい?」

「聞いて見ますね」

 頼りになるなあ、アオくん。

「いっぱいのエゾシカ肉だそうです。ここから見ると異世界の肉ですが、いけるんでしょうかそれ」

「残念ながら我らは異世界からのコピー魔法は使えない」

「それがだめであれば、チーズとアオとずっとずっと一緒にいたいっていってます。嬉しいこと言ってくれますね!」

 

 アオくんはわしゃわしゃとういをなでまくる。その言葉は不意打ちだった。犬の寿命を鑑みるにやっぱり、先に、とかおもっちゃってたけど。

「それであれば、老化をゆるやかにし、寿命を延ばす、であれば可能だな。それでよいか?」

「いいそうです」

「ではそれでいこう」


 なんか私は胸がいっぱいになってうっかり泣いてしまった。

日曜日、Endless Shock 博多座千秋楽に行ってきました。

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