50.霧の谷へ
のんびりと馬車に揺られてまた移動。
この時間が自分は嫌いじゃない。
昔から自分は乗り物酔いが酷く、学生時代の旅行の度に酔い止めを飲み、移動のたびにバスで寝てた。
移動中の景色の移り変わりなんて物とは無縁だった。
だからこそ、この歳になって、移動の馬車のゆったりとした景色の変化が新鮮だ。
前回はうっかり寝ちゃったけど、寝ても寝なくてもいいって言うのが精神的に楽だとも言える。
そして、山道を越えて、見えてくるのは確かに谷。
山と山の間に存在する街。
とても牧歌的で、田畑も見える。
今までの街はなんて言うか魔物のいる土地に囲まれて、皆がんばって生きてるのかな?
って感じだったけど、安定した生活をやっと見れた気がしてほっとする。
田畑の間を抜けて街中に入れば、
石畳に石造りの町並み。
この石はどこから手に入れてくるんだろうな?
「この石は片側の山が石の産地になってるんですよ!」
とココ。
流石、自分の気になるポイントをすでに把握されてるみたいだ。
そして、ココは服飾関係の工房に、モコもどこかに行っちゃう。
「私はこの前の猪肉料理しなくちゃいけないから!この辺りでは採れない猪肉だよ?売り時じゃん?」
全く、その通り!
一切ぶれずに自分の目的に邁進する若者達に、本当に日本の将来は安泰だな・・・と思ったり、
この若者達の為にも、少しでもいい世の中に!そんな気概が湧き上がる。
そんな気持ちで、石畳を真っ直ぐ歩き、
いつのまにか街を抜け、
風車が、回転する度に、霧を地面に押し付けるように風が吹き付ける。
しかし、今の自分はその押し潰してくる風すら、応援に感じる気持ちだ!
そして、突き進む!霧の中に!
なんとも無い!だから全然余裕で進んじゃう!
全然って言う言葉は、~ないって繋がる言葉だと分っていても、肯定的言葉で使っちゃう。
ふうむ、入って早々に家が数件ある。
街って程じゃないけど、町とか村って感じじゃん?
そして、ちょっと大きめの建物。
雰囲気が住宅と言うより、なんかの施設だ。
公共の場所なら入ってみてもいいかと、扉を開けると受け付けには女性が一人。
「すみません!ここって、何の施設ですか?」
「え?・・・私がヒトに見えるのはいいとして、何の施設かも分らずに入ってきて、何の施設ですか?って」
「あれ?聞いちゃまずい事でした?」
「そんな事は無いけど、ここは診療所よ。先生に用があるなら、病気のヒトとか見つけてからにしてね」
「すみません!興味本位で訊ねただけなので!また出直します」
「そう、またね」
霧の中って、もっと怪しい感じかと思ってたけど、話の分かる人ばかりだ。
遺跡があるって聞いたんだけど、なんか霧の町って感じ。
道も綺麗に均されてるし、過ごしやすそう。
そんな中、もう一軒大きな建物を見つけた。
これは・・・道場じゃなかろうか??
「た~の~も~!!」
大きな声で、呼びかけてみると、中から人形の様に綺麗に整った顔の女性が現れた。
「道場破りかしら?」
「いえ、初めて道場を見たので、お話を伺いたくて」
「そう?ここは槍の道場なんだけど?どうやらあなたの武器とは合わないみたいね」
「ああ~鞭の道場ってどこにありますか?」
「知ってるには知ってるけど、あなたに合うかしら?」
「合うとか合わないとかあるんですか?」
「そうね、特に私の知ってる道場はどこも妖魔が経営してるから、物理特化よ?」
「物理特化?」
「そう、霧の中の生き物は軒並み術耐性が高いから、物理に偏るのが私達妖魔道場の特徴ね」
「へ~自分は術に関しては<字術>と<心術>だけなので」
「そう、それなら物理を高めるのは合うかもしれないわね。ゴーレムの平原と呼ばれる場所に鞭を使う妖魔が道場を開いてるわ」
「そうですか!近いうちに訪ねてみます!ありがとうございます」
そう言って、道場を後にする。
その後も大き目の施設に片っ端から訪ねて話を聞くが、
普通に町だな。今までの街よりちょっと規模が小さいだけで、必要な物はちゃんと揃う。
そして、住んでるヒトは多分皆、妖魔。
皆人形みたいに整った顔してるもん。
真っ直ぐ奥に行けば、遺跡がある事も分ったしどうするか?アタックするか?とも思ったが、
移動してその日から全力全開で行動は、若いヒトの特権。
自分は十分に身の回りを確認すべく街に戻り、足元を固め、
大よそ自分の行動基準を決めたところで、ログアウトする事にした。




