17.目的設定
なんてこった。
思わず、床に膝をつきうなだれてしまう。
涙が留まる所を知らない。
ゲームのアバターなのに涙って出てしまうんだ。
と変な違和感を感じつつも、止まらない。
まさか、このゲームの開発者がこんな辛い思いをしながらゲームを作っていたなんて。
この楽しげな世界の裏に涙と悲しみと苦しみが秘められている事をどれだけの人が知っているのだろうか?
確かに家族をかえりみずに仕事に専念すると言うのは時代に合わないだろう。
所謂ワーカホリックだと言われ、病院に行く事を勧められかねない。
そうでなくともライフワークバランスの取り方を言われているのに、なんと会社は言い訳するのだろうか?
取引先は一応老舗の有名おもちゃメーカー、子供に夢を売る会社がそんな夢も希望もない事をしているなどと世間に知れたら一体どれだけのマイナスになるのか。
しかし、何で7周年なんだ。パートナーが社運をかけた仕事をしているなら、もう少し理解があってもよくはないだろうか?
1とか5とか10なら分るのに・・・
いや、そんな事は無いか、やはり7だろうと何だろうと大事な日だ。
結婚記念日だって冠婚葬祭だろう。なぜ有給の一つも取れないんだ?
自分が・・・自分が同僚だったら仕事を代ったのに。
自分には何も無い。いつでも誰とでも代われる。
不器用で中々合う部署に巡り合えない自分を見捨てずに根気強く、長年色んな部署を経験させてくれた佐藤人事部長のおかげで、
そして、いい年をして色んな部署に回される自分をどこの上司達も暖かく迎えてくれるおかげで、
自分は今ではどの部署でも人が足りなければ、手伝いに入る事ができる。
開発者Bさん。何とかならないのだろうか?
・・・いやここは初心者のダンジョンだ。まだ続きがあるのかもしれない。
もし、他のダンジョンの奥にも苦しみが綴られていると言うのであれば、自分はそれを確認し、
いざと言う時は例え付き合いの長い取引先であろうと抗議に行かねば。
もちろんそんな事は越権行為もいいところだし、非常識だし、よそ様の会社の事に首を突っ込むなどと碌な事ではない。
しかし、会社に社会に押し潰されそうな人が自分の手の届く範囲にいるなら、何とか出来ないものだろうか?
正面からこの状況を伝えたら、流石に開発者Bさんにも自分の周囲や会社にも迷惑がかかるだろうが。
色んな思いや考えが堂々巡りになる。
とにかく、次のダンジョンをクリアせねばならない。
そして開発者Bさんが幸せを取り戻せたのならそれでいいじゃないか。
フラフラと奥の部屋から出ると六芒星陣があることを忘れ踏みつければ、
ダンジョンのどこかの小部屋にいた。
急に周りの風景が変わり、混乱する。
土壁の狭い部屋。
ああそうかと思い出しテクニック『マップ』を使用すると、一階層の入り口すぐ近くの小部屋だった。
そのままダンジョンから出て街に戻ると少年とはち合う。
「こんにちわ、ダンジョンの方からくるなんて、遂に攻略に乗り出したんですね」
「いや、初心者のダンジョンをクリアしたところ」
「え!じゃあ、もしかして〔迷宮ボス兎の毛皮〕は出ましたか?」
「あるよ?いる?」
「お願いします!ボス魔物の毛皮は特別なものが作れるんですよ。ありがたい」
「あと〔兎のミトン〕手に入れたんだけど、使う?」
「初心者迷宮のアイテムですね。確か料理屋さんで高く買い取ってもらえましたよ?」
なるほど、売る場所によって値段が変わるタイプか。
そして、街で〔銑鉄の剣〕は武器を売っている鍛冶屋さん、
〔兎のミトン〕はパン屋さんに高く売れた。
ポーションは自分で使うとして、他の魔物の素材は冒険者事務所に引き取ってもらう。
まだ、20kには足りないので、またダンジョンに向かう必要があるか。
「初心者ダンジョンクリアおめでとうございます。探索者のクラスはいかがでしたか?もし使いにくければクラスチェンジも可能ですが」
「いや、自分はこれからもダンジョンに行こうと思うので、このままで良いです」
「そうですか、それは良かったです。ではこれからは入門探索者としてがんばって下さい」
「ありがとうございます」
どうやらダンジョンをクリアした事で認められたようだ。
「つきましては入門者となったのでクラススキルをもう一つセットできますよ」
<戦闘鞭><服> クラススキル <剣鉈><解読>
<解除><回復><看破>
<調剤><地図>
<採集><手当て>
セットできる数が増えるのはありがたいな。当面はこんな感じかな?
「それでは、がんばって下さい」
「あれ?パンと水は?」
「あなたはもう初心者ではないので差し上げられません」
「自分はまだまだ知らなければならない事が多いので初心者です」
「残念ながらあなたはもう入門者です」
どうやら、早急に食事を手に入れる方法を探さねばならないらしい。
でなければ〔体力溢れる兎汁〕しか食べるものが無い状態になってしまう。
飲み物と主食が無いなんて、健康に悪いじゃないか。
健康あってこその仕事、そして冒険だ!




