第169話 瞬きの窟(8)
本当に演奏を止めるわけにはいけない状況になり20分。
ブラ2の演奏時間と比べればだいぶん短いが、休憩なしと考えるとかなり過酷。見ていてもかなりの汗だく。そして私は突然変調されたりすると拍手のタイミングを外す。即興曲なのでまあ、しかたない。
本当に大変そうだし、早く兄さんこないかな。そういえば兄さんってなんか楽器できるのかな。
そこからさらに5分、私の横の空間に歪みがうまれ、人が3人現れた。
「お待たせー。戦況はどう?って演奏会?!」
「うん、演奏会。このレインボードラゴンって歌がすきなんだって。で、アオくんとイオ君が伴奏中」
「歌!ぼく、お歌うたえるよ!ノリがおしえてくれるんだ!」
今回のメインゲスト、天くん元気に登場。因みに今の時点で頭の中に悲鳴が鳴り響いている。もちろん安全地帯で余裕をキメていた大魔女様の。そしてその原因の”救国の魔法使い”、兄が名付けた「ノリ」さんが最後に登場してにっこり笑っている。
何よりびっくりするのが兄もノリさんも天くんもそろってTシャツにジーンズ。軽装すぎてびっくりした。しかもなんだか、腕輪やら指輪やらチェーン、銀っぽいアクセサリがじゃらじゃらしている。何なの。
「あ、これか?朝からシラタマにある銀製品ばかりドロップするダンジョンに潜って天を鍛えてて、ドロップした端から装備して遊んでたから、その時の服装まんま。しかしこの世界、銀鉱ダンジョンなんてあるんだなー」
「もしかして、邪魔した?!ゴメン」
兄は兄の冒険がある、というのにとっさに天くんに頼ってしまったことをちょっとだけ恥じる。
「いや、初踏破ダンジョン、それも【自然発生】はとっても美味しいからね。私も過去3回ぐらい踏破したことがあるけれど、実は踏破時の人数が多ければ多いほど、ドロップが増えるんですよ」
誰がしたんだか、長い髪をポニーテールにしたあげく編み込んでいるよこの魔法使い。しかも普通に話しているようで視線が完全に魔女さんの方にロックされている。穴のなかで魔女さん倒れてないといいけど。そんなことを思っていたら魔女さんから通信が入る。
『チーズ!どうして!いや、道理はわかるんじゃが!』
「ちょっとの付き合いですけど魔女さんみてると生理的に嫌というより、なんか別のものを感じて」
『大きなお世話じゃ!!!』
「あおあお、来たよ~!」
天くんがするっとアオくんの近くに走りよる。この子は本当に物怖じしない。アオくんも演奏を続けながら、来てくれたことに対して感謝の言葉を述べた後、続ける。
「天、あのレインボードラゴンと、会話することは可能かな?」
「ん~????お話してみようか」
そう言うと、2匹の竜に対して向き合い、聴き取れない声を発する。そうすると、相手の竜2匹の歌も止まる。天くんが今出した声と同じような声を発して応じる。
結局30分以上ノンストップ演奏していた2人は楽器を収納にしまった挙句、あおむけで地べたに寝た。
「きっつーーーー!」
「来てくれて!ありがとうございます!で、会話は可能だといいんですが」
寝ているアオくんに天くんが近づく。
「あおあお、ちょっといいか?」
「天、なんかあった?」
「虹竜のお姉さん、せっしょん?楽しかったって。最初痛かったのは気にしなくていいって」
私、ドラゴンブレスくらってますが。
「ひとふさのぶどう?があれば、欲しいって。あともっとにぎやかなせっしょん?したいって」
「もっと…もっとですか…」
そう言うとアオくんは上体をおこし、こちらを見直す。
「僕たち、葡萄摘んできてきてないから初手詰みじゃないですか?しかも条件がわからなかったからみんな呼んじゃって…」
「あ、それならうちの冷蔵庫にあった葡萄、【無限フリースペース】に入ってるよ。こちらには生えてない葡萄だとおもうけど。ちょっと干してあるけど」
それを聞いた兄が、「お前それ、枝付きレーズンだろ」ってつっこんできた。よくお分かりで。
「チーズ、ソレ出して暴動になっても知らないぞ。で、ひと房の葡萄、ひと房どころか結構あるよ。さっき言っていた『銀製品ばかりドロップするダンジョン』に自生していた葡萄が2種、俺の収納に入ってる」
え、お兄様今なんと。
あとこっちが会話したり打合せしているあいだ、魔法使いさんは魔女さんが居る方向をみてうっとりしてる。何しているんだろう。
「ワイン造ってみたいのお前だけじゃないんだよ?ただあまり食用には向かないかもしれない味なんだよなあ。糖度だけはあるんだけど。」
「なんでもいいんだって。しょくばい?になるって」
「じゃあこの白葡萄と黒葡萄、ひと房ずつでいいか」
そう言うと兄は天くんに2種の葡萄を渡す。
天くんは鳥竜種の特殊個体、鶴のような美しい羽根を展開する。兄に生き写しなせいで黒髪となっているのに、翼の色素だけは真っ白。ウララさんの遺伝を感じる色味。
その羽根で飛翔し、レインボードラゴン2体それぞれに1房ずつ、葡萄を渡す。といっても、口に放り込んでほしいという要求らしく、天くんは空中で停止したうえで要求に応じる。
口に放り込んだ数秒後、巨体の竜が圧縮しだし、人間のような見た目を取り出す。1体は紫色の妖艶な美女、もう1体は黄緑色のやせ形のかわいいタイプの女性に変身した。
「やっと話すことができるね。私たちの覚醒条件満たせるとは何たる豪運。一生覚醒することはないとおもっていたよ。吉祥の王子とそのお連れの方。今後ともよろしく」
黄緑の女性が満面の笑みをたたえた。いやこれ、天くんご一行って思われてるでしょ。あと、2人とも青少年に害しかないから服を着て。




