番外『千載一遇』
-開発者B手記-
仕事が一切、手につかない。どうすれば家族との時間を再び取り戻す事ができるのか・・・。
ふふ、何を言っているのだか、一切、手に付かなかろうが次から次からやるべきことが増やされる。
やるしかない、こなす以外にない、自分はただのパソコン叩くだけの機械だ。
だってそうだろう?家族と話したい向き合いたい。そんな普通でありきたりな思いさえ成就出来ない。
労わられる訳でも、なんなら罵倒される訳でもない。ただ淡々とやるべき作業を積まれていく。
ただただ、暗い想念に囚われていく。
そんな折、千載一遇のチャンスが来た。
誰が悪いわけでもない。なんなら金額の安さだけで、他国の下請けに特典の製造を任せようとした企画の奴らが悪い。
特典製造を依頼したあげく、そのクオリティがあまりにも・・・ふふ、あまりにも酷い。
流石に特典を銘打ってコレを配ったら酷いことになる。
一応は有名老舗、こんな物配布する事は絶対に許されない。
会社の不幸を喜ぶ訳ではないが、ほんの少しの時間が増える。
自分にとっては値千金の価値を持つ、一日、たった一日でいい、家族と話し合う時間が欲しい。
居場所だけは分っている。妻の実家。
ゲーム開発は夢だったし、それを出来る今はこの上なく幸せだが、しかしそれは家族と引き換えにしていい物ではない。
いくらなんでも、この状況でいきなり特典を製造できる会社などあるわけが無い。
まだ、フルダイブVR参入を発表しただけで、発売日は未定としてある今のうちに、
内部スケジュールの延期となるに違いない。
どんな仕事でも十分な段取りと言う物が必要だ。
次の間違いを起こさない為にも、もう一度計画を見直す必要があるだろう。
そして、計画見直しの一報を待ちつつ、いつでも休みを取れるように、体に鞭打ち作業を巻きで進めていく。
しかし、それも家族に会うためならば苦ではない。
何故だろうか?同僚達も妙にやる気だ。
やたらと仕事が捗る。このペースなら、ちゃんと休みを取れるはずだ!
神の与えてくれたやり直しのチャンスに自然と気持ちが高まり、作業も加速していく。
社内の噂では、どうやら特典に関しては、もう失敗出来ない事から、
昔から取引があり、幹部同士の繋がりも強く、コンセンサスの取りやすい、とあるもの作りの会社に任せるそうだ。
しかし、一向に計画見直しの話は流れてこない。
じりじりとして日々を過ごす。
たまりかね、遂に上司に特典の件を聞く。
「我々はこうして日々予定以上の成果を上げているのに、例の失敗した特典の件はどうなったのですか?」
「は?何を言ってるんだ?」
「いや、ですから特典の製造が遅れているのに何故我々のみこうして無理なタイトスケジュールで開発を進めなければならないのですか?」
「ああ、そう言うことか、本当に今回の件で無理を言っていると思ってはいるが、これも社の為、このソフトの発売までと割り切ってがんばってくれないか?」
「そりゃあ、勿論社には愛着もありますし、がんばらないとは言いませんが、肝心の特典は、まさか後渡しになったとか・・・」
「いや、知ってるだろ、あの何でも屋の会社に頼んだの。あそこに頼んだ以上、納期が前倒しになる事はあっても遅れる事は無いよ」
「え?でも一から作り直しって聞いたのに、そんな」
「はは!お前さんはあの会社の事をよく知らないらしいな。それこそソフト開発しろといわれれば、困っちまうかもしれないが、形ある物で設計図があれば、何でも作るぞ」
「そう・・なんですか、じゃあ計画も据え置きで・・・」
「そうだな。いや皆がんばってくれてるし、前倒しの可能性もあるな。それになにしろ特典については既に目鼻が付いて、いつ納品するかって段階らしいしな。古くから付き合いのある所に無理させてうちが何もしないってのは無理かもな・・・。いやこのデスマーチから仲間を一日でも早く解放してやりたいし、打診してみよう」
「いや、皆無理してますし、どこで集中がきれるかも分りませんから、そこは急がない方が・・・それよりその取引先は一体どれだけの無理をしてくれたって言うんです?」
「あそこは昔からここぞと言う時の一体感が異常だからな。所謂昭和の『社員は家族』体質が全然抜けないんだ。特にここ最近は噂のあいつが円熟してきたとか」
「あいつって?何者です?その人のせいで、計画見直しがなされないんですか?」
「せい?見直し?まあ、いいか。そうさ取引先なら皆知ってる。仕事をする為に生まれてきたサイボーグ、ワークマン。疲れを知らず、どんな仕事でも文句を言わずにこなす・・・らしい。いつもニコニコと人当たりがいいが、逆にそれがプレッシャーを与えてくるらしいぞ」
ワークマン・・・。
サイボーグだと?こっちは家族のいる普通の人間だぞ?
くそ!そんな奴のために家族と会えるチャンスをふいにしてしまうなんて。
絶望の中、作業を進める。しかしその処理能力は格段に落ち込むのだった。




