87.忍道
オークションの街に着くなりバラバラに行動し始めるのは相変わらず。
皆それぞれにやりたい事があって、アクティブに行動するのは悪い事じゃない。
自分も早速屋台に行きたかったが、自分を街の外に誘っている者がいる。
うっすらとした霧が自分にかかり、街の外に誘導してくるので、先にそっちを片付けなければならないだろう。
謎の瓦礫がそこら中に散らばる荒地、起伏も大きいし何があった場所なんだろうか?
何となく古代遺跡の発掘地点っぽくもあって気になるところだが、今は霧の相手。
他人の来なさそうな起伏の陰、丸太が二つ置いてあるなと思ったら、頭上から声がかかる。
「聞いてたでござる」
「忍者の方か<万力鎖>の話?」
「そうでござる!何でやめるでござる!いつまでも<戦闘鞭>じゃこの先大変でござる。店売りのスキルを越えていく時期でござるよ!」
「うん、でも自分なりに調べたんだけど<万力鎖>って短くない?しかも両手で使う武器じゃん。片手は剣鉈で塞がってる上に、色んな道具使う自分には完全に不向きなんだけど」
「長い<万力鎖>もあるでござる!かくなる上は<万力鎖>が使いたくなるまで、拘束する他無いでござる」
一気に場の空気が緊張し、いざ戦闘かと鞭と剣鉈に手を伸ばすと、不意に霧が濃くなったと感じ、
「やあ、生きているね。着火は使っているかい?」
いつもの霧に現れる緑の服の妖魔が現れた。
「お蔭様で助かってます。ナイフパリィも何度も救われてますし」
「うん、ところで双方殺気を納めなよ。君達が争っても何も生まれないのじゃないか?」
「黙るでござる!拙者はこの者に<万力鎖>の良さを伝えねばならないでござる」
「そうやって強硬な態度を取るから警戒されるんじゃないのかい?それに彼には合わないと思うよ?」
「何ででござる?」
「彼はステータスの力を育ててないだろう。拘束は武器のBINDとステータスの技で成功すると思うけど、次の行動で相手が拘束から抜け出そうとすれば、力の差で簡単に抜けられてしまうだろう。この先はほぼ長時間の拘束は不能と思ったほうがいい。そうなった場合あえて鎖を使う意味はあるのかな?」
「ぐぬぬぬ、やっぱり力を育てるでござる!」
「そうじゃない。彼は技と心が高いんだからそれに合わせた物を勧めてあげるべきだ」
「なんでござる?」
「<忍術>だよ。心が高い我々に似たステータスなんだから、そっちを勧めるべきだ」
「無理でござる!分かっているでござろう!<忍術>は<妖術>をベースに作っているでござる。つまり妖魔でない者に教えても使えないでござるよ」
「ふふふ、彼は<心術>を持っているのだから<忍術>に近い術は作れると思うよ?」
「なんと!あの失敗術の使い手でござったか!ならばそれも可能でござる」
「えっと……話が勝手に進んじゃうんですけど<心術>って失敗術なんですか?」
「と言うよりヒトが心を扱うのに未熟だから未完成術って感じかな。僕達妖魔は心が生まれつき高い。だから物理手段が得意だが、じゃあ折角高い心を術防御のためだけに使って腐らせると思う?」
「いや、心の力を利用できるなら、利用したいですよね」
「そう。何故<心術>が未完成術かと言うと、術抵抗でその効力が阻害されてしまうからだ。僕達の<妖術>は阻害されない。心の力を物理の力に変えてもね」
「そんな方法が……」
「うん、武器や防具にMPを使って通すんじゃなくて、武器や防具その物を作るんだ。<妖術>自体は使い手によって多少性質は変わる。例えば忍者の彼が使う<忍術>は様々な忍具を作り出し、あらゆるミッションに立ち向かうための汎用性を持たせたものだ。逆に剣一本をひたすら鍛え上げるものもいれば、作った武器に魔物を封じて力を利用する者もいるし、ある程度自由に動く使い魔のような物を具現する者もいる」
「はぁ、それは凄いですね。自分は<忍術>が合うんですか?」
「それは当然合うでござる。薬学知識、罠知識、探索能力、解読能力、鞭のような柔らかい長物を扱い、剣鉈の様な短い刃物も扱える。<忍術>に必要な心のステータスと扱いの難しい武器を扱う技のステータス。完璧に忍者でござる。<投げる>も嵌っている様でござるし、<忍術>で作った手裏剣なら力は必要ないでござる」
「あの、さっき言ってた拘束時間が短くなるって言うのは?」
「うん<戦闘鞭>のままだと確実に拘束時間は短くなる。拘束用の鎖や縄を具現化して心の力で縛れば、状況も変わるだろう。君は<治療>する時間を稼ぎたいんだろ?」
「そうです!ところで何でそんなに自分に詳しいんですか?」
「調べたからだよ。なんでこんなに<忍術>に詳しいと思う?」
「あなたも忍者だから……でも格好が忍者じゃない……」
「潜入工作情報収集を仕事にしている忍者が、忍者の格好をしていると思うかい?」
「思いません。って事はあっちが偽者!」
「違うでござる!潜入工作なんていう時代ではないから、忍の技術を伝える相手を探しているだけでござる!」
「そうだね。忍の仕事は綺麗事では済まされない事ばかり、それでも何を捨てても命だけは守り、情報を持ち帰るのが忍のあり方。どうだい?<忍術>を覚え、<戦闘鞭>と<投げる>と<外衣>と<生存能>をくっつけて<忍法>に変えてしまわないかい?」
「ついでに<字術>も九字に変えて……」
「彼は遺跡探索をしたいようだから<字術>はそのままの方がいいだろう。なんなら忍刀を持った手で、<字術>を使ったほうが、格好いい」
「格好いいなら、そうしようかな~……でも装備が一気に変わるってのも……」
「大丈夫、普段の武器は今までどおりでいいんだ。ランクアップなんだから、表向きはコレまでどおり探索者。裏の顔は忍という事だ。妖者の術というのは知っているかい?」
「いえ、新しい術ですか?」
「いや、正体を隠して潜入する場合に忍が使う手法だ。君は<治療>を使えるんだ。医の専門家のふりをして、潜入する忍って言う事になる。妖者とは普通では成り代わる事のできない専門家の事さ」
「じゃあ、それでお願いします!」
「うん、君の忍道見守っているよ」
忍者服の方の師匠から巻物一つ受け取ると、霧と共に二人の姿も消える。
しかしどこからともなく忘れてたとばかりにうっすら声が聞こえてきた。
「その巻物を<心術>の師匠に渡してヒトの<忍術>を作るでござる!」




