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L.L.~迷宮人生~  作者: 雨薫うろち
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番外『定時退社』

「さて、諸君には忌憚の無い意見を述べてもらいたい。娘の事とは言えこの場にいる者は幼い頃から知っているだろうし、何よりいきなり幹部として迎える事に反対の者がいれば、この件は考えるし、反対した者にもなんら不利益を与えることはしないと誓おう」


「社長の心配は分りますが、お嬢さんは優秀だし、もっと大手や何なら外資で十分以上に活躍できるでしょうに?」


「当人の希望だ。言わずもがなの事だが、幹部も殆ど現場上がりのこの会社で何をしたいのかというと・・・」


「それは私から説明させていただきますね。おじ様、おば様方はお久しぶりです。

ごきげんよう。まず第一に私は幼い頃から出入りしていたこの会社も社員の皆様も好きですわ。

しかしこの会社は世界に通用する技術がありながら、残念ながら会社としての体制が古いままです。

そこを改善してより優秀な社員が集まり、安心して働ける環境にしたいだけですわ」


「とのことなのだ。まあ、国も働き方がなんとかと言ってくる時代だし、任せても良いのでは無いかとは思っているのだが、どうだろう?」


「会社の体制の改革となれば、秘書室で社長の仕事を学ぶとかそう言ったことでは無い訳ですね」


「古い体制ってのは要は良いことも悪いことも会社と社員皆で共有して居場所を創ろうってそういう考えの事だろう?」


「ええ、今はそうやって痛みを社員と分かち合う時代ではありませんわ。会社が傾けば、転職するのが普通ですわね」


「会社の為、仲間の為、自分が少しでも背負う為に残業したり、早朝出勤したり、休日出勤したりとか」


「がむしゃらに働いて給料を上げようとか出世しようとか、今時は出世した所で責任が増すだけだってんだろ?それどころかいくら働いても報われないっつってな」


「ええ、皆様は社員をとても大事に思っている事は知っていますわ。私も会社とは人だと思っています。だからこそ、社員が働きやすい環境を創りたいと思っています」


「ふっふっふ、そうか!それはすばらしいですね!流石お嬢さんだ!」


「ああ、全くすばらしい考えだと思うぜ」


「そうですね、じゃあまず一人『定時退社』させて欲しい社員がいます」


「ああ、あいつか、そうだなさっき例えで上げた事全部網羅するワーカホリック。真面目なやつだが、どうしても周りにプレッシャーを与えちまう」


「なるほど、仕事中心で他者を省みない方がいるのですね。いくら会社に利益をもたらしていても、一人の力ではたかが知れています。寧ろ左遷された方が・・・」


「そんな奴じゃねぇ!くそ!俺が最初にあいつにとにかくがむしゃらに働けなんて教えなければ!」


「いや、我々の時代は沢山働いて昇進すれば、それで良いと考えていたのは皆一緒です」


「だが、それであいつは仕事しか無くなっちまった!素直な良い奴だったばかりに」


「自分を責めないでください高橋製造部長。彼の様子にいち早く気がついて報告くれたのはあなたじゃないですか、寧ろアレだけ働いて周りの事を考えて率先して損を引き受ける男をあっちこっちへ部署移動させ未だに昇進させてやれない私が!」


「何言ってるんだ!佐藤人事部長が絶妙なタイミングで移動させてやったおかげで、会社で浮かずに寧ろ一定の評価を受けたままでいられるんだろ、寧ろその移動のおかげで、あいつは皆の部下じゃないか、誰か一人の所為じゃないよ」


「ええと?その方はどういった方なんでしょう?」


「そうだな、社内のあだ名は『スーパーサブ』全部署を渡り歩きこの会社の全てを知ってしまった男」


「人事部で、社員はお客様!顧客情報以上に大事に社員情報は扱えと言えば、全ての社員のパーソナリティを覚える男」


「どんな部署にいても最初に配属された製造部への義理を忘れず、何かと割を食う製造部に仕事後に援軍に来てくれる義理堅い男」


「営業部においては自らの手柄を求めず、後輩や新人に付いて歩きあらゆる顧客へのフォローを行う世話焼き男」


「経理部においてはルールを完全遵守し、また遵守させ、だれが相手だろうと一歩も引く事を知らず、一切の誤差が無くなるまで、原因を追究する。鉄壁の男」


「総務部じゃ、水を得た魚の如く、他の社員たちのフォローをして周る子だよ。人事部で記憶した社員情報を元に微に入り細に入り、少しでも社員が働きやすい方法を模索しながら、自分は私事を削り倒す。矛盾の男」


「ええと、その方を『定時退社』させれば良いのですね?」


「ああ、お嬢さん頼みます。我々が帰れといった所で、笑って、自分は大丈夫ですよ。と言われるだけなんだ。それにお嬢さんにとっても悪い話じゃない何せ相手はこの会社の全てを知った男」



ここは『株式会社花沢工房』


戦後「物が無いなら作ればいいじゃない」をモットーに個人の修理屋からじわりじわりと成長し、

業界では「あそこは何でも作って何屋か分らん」と言われながら、

有限会社法廃止と共に株式会社に変わったばかりの日本のものづくりを支えてきた企業である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 社長の娘、あまりの有能故に帰らない社員がいることに驚愕(笑)
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