▼【第二十五話】 お願いでも無理かもしれません。
「後は二階なのですが、部屋が三つとお風呂場があります」
僕はそう言いつつも、少し不安に思う。
父さんと母さんの部屋は未だに手付かずだ。どう説明していいかもわからない。
「見ても良いですか?」
「はい、僕の部屋とお風呂場は見てもかまいません」
「残りの部屋は?」
と遥さんは不思議そうに聞き返してきた。
正直に答えなければならない。僕は彼女に対してどこまでも正直になると決めたから。
「父と母の部屋です。まだ閉め切ってます。もう十何年も」
「もうご両親いないんですっけ?」
遥さんは少し不安そうな表情を見せてそう聞き返してきた。
「はい」
「何で締め切ってるんですか?」
遥さんも僕の動揺になにか感じたのだろうか、まっすぐに僕を、真剣に見てそう聞いてきた。
「二人とも事故で、僕が運転する車で事故を起こして死なせました」
だから、僕は正直に答えた。
「え? す、すいません……」
それを想像してなかったのか、遥さんは視線を落とし、申し訳なさそうに僕に謝ってくれた。
「助手席にいた母がとっさに僕を庇って僕だけ無傷でした。父は投げ出されて、母は僕を庇って死にました」
僕は更に告げる。
この人には、遥さんには僕のすべてを知ってもらいたい。
そんな独りよがりな欲望が芽生えてしまったのかもしれない。
「わかりました、もういいです、その話は。その、また今度に……」
と、遥さんはそう言ってこの会話を打ち切った。
そうだよな。こんな重い話を遥さんにしても迷惑だ。
このことを、しっかりと話せる機会は来るんだろうか。
「いえ、僕こそすいません、もしかしたら誰かに聞いて欲しかったのかもしれません。ただそれ以来二人の部屋に入ることができなくなりました」
あの事故以来、僕は必要がなければ二人の部屋に入らなくなった。
そして、時がたつと二人の部屋にはもう入れなくなり、ずっと締め切っている。
どんな顔をしてあの部屋に入ればいいか、僕にはもうわからない。
「ああ、そのせいで車も運転できなくなったんですね。部屋も…… 開けられない、っと」
遥さんは僕が運転できないと言ったことを覚えていてくれたようだ。
「はい、ハンドルを握るだけで震えが止まらなくなりました。もう僕には運転できません。これだけは多分、遥さんのお願いでも無理かもしれません。あなたまで死なせてしまうと思うと……」
「あっ、うん、そんなこと望みませんよ。ああ、だから車庫があるのに車がないんですね…… わかりました、その二つの部屋は、田沼さんの心の整理が付いたら開けましょう?」
少し重い話をしすぎてしまったかもしれない。
けど、遥さんには、遥さんだからこそ聞いて欲しい。僕はそう思ってしまう。
「もう十年以上昔の話です。心の整理は一生つかないかもしれません」
けど、この話はそろそろこの辺で今日はやめておかないと、遥さんに嫌われてしまうかもしれない。
また今度聞いてくれるというのだ、その時を待とう。それでいい。
「私と一緒でもダメですか?」
不意にそんな言葉が遥さんから投げかけられる。
「え? 遥さんが望むなら、部屋なら開けます。ただ本当に十数年、扉を閉めたままです、どうなっているかは想像もできません」
これは本当だ。
それに古い家だ。鼠が住み着いていても不思議じゃない。まあ、物音を聞いたことないから、それもないとは思うけど。
「ああ、今じゃなくていいですよ。田沼さんの心の整理が付いたらで」
「あなたが望めば、僕はなんだってします。できなくても、最大限そのための努力をします」
そう言いつつも僕はさっき運転はできない、と言ったばかりだ。
僕はダメな人間だ。ただ望みをかなえる努力だけは欠かさずにしたい。僕はそう心に誓う。
「私のために無理しないでいんですよ、自然体でいてください」
「それでは僕は何もない男に戻ってしまいます。僕は、あなたのために頑張りたいんです、頑張っていたいんです」
今僕があるのは、こうして遥さんを自宅に呼べているのは、僕が、僕なりにだけれども、必死に努力して変わろうとした結果だと思う。
あのままの、遥さんに恋する前の僕では、絶対にこうはなっていない。それだけは断言できる。
大した変化ではないのかもしれない。けど、僕は少しずつでも変わりたいんだ。遥さんの隣に立てる男に。
「それでも良いんですよ、たぶん。あっ、そうだ、ゲームやってるんですよね? パソコンで!」
この話はここまでとばかりに、遥さんも話題を変える。
それもそうだ。
せっかく遥さんが僕の家に来てくれているんだ。重い話ばかりでは申し訳ない。
遥さんには楽しい思い出を一杯持って帰って欲しい。
けど、なんで僕がゲームばっかりやっていることを…… ああ、平坂さんか?
「は、はい? はい、しています。色々と相談にも乗ってもらってます」
「知ってますか? 実はその中に茜がいるんですよ!」
その言葉に僕も流石に思考が一瞬、停止する。
「え!? 平坂さんが?」
え? 皆の中に平坂さんがいる? だ、誰だ? だからいろいろ詳しかったのか?
ああ、僕が遥さんのことを相談し始めたから、だから僕を飲み会にも誘って……
「私もそのゲームやろうかな? 茜にはなんとなく止められたけど」
色々と思考がグルグルしていたけど、遥さんのその言葉にそれらの思考は吹き飛びどうでもよくなる。
「ぜひ! やるなら全力でサポートします!」
遥さんと一緒に遊べる!?
それはきっととても素晴らしいことなんだろう。
「あっ、うーん、たぶん私はゲーム自体はしないと思います。ただゲームをしている田沼さんに興味があるだけかも? とりあえず田沼さんのお部屋見せてください」
ゲームをするのにゲーム自体をしない? その意味が僕には理解できない。
けど、僕に興味がある、その言葉だけで僕の胸は幸せでいっぱいになっていく。
「何もない部屋ですが」
そう言って、自分の部屋のドアを開ける。そこには本当に何もない。まるで以前の僕のようだ。
「え? 本当に何もないんですね、机とベッドとパソコンだけ…… 漫画すらないのは予想外でした……」
遥さんも僕の部屋を見て茫然とする。
僕の部屋は事故を起こしてからずっとこんなものだ。
万が一、いや、千が一、百が一……
十が一、誤字脱字があればご指摘ください。
指摘して頂ければ幸いです。
少なくとも私は大変助かります。
普段書いているのはこっち。
ただし、こっちは地獄の文字数と無駄な設定語りが待ってます。
しかも、山場どころか起承転結もない、お話が淡々と続くお話です。
またかなりスロースターとなお話でもあるので気長に、時間がある時にでも読んでやってください。
ちゅ、忠告はしたからな!
(でも、読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで!! ついでに気に入ったら評価もブクマもして!!感想もついでに書いてけよ!!)
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「学院の魔女の日常的非日常」
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