ミレナの実家にて
「まあまあ、こんな田舎の山里にようこそ」
「ミレナがついに男を連れてきたって!?」
狐族の美男美女が現れた!!
「両親よ」
「え、あ! はじめまして! 娘さんには俺の店でお世話になっております! えっと、これよかったら!」
俺は急に登場したミレナの家族を前に焦りながらも御土産を魔法の風呂敷から出した。
「あら、何かしら?」
まず、ミレナママに手渡す。
「これはチョコレートで」
「まあ! お砂糖を沢山使うからお貴族様しか食べられない高級な!?」
「俺の故郷なら平民でも食べられますが、それとシャンプー、リンスと石鹸、これらは貴族の方も買っていくものです」
「まあ!」
ここまで女性ウケ狙いで、ここからは……
「ハムとお酒とジュースです」
「おお?」
今度は旦那様に渡す。
ハムが家族向け、お酒が父親向け、ジュースは子供向け。
お歳暮やなんかで贈るもので相手家族の誰を意識してるか分かるって言われてるらしいから、全員に配慮してみた!
「まあ、沢山ありがとうございます!」
「悪いな、こんなに沢山」
そしてここまで来て、ハッと気がついた。
「あ! 魔法のカバンの方をあいつらに取られたままでは!?」
「大丈夫です、マスター、私の糸でカナタさんとマスターのカバンを回収済みですよ」
「ミラーッ! なんて出来る子なんだ!」
俺はミラを抱き上げてぐるぐる回った!
気分的には頭を撫でたり頬擦りしたいとこだが、ウィッグ乱れたりメイクが剥げるといけないから。
「そろそろ家に行きましょうよ」
と、ミレナが言ったところでジェラルドが、
「俺は一旦店の様子を見てくる、実は急いでいたからフェリには留守番をさせていたんだ、何かあったら連絡をしてくれ」
「あ! そうか! フェリ! ごめん、ジェラルド、お願いします」
「ついでに伯爵にも聖国のスパイとあの騒動の話を報告しておく」
「ありがとう! 誰かルルエか馬を売ってくれませんか!」
ジェラルドの足を確保しなければと俺は周囲にの狐族に聴こえるよう声をはりあげた。
「あー、いいよ、うちから出そう、沢山御土産をもらったし、馬とルルエどっちがいい?」
ミレナのお父さん!
「じぁあルルエを」
「わかった」
ジェラルドがルルエを希望したので、ジェラルドはルルエに乗って山里を出た。
俺とカナタとミラとラッキーはミレナの実家に招かれた。
山の中ではあるが、二階建てのなかなか広い家だった。
「お酒お酒〜♪」
ミレナパパはご機嫌でお酒とハムなどを抱えて一足先にリビングへ向かったようだ。
「あなた、飲み過ぎないでね」
「分ってるよ、ハニー♡」
「あたしチョコレートとジュース!」
「まったくあなた達は〜」
ミレナの妹ちゃんもかわいい。
そんでシャンプーやリンスを箱に入れつつ眺めているミレナママを見て思い出した。
あ、そうだ、俺、風呂に入りたかったんだよ!
「ところでミレナ、すまないが、風呂を借りてもいいか?」
「いいわよ」
俺はお風呂を借りて出てきた。
カラスの行水並みに早く出たが、人の家だしな。
俺はこの家の主人に向き直り、
「すみません、一番風呂をお借りして。ありがとうございました」
お礼を言った。
「お客様だし、普通だ! 気にしないでくれ! いやしかし礼儀正しいな!」
ミレナのパパはワハハと笑った。美形なのに豪快っぽい笑い方だ。
「では、僕もすみません」
「おー、行ってら」
次にカナタが風呂を借りに行ったので軽く声をかけて送りだし、しばらくしてカナタが入浴を終えて戻ってきた。
「お風呂ちょうだいしました、ありがとうございます」
「なんの、なんの。ミレナの新しい友達はえらく品がいいなあ〜」
ミレナパパはご機嫌で酒を飲んでいるし、俺達はリビングでミレナママの手料理などでおもてなしをされたので、こちらからもついでに酒と唐揚げも追加で出した。
「おお、また違うお酒だね?」
「こちらはビールです、冷えてますよ」
「これがまたこの唐揚げに合うから! 海龍もお気に入り!」
「おにーさん、これ、唐揚げって言うの?」
妹ちゃんは俺をおじさんじゃなくておにーさんと言ってくれる、優しい娘だな。
「ああ、鶏の唐揚げだよ」
宴会の始まりだった。
「この冷えたビールと鶏肉の揚げ物すごく合うなあ〜、美味い!」
パパさんも上機嫌。
俺も美味しいものを食べてすっかり油断したとこにミレナが突然紙を持ってきた。
「約束してたご褒美よ」
「ん!?」
ミレナが渡してきた書類っぽい紙を読んでみた。
「んん? これは婚姻届って書いてあるように見えるが、なあカナタ」
「僕にも婚姻届って書いてあるように見えるよ」
「そうよ、早くサインしなさい、ショータ」
「あ、これ、ミレナのサインが既にあるぞ!?」
「そうよ」
「俺がミレナと結婚するってことか!?」
「そうよ、嬉しいでしょ?」
「罠!? ドッキリ!?」
俺は周囲を見渡し、思わずカメラを探した。
「何が罠よ!」
ミレナが軽く怒ったが、
「あ、そうか、これは翔太の記念すべき瞬間!」
カナタが魔法のカバンから急にカメラを取り出した。
「え!? マジで!? こんな逆プロポーズある!? 両親の目の前だぞ!?」
俺はびっくりして酔いが覚めた。
ミレナはまさか断らないでしょうね? という微笑みを浮かべていたし、ミレナの家族もニヤニヤ笑っている。
──これは、孔明の罠!?




