第170話 瞬きの窟(9)
虹竜の2人、人間の女性に化けたのはいいのだけど、身長が2メートルある。一刻も早く服を着て欲しいというのに、デカいがゆえに渡せる服がない。
「ドラゴンさん、よろしければ何か服をきてもらえないでしょうか?」
かなりビビりながら声をかけてみる。
完全に天くんのお付きの人扱いなうえに、最初の一撃を与えている都合、かなりの緊張感が走る。
「あ、そうか。衣服な。必要であったな」
「そうな、必要だな」
そう言うと、紫の虹竜はカシュクールワンピース、黄緑の虹竜はティアードワンピースを瞬く間に着用した。髪の毛と瞳の色が基本の色をたたえているものの、光に透けると虹色に輝くという、なんとも美しい。
あと、紫の虹竜はとても、とても、巨乳だった。それもあって、早く服を着てくれてよかった。それにしてもこの服装に緊張感の全くない連中が後から入ってきたせいで、これは本当に【自然発生】ダンジョンの最下層か怪しいぐらいに思えてくる。
「そうだ。吉祥の王子ご一行。私の名前は閃閃、こちらの黄緑のが閃電。我が一族は『閃』の字を抱くが、記憶がないうちにこのダンジョンに封じられたこともあり、同族が生き残っているかもわからんが、まあ、よろしく。」
そこから自己紹介を行い、天くんが生後余り経っていないことを共有したうえで、閃さんたちは天くんの配下につくことが告げられた。
「虹竜は芸事に秀でる一族ではあるがために、戦闘力は他の竜族ほどつよくはない。だが、王子の身の回りのお世話はできるとおもう」
だそうだ。2メートルもある対極の体形の巨女とか、特殊にもほどがある。ところでさっきから閃さんたちは天くんのことを王子と呼ぶ。あれだけウララさんの親戚をコケにしたうえに撒いて炎のネルドに放り込んだ手前、きっと国、無いまたは帰れないんだろうなあ、とは思う。
「ねえ、ユウ兄ちゃん、ノリ兄ちゃん、この虹竜ちゃんたち連れて行ってもいい?」
そこで私、そして頭の上で鳴り響く魔女さんの直接通信ボイス、いずれももれなく「ブフォッ」と大人げなく、噴き出す。
「え、なに、兄さんと魔法使いさん、そう呼ばせることにしたんだ!お兄ちゃんとマスターじゃなかったの?!」
『勇者殿はともかくとして、千年以上生きて兄さん!!メンタル…強!!!』
そこで、虹竜の2人が魔女さんのいる避難場所を見遣る。目つきがとても厳しい。
「天様、あそこにいるのは、敵ですか?」
「敵であれば命の限りうち滅ぼしましょう」
うわ、怖いこと言い出した。
「あそこにいるのは私たちの師匠です」
「そして私の将来を誓った相手です」
おい、「救国の魔法使い」。遠くにいるのをいいことに…とおもった瞬間、そこに現れた者が持つ杖にものすごい勢いで殴られていた。
「だぁれが将来じゃ!」
「やっと来てくれたね。感情と記憶を切り離して捨てちゃうとか無茶しちゃって」
「ほんと、だから、千年以上前の話を!蒸し返すな!」
今度は逆側から派手に殴っている。が、杖は壊れない。どうせあれ、私が持ったら命吸い取られる系の杖なんだろうな。あとなんか魔女さん、ちょっと無事そう。
「実は師匠、卒倒するのが嫌で捨てすぎていた感情の一部、補充したんですよ。きっとこれで、大丈夫、ですよ」
大丈夫ってなにが?
「意外といける。わたしの威厳のためにいつまでも逃げてはいらないからな。のう、虹竜。」
そう言うと、魔女さんは巨女2人に目を見遣る。なんだろう、威圧?
「師匠!ストップストップ!」
「そんなに怖がらせてどうするんですか?!大人げない喧嘩とか、天くんの教育にも悪いですよ!」
虹竜は言葉を発することすら許されない緊張空間。
「はい、ストップだよ~」
魔法使いさんが、魔女さんの腕を掴む。
「あ、すまんすまん。あいつら、無礼な視線を寄こすから」
「どっちが強いって強いのは君なのはわかっているから、売られた喧嘩、片っ端から買わなくてもいいんだから」
普通に会話してる。本当に感情ちょっとは戻したというのは本当のよう。
「師匠ほんと喧嘩といったら全部買わないでください。大人げない」
「見た目はこどもじゃもーん」
「後始末するオレたちの身にもなってください。あんなでかい図体で怯えちゃってるじゃないですか。」
それの一部始終を見ていた天くんはとても楽しかったらしく、ものすごく良い顔。いいのかこれは。
「大丈夫ですよ、味方です。安心してください。」
天くんがなだめすかす。なんかすごい勢いで成長しているこのドラゴン、今の見た目年齢に中身が追いついたときにまた爆発的に大きくなるっていう話だから、また、より兄に似ちゃうんだろうな。
と、そこまで言われてから、虹竜が口を開く。
「怖かった…」
「無礼をお詫びします…」
さっきの勢いはどこに行ったのか、しおしおしている。
「そしてこのフロアのクリア要件は、私たちを倒すこと、これは今のように覚醒を行わなかった場合です。そして今回のように覚醒を行った場合は条件が異なり、私たちの大好きな音楽を一緒に奏でる、歌を歌うことです」
「私たちの覚醒イベントは初回のみで、1回倒してしまうと私たちはモンスターと同等にダンジョンに認知されることになり、ポップアップモンスターに成り下がるところでもあった。というわけで、天さま、ありがとうございました」
「葡萄、準備したの、兄…」
「救ってくださったのは、天様です!」
もう、圧が強すぎて黙ることしかできない。




