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第116話 ナット/食料難からの脱出・狩

 刻は少しさかのぼる。


 南の森へ仔竜を探しに行くにあたり、あらかじめ組まれていた俺たち狩猟チームが随行することになった。内訳としては5人パーティーが1組だ。西の離れの保守人員も必要であるため、1回5人ずつで動くのが適策であると判断したからだ。


 まず、先発隊として転移魔法が使える凍結の魔女によりチーズさんとアオ様が仔竜探索に、俺たちチームは後発隊で追いかける。南の森までの距離は約5キロ。大体80前後で着ける距離だ。

 このエリアは特に強いモンスターも出ないため、のんびりと行軍する。強いカテゴリーに入るのは、南の森のモンスターたちだ。


 ◆


 問題なく南の森についた。が、目の前にありえないものが積み重なっている。

 羽根のはえた豚の成れの果てが、山のように。


 「みんなー!お疲れ様!」

 

 チーズさんが手を振ってくるが、その横に積まれた、肉・肉・肉。

 俺たちが狩チームを編成し、南の森についた時点で大体必要な分のモンスター豚肉がそこにはあった。

 「これ全部、この子が狩ってたんだよね。産まれてまだ一週間ぐらいなのに、すごいよね…」

 完全な肩透かしだった。

 

 あまりの成果に、なんかちょっとチーズさんもアオ様も引いてるような気がするけど、気のせいだということにする。チーズさん、結局猟銃は一度もつかっていないようだ。仔竜くんは、元気いっぱいで空をぐるぐる飛んでいる。


 無駄な狩猟は行わないこと、この食用の肉は熟成にはむかず、即食べごろという珍しい豚肉であることから、狩りを行った量が多すぎるがために、南の森から少し離れた場所でキャンプ地を設営し、昼ごはんを食べることになった。


 チーズさんはどこからかバーベキューコンロを出し、炭を並べ火をおこす。着火材に魔法ではない、なにかみたことのない火がでる何かで火をつけ、炭の準備をしている。準備を手伝うか声をかけたところ、「大丈夫!たくさん歩いて大変だったでしょ。休んでて!」と言われてしまった。

 その後きれいな火がたつまで、チーズさんが肉と野菜を切り分け、アオ様が串に刺すなど準備しつつ、かなり一生懸命管理をしている。


 その姿、炭奉行とさえいえるぐらいだ。


 ちょうどよく温度管理ができたころ合いで、焼き始める。

 今回は8人でお昼ご飯だ。


 チーズさんは「兄に比べればまだまだというか比べ物にもなってませんが皆さんが美味しく食べてくれるとうれしいです」と言っている。


 そんな話をしているうちに、肉がいいにおいを放ちだす。無茶苦茶おいしそうなにおいで唾液が出てくる。


 今回は豚肉だからしっかり火を通さなきゃね、といいつつ表面を焼いたあと、アルミホイルというものに包み、炭の横においておいている。そういう焼き方もあるのか~と感心してしまう。

 その後もう1回火にもどし、表面をパリッと仕上げたら、「今が食べごろですよ!」と、アオ様が俺に肉を渡してくれる。そもそもの話、アオ様ってこんなに明るく料理をするような人物だった覚えがない。

 見かけたことは数回、暗い顔をした双子で、凍結の魔女の後ろで無表情に控えている、そういうイメージがあった。まず、声を聞いた記憶すらない。ずいぶん変わってしまったのか、もともと元気な少年だったが抑えていたのかはわからないけど、今のは、とてもいいと思う。 


 そんな余計なことを考えつつ、貰った串から肉を一口食べると、肉汁が口の中に広がる。

 なにこれ、口の中がうまみでいっぱいだ。食の経験値があがってしまう。今回の遠征チームはとってもラッキーすぎるだろ。おいしすぎる。おいしすぎて涙が出てくる。

 

 そんなこと考えていたらチーズさんから新たな提案が。

「塩コショウで調味してるけど、味変になる調味料テーブルに置いておくので、適度につかってくださいね~。」


 アジヘンってなんだ。ポンズ・ショウガダレ・ミソダレとかいうらしい。


 運動後だし、なんか無限にいけそうだ。こんな謎旨い料理を食べてしまったら、この先この人がいない食生活、俺たち送れるんだろうか。


「うまい、うまい、おいしい?」

「旨い飯は最高だよ!」

 小さいのが話しかけてきたのでそう、答える。

「うまいめし?さいこう!」


 そう言いながらちびは横で肉を食べている。見た目は10歳程度とはいえ、こんな、肉食べて平気なのかこの生き物は。おなか壊したりしない…よな?保護者はどこだ保護者は!西の離れだ!

 その様子を見ていた同行メンバーのケイトが、しゃがんで少年と目線をあわせ、にこにこしている。そういえばこの肉、全部この子が倒したんだよな。種族からの違いはあるが、本当にすごいな。


「ちびくん、おいしいね?」

 そうケイトが問いかけるとちゃんとお返事をする。


「おいしい うまい さいこう」

「いいね!」

 2人はにこにこ微笑みあっている。


 そしてこっちの視線に気づいたチーズさんは、こっちに来て、この子、もう食制限ないって母竜のウララさんに聞いているので、お肉食べて大丈夫なんですよ~。でも、さすがに子どもなので、味付けは薄くして与えてます!と言ってきた。そんな俺、心配そうな顔してたんだろうか!


 そのままチーズさんとアオ様はその辺で肉をほおばってる。『異世界の君』って、結構フレンドリーなんだな。

 

「本当はビールも飲みたいんだけどこっから帰るから今日は無理だね~」

「アルコールはおうちに帰ってからですよ!」


 そんな会話が聞こえてくる。本当にこの2人、仲がいいな。

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