熱力学のセオリー
人類は熱力学を見出だした時、それは滅びの予言であるという事を悟るに至った。永遠というものが存在しない、証明を自らの頭に突き付けてしまった。時計のネジを回し、一体何を見たと言うのだろうか。
渦巻くエントロピーの加速装置、乱雑さを否定したいのだろうけれど、水面はそれが無意味と教えてくれる。燃え続ける事など出来ずに、何時しか冷めるこの人生。何故それでも、進むことが出来ると言うんだい。
アイン・ソフ・オウル。世界の始まりが無限の光だと言うのならば。アイン・ソフ・クリファー。世界の終わりは無限の空洞なのだろう。我らはアダム・カドモンへと至れない、ただ無限の中に拡散し行くだけ。
創造する熱量も、何時かは均等に冷え行くという。どれだけ身体を燃やせど、その可燃物には限界が有るというだけ。全てが始まった時のような勢いですら、今や背景放射のごとき有り様だろう。
体温が均一に拡散した時。無限の中に忘れ去られてしまうだろう。永遠に回る車輪からは、何も取り出せないように、有った事さえも無くなってしまうかもしれない。きっと、歩幅の差なんて、存在しないんだろう。
アイン・ソフ・オウル。光あれの一言で世界が生じる事も在るのだろう。アイン・ソフ・クリファー。ラッパの一吹きに世界が滅ぶ事も在るのだろう。
「何時死ねるのかを知れるのは祝福だ。それ故多くの人は何も遺せず消えて行く。後悔など在るわけがない、死は忌避すべきものではなく、自ら用意した棺桶で眠るが如く、この一時の夢から覚めるだけなのだろう」
人類は熱力学を見出だした時、それは滅びの予言であるという事を悟るに至った。永遠というものが存在しない、と人は言うだろう。ただ、少しばかり夢を見ている。きっと今は冷たくなっていくように、そして、少しだけ熱を持って夢から覚めるだけ。
膨大な絶望と、少しばかりの祝福が、全ての人にありますように