戦いの前に
「あら、まあまあっ! 本当に美味しいじゃない! なかなかやりますわね、あなた」
そこのお前呼ばわりから、あなたに変化した!
「ありがたき幸せ」
チーズフォンデュが大変お気にめしたようだ。
令嬢の背後にいる護衛騎士達も物欲しそうな顔をしていた。
しかしとりあえず今は令嬢が先。
俺はジェラルドに耳打ちした。
「ジェラルド、先日預けたプリンを……」
「ああ」
ジェラルドが内部は時間停止の魔法の鞄から預けていたプリンを出してくれた。
「デザートの用意をして参ります」
俺はこそっとテント内で皿を用意し、プリンをセット。
今回は皿がシンプルだけど、日本に帰ったらなんか花柄のティーセットやお皿でも買っとくかな?
俺は伯爵令嬢の前にプリンを運んだ。
「お待たせしました、極上プリンです」
「極上ですって?」
「当方は極上だと思っております」
「まあ、食べてみれば分かるわね」
「はい、どうぞ、お召し上がりください」
「……! つるりとしてなめらか! 口の中ですぐに消えましたわ」
いや、飲み込んでるはずだが。
「ああっ! もう食べ終えてしまったわ! 美味しすぎて!」
令嬢は本気で嘆いていた。
「プリンは今のが最後の1つでして、おかわりが出せず、申し訳ありません」
「……し、仕方ありませんわね、でも極上の名にふさわしいものでしたわ、褒美をつかわす」
褒美!
令嬢が手を上げると、お付きの執事が現れ、袋を出してきた。
令嬢は袋から金貨を数枚つかんで俺の目の前に!
俺は慌てて両手を出して受け取った!
金貨五枚!
早速ミッションコンプリート!!
もう魔法の鞄が買えるじゃん!
別に冒険者の皆さんの食事係をせずともジェラルドと令嬢のお世話だけでいい気がしてきた!
集まってる冒険者多いから、ちよっと大変そうだと思ったし。
俺は楽な方に流れる人間。
「ありがとうございます!!」
「あなた、明日の私の食事も用意なさい」
「かしこまりました!」
令嬢が立ち去って、俺はジェラルドと令嬢の食事の用意だけで仕事は十分みたいだと伝えた。
「なるほど、分かった。じゃあ俺は今からオーク討伐会議にでてくる」
「行ってらっしゃい」
※ ※
ジェラルドの報告によれば早朝に進軍するらしい。
となれば明日の朝はどうしよう。
早起きするならつまみ程度のものがいいのか?
ナッツ入りサラダやサンドイッチくらいか?
夜、俺とジェラルドはそれぞれのテントで寝る。
寝る前に夜空を見上げたら、何故か月が赤い。
ちよっと怖いな。
朝になる前に、にわかに外が騒がしくなった。
またラビ族の村にサイクロプスという一つ目の魔物が増えたという知らせを斥候が持ってきた!
しかも村を出て移動中で、こちらまで魔物の軍勢が来そうだという話だった!
早朝にオーク狩りにラビ族の村に行くはずが先手を取られている。
とにかく戦闘員は臨戦態勢だ!
俺は後方支援の飯炊きなので、後方待機だが。
隣のテント前でジェラルドが干し肉を咥えながら装備を整えていた。
急だったから戦闘前の栄養補給がああなったのか。
ところで女騎士の令嬢もやはり前線に出るのかな?
俺はリュックのポケットにまだ隠し持っていたチョコバーをジェラルドにまず一つあげて、令嬢のもとに走った。
令嬢の宿舎前に到着し、俺は伯爵家の護衛騎士に取り次いでもらった。
令嬢は鎧姿になっていた。これぞ女騎士!
「伯爵令嬢! 急だったので、これを!」
「なんですの? 見たことのない包装のコレは」
包装は衛生面を考えてそのままだった。
「栄養のあるチョコバーです! チョコレート!
きっと、多分美味しいです! そこのギザギザした端っこから破れます」
令嬢ビリッと開けたが、すかさず護衛騎士が毒見をと言った。
「そんな事をしたら減るわ! 時間もないし!」
「お嬢様!」
騎士が止めるのを制し、令嬢はさっとひと口齧った!
「美味しい! 甘い! 美味しいですわ!」
「ああ……っ」
彼女が毒見をさせずに勝手に食べたので騎士は青ざめている。
とりあえず令嬢は美味しいを2回も言ったので、俺はほっとした。
いや、これから戦闘だから緊張感を忘れてはいけないが!
「力が湧いてきましたわ! 出陣よ!」
「はっ!」
令嬢はマントを翻し、騎士達を引き連れ、戰場へ向かった!
チョコバーを齧りながら!
皆が無事に戻りますように!




