第165話 瞬きの窟(4)
翌朝、朝食はホットサンド。
昨晩は兄とも通信をせずに寝てしまった。さすがに50フロア踏破は負荷がつよかったのか、あっというまにぐっすり寝た。
「そうじゃ。次のステージ、もし、一面の草原だった場合、最大級の警戒が必要じゃ。というか経験則上、ほぼ間違いなく草原ステージだと思われる」
魔女さんはそう言うと、装備を整えだす。しかも、銀色の身長をこえる2メートルをこえる杖を転移前だというのに点検している。魔力の伝導公立に変化がないか確認、らしい。
「チーズもおそらく、銃をつかうこととなろう。点検は怠るな。そしてアオ、イオ、お前たちも今まで対峙したことがあっても倒したことがないものが次のボスだった場合、わたしは全力でお前たちに補助魔法を付与するから倒して見せよ。頑張れよ」
「え、師匠は?」
アオくんが聞く。そりゃあそうか。
「わたしが登場したら面白くないだろ?ダメだとおもったときには手出ししてやるが、それはそれとて恥ずかしいの~。でもまあ、初踏破の権利はもっておきたいから、補助と回復は担ってやろう。”うい”は相手がアンデッドだった時のみ戦闘に参加させるのじゃよ」
完全に、「お前たちの手で片付けられるよな?」って煽ってる。しかしもって魔女さんが危惧する敵、例えばアンデッドだった場合やっぱりういは一撃で片付けてしまうのだろうか。
「これで、なんの変哲もないステージだった場合、笑うがな!」
そこからみんなで黙々と自分の主武器の数々を取り出し、メンテナンスを行いだす。そこからゆうに1時間かかり、出発準備が整った。そしてみんなで手をつなぎ、【転送魔方陣】に足を踏み入れた。
◇
転送された先は、【凍結の魔女】の予言通り、草しかない平原だった。何もない。木さえない。
「やはりか。ここはS級ダンジョン決定じゃな。チーズ、土魔法で避難場所を展開。」
「了解です」
土を半端に掘り、そこから大きな土嚢を作成し小山にする。草を生やした土の下の避難場所を形成したようなものだ。4人がゆうに入る。
「よし、ここで拠点ができたな。さて、敵さんが来るのをまつぞ」
魔女さんに言われるがまま避難場所を作成したが、一体どんな敵なんだろうか。
「【自然発生】ダンジョンの最後のフロアは平原と決まっているんじゃ」
「じゃあ、このフロアでラスト?」
「おおそらくそうじゃ。今までアオとイオを【自然発生】ダンジョンに連れてきたことはあるが、踏破されているダンジョンだけに、【出口戻りの石】があったがためにこのフロアに差し掛かるまえに帰還してたんじゃ。それなりの危険度だったからなんじゃが、最後にいってから5年も経ってるし、こやつらも5年成長している。チーズもいることだし、まあ、なんとかなるじゃろ。」
そんなことを言っていたら遠くで咆哮が聞こえる。ついでに羽根音も聞こえる。
「予想通り、これだけ羽根音がでているっていうことはこいつはスケルトンではない。ういはハウスで待機じゃな」
さっきからほぼ、魔女さんしか喋っていない。それだけ、外からの圧が激しい。さっさと避難場所作っておいてよかった。
「師匠、これ、間違いなく」
「ドラゴンですね」
「正解。さて、何ドラゴンかのう」
【凍結の魔女】さんは、避難場所の天井を透過魔法をかけたのか、上空が見えるように加工した。因みにうっかり乗られたり踏まれたりしても崩れないように強固な固定魔法をかけてあるそうで、びくともしないそうだ。
と言った先から、私たちの真上に件のドラゴンが2体、姿を現す。まばゆい鱗の色彩、太陽光を反射しキラキラしている。
「僕、文献でしかみたことがなかったですよ。これ、レインボードラゴンですよね。希少種のドラゴン」
「こんなダンジョンに住んでいたんですね」
「正解その2。よく勉強しているな。さて、特徴は?」
「歌う、ですね。」
「鱗が固く、はがれた鱗の価値は高く、虹色をたたえる」
魔女さんの突然始まったクイズタイムはまあまあ続く。これ、多分私にも、双子にも弱点を思い出すように誘導してくれているんだろう。
「よし、思いのほか覚えていたな。 それでは、バトル展開していいぞ。あ、チーズの銃はこのクラスだと通常だと全く効かないのじゃが、今回は命中と威力をあげる支援をもりもりにかけているので、まあまあのダメージが出るだろう。最悪また砲身がもたないことは想定されはするが、以前のようにな高ランク武器の低ランク使用は今回の戦闘の場合、長期化しそうな時点で現実的ではない。最悪命にかかわる」
そんなものを昨日貸してくださってたんですね。まあ、あの説明でもだいたい判っていましたが。
「さあ、行ってこい、わたしに手を出させずに、終わらせることができるかな?がんばれー」
そう言うと魔女さんはまず気配消しの魔法というのをかけてくれた。それから、なんだかわからないぐらいの支援魔法を重ねがけしてくれた。いつものアオくんの支援魔法を100とした場合、300から500ぐらい出ているような、力のみなぎり方だ。これは、砲身がもたない。
「師匠のこれ、すごいよな。オレも将来的にこの域に至りたいな」
「千年生とは比較にならないのはわかるけど、ものすごくわかる。僕もだよ」
アオくんの手には長剣、イオくんの手には洋弓。私の手には長銃。
一番射程が長いのは、私。
「私がからいくね。一番遠ざかったところで一発命中させて、注意を向けて見せる」
双子はこっちを見て頷く。
魔女さんはによによしている。




