北風と太陽
北風と太陽は、「どちらが強いか」で今日も言い争っている。
しかし少なくとも口喧嘩の実力は同じのようで、いつも決着がつかない。
そこで、腕比べをすることにした。旅人のコートを脱がせた者が勝ちだ。
ここは小さな村の街道で、旅人は大抵この道を通る。ターゲットには困らない。
まずは太陽だ。
太陽は旅人を暖かい日光で照らした。
「なんだ、暑くなってきたな」
旅人は着ているコートを脱ぎ、近くの喫茶店でアイスコーヒーとかき氷を食した。
いきなり太陽が勝ってしまったが、北風も試すことになった。
北風は別の旅人に向かって、強く冷たい風を吹き付けた。
「くそっ、いきなりとんでもなく寒くなってきたぞ」
旅人は近くの衣料品店に入り、今着ている薄手のコートを脱ぎ、
新しくダウンコートと帽子、手袋を買いそれに着替えた。
しかも隣のストアで暖かいコーヒーと石焼き芋まで買ってきた。
北風も勝ってしまった。勝負は引き分けだ。
だが、こんなことで納得のいくふたりではない。
北風と太陽は何日も何日も同じことを繰り返した。
この戦いで、多くの旅人がこの近辺で買い物をし、飲食店を訪ね、宿を求めた。
小さな村は中規模の宿場となり、定住する旅人も増え、それを目当てにさらに店が建った。
学校が建てられ、道は整備され、公園が造成され、住宅が立ち並ぶ、立派な大都市となった。
遠くの街まで鉄道が走り、多くのバスが定期的に街を周り、タクシーの数も増えた。
歩道はおしゃれなガードが設置され、暑いときにはミスト、寒いときには温風が出るようになった。
経済成長著しいこの大都市は、いろいろな産業が産まれ定着し、さらに豊かに便利になっている。
みんな、この街が好きなのだ。この街をもっと良くしてやろうと、日々明るく過ごしている。
もはや北風と太陽が何をしようが、旅人も住人も、コートを脱ぐことはなくなった。
しかしふたりは相変わらず、勝負の勝者は自分だと言い張って譲らない。
なにしろ街の人々はみな、街のために諸肌を脱いで頑張っている。