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仮設風向計/詩集その3

黄昏(他2篇)

作者: 浅黄 悠


無窮の暗闇とのっぺりした地平の真ん中に立っている私は

頭上に照明のような星があるのを見上げている

星というには明るく

かといって月のように表情は無く

太陽よりは弱く

静止している白い星からは意志も言葉も感じられない

ただその光が

黒に近いグレーの地平と黒い空との境界を見出している

御蔭で全てのものが眠りにつくことはできない


自分でも消すことができなかった

静寂を望んでいたのに

本当の静寂は怖くて退屈そうで

単色の光と音を

誰にも奪われたくないと思った


星は

ただここに在る

ここで光っている

ここで生きている

それだけを云う記号

あの星は私の心臓


純粋なものが自分の中にあるということ

それを今受け入れろ





たまゆら


完成された楽園

夜明け前立ち込める靄越しの青空

この世で誰よりも意気地ない人間になっているとしても

不幸せな嘘など見つめるのは止めたい

今すぐ全ての声を断ち切りたい


甘くて苦い

まとまらないことばかり考えているから

口から零れる言葉もパズルを砕く様

醜さも幸せも激しさも苦さも悲しさも幼さも

神秘も嫉妬も空虚も見栄も懐旧も真実も

全部水に溶かして薄く揺蕩わせてしまいましょう


そこにあるのは完成された楽園

そこにあるのは完成された楽園

そこにあるのは完成された楽園

ここにあるのは完成された……





黄昏


うねる栗色の髪を光らせて乙女は現れ

夕暮れの空を見ている

青い薄闇の中で煙草を燻らす男は

交差点の若者の暗い瞳を見つめている

かつては麝香漂うカーペットの上

並べたトパーズの曇りも晴らす


私たちが「私たち」であれば

黄昏はそんな戯言を投げかける


毛布片手に

どうしようもなく惨めで当然の未来を

私は見出している

酷く遠くなった記憶の中にある笑顔が

手で掴めるほどすぐそばにある


飲み込まれて何も分からなくなっても

在るべき形には辿り着けるだろうとサバナの大地は言う

己は騙されないぞと飛行機雲

どうせ何もできないんだからと流れていくだけの大洋

夕日の光から私たちは目を背けて

逃げられもせず受け入れることもできないまま

仕事のこととか晩御飯のこととか

メッセージのこととか相容れない誰かのこととか

考えながら金色の刹那を屑籠投げ捨て夜を待つ

乙女も男も去っていくまで

正気と明日の生活を保つだけ




でもこれが夕日に向かって大勢の人間が手を振る間隙の出来事だとしたら?


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