▼【第二十話】 驚くほど心が穏やかだ。
僕は遥さんを迎えに行く。彼女の部屋まで。
途中、花屋があったので花束を買う。
ついでにどれを買ったらいいかわからないから、適当に素敵な物をって注文した。
用途はなんですかって、聞かれたから、僕は顔を真っ赤にしながら好きな人へ送ります、と答えた。
店員さんも笑顔で用意してくれた。
様々な花の中に、一本だけ真っ赤な薔薇が中央に目立つように入っている。せっかくならもっと入れてくれればいいのに。
僕はそれを持って彼女の部屋へ行く。
マンションの入口で彼女の部屋の番号を押す。
少し間があって、
「はーい、どなたですか?」
と、インターフォン越しに返ってくる。
「た、田沼です」
と答える。
「あっ……」
と、彼女が焦ったように言ったのが聞こえた。
そのあと少しの間があって、
「とりあえず入ってください」
そして、マンションの自動ドアが開く。
彼女の部屋の前まで行って、チャイムを鳴らす。
扉が開く。
そして、部屋着の彼女が慌てて出てくる。
「ごめんなさい、まだ用意出来てなくてって…… 綺麗な花」
言い訳より花束に見とれてくれたことが僕は嬉しい。
「はい、どうぞ」
花束を渡す。
遥さんは嬉しそうに受け取ってくれた。
僕は内心、デートのこと忘れてたんだろうな、ということが脳裏をよぎる。
けど、僕はそんなことよりも彼女の部屋着姿を見れたことが嬉しかった。
僕は彼女の部屋の中に入り、ソファーに座りそこで待たされる。
彼女が今、隣の部屋で着替えて用意をしてくれている。僕のために用意してくれている。
それだけで僕は嬉しんだ。デートを忘れていたことなんでどうでもよくなるくらいに、嬉しいんだ。
どれくらい時間がたっただろうか。
「お待たせしました」
そう言って彼女が隣の部屋、寝室から出てくる。
その瞬間、僕は驚く。彼女の服装はどことなく僕の服に合わせてくれている気がしたから。
「あの、その服、あ、合わせてくれたんですか?」
僕がそう言うと遥さんは嬉しそうに笑ってくれる。
「おっ、気づきました? そもそもそういう意図でその服を選んだんですよ。茜がね、昔の私ならって合う言ってたから、これ少し昔の服なんですけどね」
そう言って遥さんはスカートの裾を少し持ち上げて見せた。
ああ、なんてかわいいんだろう。
けど、
「昔の?」
とは、どういう意味だろうか。
「こっちの話ですよ、時間は大丈夫ですか?」
「え? ああ、少し急いだほうがいいかもしれません」
スマホで時間を確認すると、それほど余裕がない。
「じゃあ、急いでいきましょうか?」
「はい」
僕と遥さんは電車に乗った。
もう僕は車を運転できないから。電車を使うしかない。
「すいません、僕、運転できなくて」
「いえいえ、かまいませんよ。私もできないですし」
もう一度時間を確認する。何とか遅れずにつけそうだ。
「何とか間に合いそうですね」
「すいません、その……」
遥さんは少し申し訳なさそうにしてくれている。
僕は気にしていないので、そんな必要はないのに。
「いいですよ。僕は何も気にしてません」
彼女が謝る理由はない。たとえ、予定した時間に間に合わなくたって僕は構わない。新しくチケットを買えばいいだけだ。
当日でも買えるようだし、そもそも予約も僕が勝手にしたことなのだから。
「でも……」
まだ遥さんが気にしているようなので、
「和歌月さんの部屋着姿を見れただけ儲けものだと思っています」
と、僕は告げた。
これは冗談でなくて本心からだったけど、遥さんは冗談ととったようだ。
「ちょっ…… 田沼さん、そんなこと言うんですね」
そう言って笑ってくれる。その笑顔に僕も嬉しくなる。
「はい、自分でも驚きです。自分がこんなに話せるだなんて思ってなかったです。あなたを前にしたらなんででもできる気がします」
「田沼さんって思ってたより、あ、すいません。その、恋愛経験あるんですか?」
少し驚いたように遥さんが聞いてくる。今日は自分でも話せている気がする。
二度目のデートだからだろうか。驚くほど心が穏やかだ。
服を買いに行くときは緊張しすぎて自分でもよく覚えてない。
「いいえ、ないですよ」
正直に答える。僕は彼女に嘘をつかない。そう決めている。
「その割には、なんていうか、今日は落ち着いていますよね?」
「そうですか? でも、心臓は今もすごい勢いで脈打ってます。けど、心は何だから落ち着いているんです」
確かに僕の胸は今もはち切れんばかりに高鳴っている。
けど、気持ちはこれ以上ない位穏やかなんだ。幸福に包まれている。安らぎを感じられている。
「そうなんですか?」
遥さんは不思議そうに僕を見ている。
「ああ、そうだ。話題を色々と考えてきたんです」
「どんなこと考えてきてくれたんですか?」
「お酒のことです。カクテルの意味を調べたんです」
僕は必死に調べたことを思い出す。
「あー、振られに来たときの?」
「はい、ジンバックは、正しき心っていう意味らしいです」
そう言うと、遥さんは少し笑って見せた。
「ですね、田沼さんに合うと思って選びましたよ、あと少し度数高めなので緊張もほぐれるかなって」
「そうなんですか、ありがとうございます」
そんなところまで気を使ってくれているのか。
僕はあの時、そんなこと考える余裕もなくて、自分のことばかり考えていたのに。
「いえいえ」
「で、テキーラサンセットの意味が、その、熱烈な恋と慰めて、でして……」
僕はそこで少し照れてしまう。熱烈な恋とか僕は今まで言ったこともない言葉だ。
「そうですよ、私が選んだのは前者か後者、どっちの理由かわかりますか?」
そう言われて少し考える。いや、思い出すと言ったほうが良いのかもしれない。
僕もずっとそのことを考えていたのだから。
「はじめは、僕の気持ちに例えて、熱烈な恋かと思いました。けど、なんとなくですが後者な気がします」
僕がそう言うと、遥さんが驚いた表情を見せた。
「あら、凄い。そうです、私はあの時、慰めて欲しかったんですよ、いや、それも少し違うかな」
そう言って彼女は少し悲しそうに笑った。
その顔を見た僕は彼女に対して何も言えなくなってしまった。
万が一、いや、千が一、百が一……
十が一、誤字脱字があればご指摘ください。
指摘して頂ければ幸いです。
少なくとも私は大変助かります。
普段書いているのはこっち。
ただし、こっちは地獄の文字数と無駄な設定語りが待ってます。
しかも、山場どころか起承転結もない、お話が淡々と続くお話です。
またかなりスロースターとなお話でもあるので気長に、時間がある時にでも読んでやってください。
ちゅ、忠告はしたからな!
(でも、読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで!! ついでに気に入ったら評価もブクマもして!!感想もついでに書いてけよ!!)
こっち
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「学院の魔女の日常的非日常」
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