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第6話 「恋愛ごっこ」のはじまり

次の月のラウンジは楽しかった。二人とも明日の朝から始まる「恋愛ごっこ」を楽しみにしていたのか、明るい歌を何曲か歌った。水割りもいつもよりお代わりをして、ほどよく酔いがまわって陽気になっていた。


「どうしたのですか? 二人とも少し明るくなったみたいですね」


「先月、朝日を二人で見に行って、過去を忘れるために、これから二人でお互いに話を聞き合おうということになりました」


「それは良いことですね」


「それで、明朝、二人でドライブをすることにしました。車1台はここに残しておいて、10時過ぎくらいには戻ってくる予定です。どこかお勧めところはありますか?」


「半島を一周するのはどうですか? 時間的にも丁度良いくらいですし、気に入ったところで車を止めて景色を見たら良いと思います」


「僕もそう考えていました。山本さんもそれで良いですか?」


「私もそれが良いと思います」


「それなら朝食を早めに準備してあげましょう」


◆ ◆ ◆

オーナー夫妻の計らいで、二人は早めの朝食を済ませて、僕の車に乗り込んだ。7時少し前だった。半島を時計回りにめぐることにした。朝の陽ざしが眩しいが、朝日に向かって走る。僕の前向きな気持ちがそうさせた。


長い海岸線が見渡せる高台に来た。駐車スペースもあるので車を止めた。二人は車を降りて水平線を眺めている。


「山本さん、前にもお話しましたが、ひとつ引っかかっていることがあるんです。どう思うか、お聞かせ願えませんか?」


「おっしゃって下さい。私で良ければ」


「東京から戻る時に付き合っていた人がいましたが、こちらへ戻らないで一緒になっていたらと後悔することがあって、きっとまた別の人生があったのではと思うのですが?」


「一緒に来てほしいと頼んだら断られたとお聞きしましたが、端的に言わせていただくとあなたにそれだけの魅力がなかったのだと思います。女性は自分を幸せにしてくれると思う人についていくものです。それとそれほどまであなたのことを思っていなかったのでしょう。それであなたに賭けることができなかった。でもそういう方とはいずれは別れていたかもしれません。後悔してもしかたありません」


「その時の僕だったらしかたないのかもしれません。今はそう思います。力不足だったと。同じことが僕の元を去って行った妻にも言えると思います。僕が自分を幸せにしてくれるとは思えなくなったということですね。それとそれほどまでに僕のことを思ってくれていなかったとも言えますね」


「私について言えば、女は幸せになりたいという打算と相手が好きだと言う愛情のはざまで揺れ動いているものです。その相手が打算と愛情の両方を満たしていれば良いのですが、必ずしもそろっている訳ではありません。どちらかが大きくて片方が小さいということもあります。究極的に打算か愛情かを選ばなければならないときもありえます。ただ、どちらを選んでも正解ではないとは思うのですが」


「山本さんの場合はどうなんですか? 差し支えなければ話してくれませんか?」


「私は死んだ夫は両方を満たしていると思って結婚しました。でも一緒に生活していくうちに夫への愛情が保てなくなりました。そうすると打算の部分も崩れてきてもう一緒に生活できないと思うようになりました。打算と愛情は表裏一体のものかもしれません」


「例えば経済的な基盤が崩れると愛情も保てなくなるようなことはありえますね。表裏一体というよりも両方大切ということかもしれません」


「愛情もどちらかではなくて双方が努力しなければ保てないのですね」


「そうだと思います。今はその意味が分かります。お互い曲がりくねった道を歩いてきたかも知れませんが、今はその経験によっていろいろ分かってきたということです」


「前向きに捉えるしかありませんね」


二人は車に戻ってドライブを続けた。海岸の近くに駐車スペースがあったので止めた。海岸を歩いて見たくなった。波打ち際を歩いて行く。


僕がそれとなく手を伸ばすと山本さんは手を繋いでくれた。気持ちが通じ合っていると思えた瞬間だった。手を繋いでゆっくり歩いていると気持ちが穏やかになる。


その穏やかな気持ちで僕は宿へ戻ってきた。そして駐車場で別れた。またそれぞれの生活に戻った。

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