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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終わらない夏休み

作者: 結城 刹那

プロローグ


 1学期最後のHR。明日からは夏休みだ。


「げっ」


 渡された資料に思わず困惑した。

 高校でも夏休みの宿題はある。各教科の先生からそれぞれ宿題が出されていたが、まさかHRでも宿題が出るとは思わなかった。


「優香は『日記』嫌いなの?」


 隣に座る親友の雛山花凛が声をかけてきた。彼女はニヤついていた。私が嫌な目にあって楽しんでいるようだ。


「嫌いも嫌い。私の分もやって。明日からはたくさん一緒に遊ぶんだから」

「いやだよ。一緒の内容書いたら、先生に何か言われそうだし」

「しょうがない。適当にやろ」


 担任の先生の長い話が終わり、日直が号令をかける。

 高校2年生の夏休みが始まった。


◯1周目


7月21日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 私は『宿題をすぐに終わらせたい派』だ。だから毎日やらないといけない日記が大っ嫌い。


7月27日


 日記以外の宿題が終わった。8月は遊びまくれる。

 宿題をしながら親友と色々なことを話した。今年は彼氏作って青春したいって願望を親友は口にしていた。


8月2日


 親友とプールに行った。楽しかったけど、人が多くいたため思うように泳げなかったのが心残り。

 夕飯を一緒に食べようと思ったけど、親友は用事で先に帰ってしまった。

どうやら、彼氏ができたらしい。実行の早いやつだ。


8月6日


 親友の彼氏の友達が主催するキャンプに参加させてもらった。

 海に、バーベキューに、テントでの生活。どれも新鮮で楽しかった。

 一人だけ趣味の合う男性がいた。でも、友達以上にはなれそうにない。どうやら、私の青春はないらしい。


8月11日


 夏祭りに行った。親友とその彼氏、前にキャンプで会った趣味の合う男性もいた。

 4人で仲良く話しながら屋台を回った。この前はあまり話せなかった親友の彼氏とよく話した。彼は俳優志望らしくとても格好よかった。それに気遣いもできて優しい性格だ。これは親友が好きになっても仕方のないことだろう。

 最後に見た花火はとても綺麗だった。


8月14日


 お盆のため母親の実家に帰省した。

 特にやることもなかったので、親友と通話しながらゲームをした。途中、親友が彼氏に会いに行くと言い出し、通話を切られた。それからは一人でゲームをした。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。うっとうしかったが、幸せそうに話す親友の姿を見てなんだか嬉しく感じた。

最後に乗った観覧車から見える景色は最高だった。


8月20日


 今日から家族旅行。

 1年ぶりの旅行だから、とてもワクワクした。

 見たことない新しい景色はやっぱり魅力的だった。


8月23日


 家族旅行は最高だった。

 料理も、スポットも、ホテルの設備も全部最高。言葉で表せられない。

 お土産もたくさん買って大満足。


8月24日


 親友とゆったり遊ぼうかと思ったけど、連絡が繋がらなかった。

 仕方ないので一日中ゲームをした。夏休みがもうすぐ終わると思うと寂しい。


8月25日


 親友が彼氏の家から帰宅途中に行方不明になったらしい。

 心配で一日何もできなかった。親友の無事を祈るばかり。

 

8月29日


 親友が死体で発見されたと報告を受けた。

 全身から力が抜けた。涙がたくさん溢れてきた。


8月30日


 親友の葬式に参列した。

 多くの人が涙を浮かべていた。

 その中には親友の彼氏もいた。彼も辛そうに泣いていた。

 自分の彼女が死んだのだ。仕方がない。そう思ったら、私もたくさん涙が溢れてきた。

 静かな葬式に流れてくるセミの声がとてもうるさかった。

 夏休みがこれで終わりだなんて絶対に嫌。できることなら、もう一度やり直したい。


◯2周目


7月21日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 私は『宿題をすぐに終わらせたい派』だ。だから毎日やらないといけない日記が大っ嫌い。


8月24日


 親友が行方不明になった。

 親友とゆったり遊ぼうかと思ったけど、連絡が繋がらなかった。仕方なく彼女の家に行くと、母親から「三日前から彼氏の家に行っている」と聞かされた。次に彼氏のアカウントにメッセージを送ると「昨日帰った」と返信が来た。そこで行方不明になっていることに気がついた。

 親友の無事を祈るばかり。


8月29日


 親友が死体で発見されたと報告を受けた。

 全身から力が抜けた。涙がたくさん溢れてきた。


8月30日


 親友の葬式に参列した。

 多くの人が涙を浮かべていた。

 その中には親友の彼氏もいた。彼も辛そうに泣いていた。

 自分の彼女が死んだのだ。仕方がない。そう思ったら、私もたくさん涙が溢れてきた。

 静かな葬式に流れてくるセミの声がとてもうるさかった。

 夏休みがこれで終わりだなんて絶対に嫌。できることなら、もう一度やり直したい。


◯3周目


7月21日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 私は『宿題をすぐに終わらせたい派』だ。だから毎日やらないといけない日記が大っ嫌い。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。うっとうしかったが、幸せそうに話す親友の姿を見てなんだか嬉しく感じた。

「彼氏の家とかで遊んだりするの」と聞いたら、21日から彼氏の家に泊まるらしい。リア充爆発しろ。連絡しまくって邪魔してやろうと思った。


8月20日


 今日から家族旅行。

 1年ぶりの旅行だから、とてもワクワクした。

 遊園地の時に散々彼氏の自慢をされたから、メッセージで親友に散々旅行の自慢をした。うっとうしがられた。いい気味だ。


8月21日


 ホテルの設備は最高だった。

 ゲームセンターやカラオケなどでたくさん遊べるし、温泉から見える景色は絶景だった。

 旅行の様子を親友に自慢していたが、夜になると途端に親友からの連絡が途絶えた。


8月25日


 親友が彼氏の家から帰宅途中に行方不明になったらしい。

 心配で一日何もできなかった。親友の無事を祈るばかり。


8月29日


 親友が死体で発見されたと報告を受けた。

 全身から力が抜けた。涙がたくさん溢れてきた。


8月30日


 親友の葬式に参列した。

 多くの人が涙を浮かべていた。

 その中には親友の彼氏もいた。彼も辛そうに泣いていた。

 彼の涙を見て、私もたくさん涙が溢れてきた。いろいろな感情に支配された涙だ。

 静かな葬式に流れてくるセミの声がとてもうるさかった。

 夏休みがこれで終わりだなんて絶対に嫌。できることなら、もう一度やり直したい。


◯4周目


7月21日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 私は『宿題をすぐに終わらせたい派』だ。だから毎日やらないといけない宿題が大っ嫌い。つまり、日記は大っ嫌いなのである。だけど、最高の夏休みにするからこの日記にたくさんの思い出を書いてやる。


7月27日


 日記以外の宿題が終わった。親友があまりにも勉強ができなさすぎて6日もかかった。でも、これで8月は遊びまくれる。

 宿題をしながら親友と色々なことを話した。クラスについて、将来について、そして恋愛について。今年は彼氏作って青春したいって願望を親友は口にしていた。


8月2日


 親友とプールに行った。楽しかったけど、人が多くいたため思うように泳げなかったのが心残り。

 夕飯を一緒に食べようと思ったけど、親友は用事で先に帰ってしまった。

 どうやら、彼氏ができたらしい。実行の早いやつだ。

「どこで知り合ったの」と聞いたら、SNSだと言う。

 親友はとても嬉しそうに帰っていった。それがとても印象的だった。


8月6日


 親友の彼氏の友達が主催するキャンプに参加させてもらった。

 海に、バーベキューに、テントでの生活。どれも新鮮で楽しかった。男女でテントを分けてくれたのはポイントが高い。安心して寝られた。

 一人だけ趣味の合う男性がいた。彼は今回で3回目の参加らしい。キャンプについて聞くと、オーナーが毎年SNSで参加者を募っているようだ。男女の比は半々くらい。毎年この中からカップルが何人かできるんだとか。

 だが、私はそこには入れなさそうだ。彼は友達以上にはなれそうにない。


8月11日


 夏祭りに行った。親友とその彼氏、前にキャンプで会った趣味の合う男性もいた。

 4人で仲良く話しながら屋台を回った。この前はあまり話せなかった親友の彼氏とよく話した。

 彼氏と話している間、ちらちらと親友を見ると、不貞腐れた表情をしていた。どうやら彼女は私に嫉妬したらしい。

 最後に見た花火はとても綺麗だった。帰り道、親友は私に見せつけるように彼氏にギュッと抱きついていた。


8月14日


 お盆のため母親の実家に帰省した。

 特にやることもなかったので、親友と通話しながらゲームをした。途中、親友が彼氏に会いに行くと言い出した。「親友よりも彼氏を選ぶの」と面倒くさい質問を投げかけてみると、「うるさい。今は青春したいの」と叫ばれ、通話を切られた。

 それからは一人でゲームをした。


8月16日


 実家から帰ってきた。

 テレビをつけると、なんだか物騒なニュースが流れた。

 最近この辺りで『誘拐事件』が多発しているらしい。夜道はなるべく歩かないでおこうと思った。親友にもこのことを知らせると「なにそれ、怖すぎ」とブルブル震えたスタンプを送ってきた。本当に怖がっているのだろうか。

 それにしても、私たち二人はニュースに疎すぎではないだろうか。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。うっとうしかった。

「彼氏の家とかで遊んだりするの」と聞いたら、21日から彼氏の家に泊まるらしい。なんでも夜に彼氏の車に乗せてもらって家に行くとか。「誘拐の件もあるし、夜は危険だよ」と言ったら、「彼氏は昼間仕事だから夜しか空いていない」と言う。

 リア充大爆発しろ。連絡しまくって邪魔してやろうと思った。


8月20日


 今日から家族旅行。

 1年ぶりの旅行だから、とてもワクワクした。

 遊園地の時に散々彼氏の自慢をされたから、メッセージで親友に散々旅行の自慢をした。うっとうしがられた。いい気味だ。


8月21日


 ホテルの設備は最高だった。

 ゲームセンターやカラオケなどでたくさん遊べるし、温泉から見える景色は絶景だった。

 旅行の様子を親友に自慢していたが、夜になると途端に親友からの連絡が途絶えた。私を無視して彼氏とイチャついているに違いない。既読無視は流石に罪が重い。


8月23日


 親友の行方不明が発覚した。

 一昨日以来、親友との連絡が繋がらなくなったのが不安で、家族旅行から帰ってすぐに親友の家に行った。彼女の母親から「一昨日から彼氏の家に行っている」と聞かされた。次に彼氏のアカウントにメッセージを送ると「昨日帰った」と返信が来た。そこで行方不明になっていることに気がついた。

 親友の無事を祈るばかり。


8月29日


 親友が死体で発見されたと報告を受けた。

 全身から力が抜けた。もっと強く引き留めれば良かったと思った。


8月30日


 親友の葬式に参列した。

 多くの人が涙を浮かべていた。

 その中には親友の彼氏もいた。彼も辛そうに泣いていた。

 怒りが沸々と湧いた。どうせ俳優志望特有の嘘泣きだ。私は絶対に彼を許さない。

 静かな葬式に流れてくるセミの声がとてもうるさかった。

 夏休みがこれで終わりだなんて絶対に嫌。できることなら、もう一度やり直したい。


◯5周目


7月21日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 夜、お父さんに家族旅行を別日に変えたいとお願いした。

 お父さんは承諾してくれた。あまり父親は好きじゃなかったが、少しだけ好きになった。


8月2日


 親友とプールに行った。楽しかったけど、人が多くいたため思うように泳げなかったのが心残り。

 夕飯を一緒に食べようと思ったけど、親友は用事で先に帰ってしまった。

どうやら、彼氏ができたらしい。実行の早いやつだ。


8月6日


 親友の彼氏の友達が主催するキャンプに参加させてもらった。

 海に、バーベキューに、テントでの生活。どれも新鮮で楽しかった。男女でテントを分けてくれたのはポイントが高い。安心して寝られた。

 一人だけ趣味の合う男性がいた。彼は今回で3回目の参加らしい。キャンプについて聞くと、オーナーが毎年SNSで参加者を募っているようだ。男女の比は半々くらい。毎年この中からカップルが何人かできるんだとか。

 私もその中に入りたいと思った。だから、趣味の合う男性と連絡先を交換した。これで私も青春できる。


8月11日


 夏祭りに行った。親友とその彼氏、前にキャンプで会った趣味の合う男性と一緒にだ。

 4人で仲良く話しながら屋台を回った。この前はあまり話せなかった親友の彼氏とよく話した。趣味の合う男性ともよく話した。花火が始まる前、私は彼に告白した。彼は快く受け入れてくれた。

 帰り道、親友も私もお互いの彼氏と手を繋いで歩いた。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間は互いの彼氏との惚気話に花を咲かせた。

「彼氏の家とかで遊んだりするの」と聞いたら、21日から彼氏の家に泊まるらしい。「私も行きたい」と言ったら親友に嫌がられた。それでもめげずに頼み続けたら、親友は彼氏に相談してくれた。彼氏からこの前祭りに行った4人で泊まろうよと言われた。

 つまり、私たちはダブルお泊まりデートをすることになったのだ。


8月21日


 今日はいつもより早く日記を書く。これからお泊まりデートだからだ。

 やったことは特になにもない。元々、家族旅行の予定だったから仕方がない。

 親友とダブルお泊まりデート。男の人の家に泊まるのは初めてで緊張する。デートってなにをするんだっけ。


◯6周目


7月21日


 嫌な夢を見た。

 親友と二人で彼氏を待っていると、突如大きな黒い車が目の前に止まった。そこから複数の覆面の男たちが出てきて、無理矢理車に乗せられた。それからのことは思い出したくもない。

 朝起きてから体に力が入らなかったので、今日は一日中寝込んだ。最悪な夏休みの始まりだ。


8月5日


 親友からのキャンプの誘いを断った。

 気分が乗らなかった。もしかすると、まだ体調が悪いのかもしれない。

 夏風邪は長いというが、本当なのだろう。


8月10日


 親友からの夏祭りの誘いも断った。体調は一向に治る気配がなかった。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。今日は体調が良かった。

待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。うっとうしかった。

「彼氏の家とかで遊んだりするの」と聞いたら、21日から彼氏の家に泊まるらしい。親友の話をずっと聞いていたら、体調が悪くなった。気分が悪い中、楽しそうに話す親友に怒りが湧いた。あの場で怒りを爆発させなかった自分を褒めてやりたい。


8月20日


 家族旅行だったが、体調が悪いため家で休むことにした。

旅行のキャンセルはもったいないので、久々の夫婦旅行を楽しんでもらうことにした。

 一日中、部屋のベッドでゴロゴロしていた。


8月21日


 体調は一向に治る気配がない。

 家には誰もいなかったので、親友に看病してもらおうと連絡した。

怒られた。「自分に彼氏がいないからって、私の青春を邪魔しないで」って言われた。

 辛かった。こんなに苦しい思いをしているのに、なんでそんなことを言うのだろう。


8月25日

 

 親友が、彼氏の家から帰宅途中に行方不明になったらしい。

 今日も一日、私は何もできなかった。


8月29日


 親友が死体で発見されたと報告を受けた。

 彼女に対して不満だらけだったのに、涙がたくさん溢れてきた。


8月30日


 親友の葬式に参列した。

 多くの人が涙を浮かべていた。

 その中には親友の彼氏もいた。彼も辛そうに泣いていた。

 嘘泣きだと思うととても悲しくなった。なんで親友はあんな奴を好きになったのだろうか。

 静かな葬式に流れてくるセミの声がとてもうるさかった。


◯7周目


7月21日


 長い長い夢を見た。

 夢の中で夏休みを何度も送っていた。

 私だけみんなと違って夏休みがたくさんある。

 それはとても嬉しいことだろう。でも、私はまったく嬉しくない。早く2学期が始まってほしい。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。心底うっとうしかった。

「彼氏の家とかで遊んだりするの」と聞いたら、21日から彼氏の家に泊まるらしい。私は 必死に彼女を引き留めた。なんだかとても嫌な予感がしたからだ。

 彼女からたくさんの罵声を浴びせられた。「自分に彼氏がいないからって、私の青春を邪魔しないで」って言われた。それがとても胸に刺さった。

 この日、私は彼女と親友ではなくなった。


8月21日


 今日はいつもより早めに日記を書く。

 私は悪魔になることを決めた。親友の青春を奪う悪魔に。

でも、味方は誰もいない。警察に連絡しても、無意味だった。

 だから私は親友を待ち伏せして、彼氏が来たところで彼女を強奪してやることにした。


◯8周目


7月21日


 嫌な夢を見た。

 親友が誰かを待っていた。すると、大きな黒い車が現れて中から覆面の男が出てきた。親友を誘拐しようとする彼を私は殴った。親友を連れて逃げると車の中からさらに男が出てきて捕まった。抵抗したが、呆気なく車に乗せられた。それからのことは思い出したくもない。

 今日は体調が悪かったので、一日中寝た。


7月22日


 親友と一緒に夏休みの宿題をした。

 夢のせいか彼女をとても愛おしく感じて抱きしめてしまった。


7月27日


 日記以外の宿題が終わった。8月は遊びまくれる。

 宿題をしながら親友と色々なことを話した。今年は彼氏作って青春したいって願望を親友は口にしていた。


8月2日


 親友とプールに行った。楽しかったけど、人が多くいたため思うように泳げなかったのが心残り。

 夕飯を一緒に食べようと思ったけど、親友は用事で先に帰ってしまった。

 どうやら、彼氏ができたらしい。実行の早いやつだ。


8月5日


 親友からのキャンプの誘いを断った。気分が乗らなかったのだ。

 部屋で一日中ゲームをした。やっぱりゲームは楽しい。最近は頭脳戦ゲームにはまっている。


8月10日


 親友からの夏祭りの誘いも断った。体調は一向に治る気配がなかった。

 部屋でテレビを見ていると、近所で『ぼや騒ぎ』が起こっていると言う。犯人はまだ捕まっていない。早く見つかるのを願うばかりだ。


8月14日


 お盆のため母親の実家に帰省した。

 特にやることもなかったので、親友と通話しながらゲームをした。途中、親友が彼氏に会いに行くと言い出した。それからは一人でゲームをした。


8月16日


 実家から帰ってきた。

 テレビをつけると、なんだか物騒なニュースが流れた。

 最近この辺りで『誘拐事件』が多発しているらしい。『ぼや騒ぎ』に『誘拐』とは治安の悪い地域だなと思った。


8月18日


 親友と二人で遊園地に行った。

 待ち時間はひたすら親友の惚気話に付き合わされた。うっとうしかったが、幸せそうに話す親友の姿を見てなんだか色々な感情が湧き上がった。

 最後に乗った観覧車から見える景色はやっぱり最高だった。


8月20日


 家族旅行だったが、体調が悪いため家で休むことにした。

旅行のキャンセルはもったいないので、久々の夫婦旅行を楽しんでもらうことにした。

 一日中、部屋のベッドでゴロゴロしていた。


8月21日


 今日はいつもより早めに日記を書く。これからとても大事なことをするためだ。

 私は悪魔になることを決めた。いや、もうすでに悪魔になっているのだろう。

 味方は誰もいない。全員が敵だ。でも、それで良い。私は大魔王なのだから。

 これもある種の青春かもしれないと思うと、おかしくて笑けてきた。


8月23日


 昨日は色々と面倒なことがあって日記が書けなかった。

 でも、私はついにやり遂げた。何をやり遂げたのか。ゲームだ。私は今までずっとプレイしていたゲームをクリアすることができたのだ。これほど嬉しいことはない。


8月31日


 長い長い夏休みがもう終わる。

 でも、悔いはない。今日この日を迎えることができたことを誇りに思う。

大っ嫌いな日記を全て書き切ることができた。


エピローグ


 2学期最初のHR。昨日で夏休みが終わった。


「優香、一緒に帰ろ」


 日直の号令を終えると花凛が私に声をかけた。

 今日はいつにも増して輝いた表情をしている。


「いいけど、彼氏は?」

「別れた。夜道に女の子を置いておく男なんて碌な奴じゃないと思ってね」

「いい判断だと思う」


 私たちはバッグ片手に二人で教室を出た。


「それにしても、なんで優香は『ぼや騒ぎ』なんてしたの?」

「若気の至りってやつかな」

「それ、おじさんが言う言葉だよ」

「うるさいな。私だって青春したかったの」

「なにそれ。歪んだ青春だね。でも、警察に追いかけられた優香が私のところに来てくれたおかげで私はここにいる。これって運命かな」


 親友は私の腕に自分の腕を絡ませた。

 もしかすると、私が青春を歪ませてしまったのと同じように、彼女も性癖を歪ませてしまったのかもしれない。


「さあ」


 まあ良いとしよう。私は親友の手を握った。

 どうなっても、今ここにいてくれるだけでありがたい。


 うるさかったセミの声はもう聞こえてこなかった。

 私だけの長い長い夏がようやく終わりを告げたみたいだ。

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